1 初めての戦争(3)

「一旦、静かにしましょうか。」


セルズがそう言うと、全員が黙った。その様子を確認して、セルズは続ける。


「同盟軍が一部ですが援軍として来てくださいました。状況を好転させるためにも、情報共有と作戦会議を行います。…現状の説明を。」


直属の部下と思しき人が、話を引き継ぐ。


「現在、アルディス軍約14000人に対し、魔国軍約2000人となっています。損害はこちらが6000人ほど、敵軍は推定500人ほどで、従来の戦力比で換算すると大きく負けています。」


従来の戦力比とは、マギア族1に対しヒュム族5で拮抗する、という計算式を指す。もちろん時代の戦術や個々の力のバラつきによって多少の不整合は出てくるものの、現代の戦術では大きく間違ってはいなかった。それで行くと、元々ヒュム族20000人に対しマギア族が2500人=ヒュム族12500人分の戦力となり、負けるようには見えない。

しかし現実はそうではないということは、つまり問題が発生しているということだった。


「こちらの10隊のうち3つの隊は、敵の魔法具と思われる弓矢の攻撃によって軍団魔術師を射抜かれ、そこから大規模魔法によって壊滅しました。魔法具の弓矢を使用しているのは魔国軍の第3軍団長と思われます。第4軍団が軍団長とともに突撃して軍団魔術師を孤立させ、魔法具の弓矢で射抜く戦術により、1週間で3隊を失う結果となっています。それ以外の戦闘ではこちらが優勢に進めているものの、全体で見ると劣勢の状況です。」


そしてセルズ自身も状況を説明する。


「ワルド軍の騎兵団が先行して駆けつけてくれましたが、2隊のうち1隊は同様の戦術で壊滅したと思われる。歩兵隊6隊が合流すれば負けは無いと思われるが、このままではこちらの損害がかなり大きくなるのは間違いない。状況の説明は以上だ。何か質問はありますか?」


トルオラ副隊長が挙手した。


「その軍団魔術師を射抜いたという敵の弓矢は、どのような性能なのでしょうか?」

「威力の向上に加えて対象に向けて誘導する機能があるらしいですね。しかも魔力遮断結界の内部で誘導しているところを、1度だけですが観測手が遠見の魔法で確認できたようです。必要な魔力量はかなり多いようで1度放てば半日は使えないようですし、矢も回収していたため矢にも制限があるようです。制限の多い魔法具と言えますが、それに見合うだけの効果を持っているということでしょう。」

「対策をお聞きしても?」

「いくつか選択肢があります。一つは、軍団魔術師が倒されても大規模魔法を守れるようにすることです。例えば、一つの隊に複数の軍団魔術師をつけるか、魔力遮断結界が知られるようになる前の方法…対魔防御壁を多数の低級魔術師で貼る方法です。もう一つは、軍団魔術師を倒されないようにすることです。例えば、軍団魔術師の前に複数の盾持ち兵を並べて何人か抜かれても矢を耐える、敵の矢とタイミングを合わせて強固な対物防御壁を貼る方法、あるいはそれらを組み合わせた方法などです。ただし、それを崩すのを狙って敵の第4軍団が突撃してきていますので、強固に守る必要があります。」

「分かりました。ありがとうございます。」


ドワーフ達はまともな魔法が使えるほどの魔力量は無いことがほとんどであるため、かなり方法が限られている。しかし防げなければ少なくとも騎兵団は殲滅させられる恐れがある。ヒュム族…アルディス軍側の現在の対策を聞いておきたいところだったが、トルオラはそれを後回しにした。おそらくそれ以上の問題があるから、トルオラ達が入ってくる前に会議が紛糾していたと推測された。トルオラが考え始めたと同時に、呆れたような声が上がった。


「もう良いだろう。とっとと低級魔術師をたくさん連れてくることだ。タダ飯食らいを有効活用してやるのだ。喜ばれるだろうて。」


貴族位、あるいはその血筋の者と思われる尊大な物言いだった。実際服装は小綺麗というか、軍としては過度に豪華な服装だ。


「アルバート殿、その物言いはいかがなものかと思いますね。ここにはワルド軍の方もいらっしゃるのですよ?」

「セルズ殿、いやアルディス軍ドラン城守備総責任者殿がそんな弱腰では困りますな。最も有力な策でしょうに、それを素直に実行できないとは。嘆かわしいですな。」


そうやって言い合いになると、さらに他家の者が加わってくる。


「流石ですなあ、やはり上級魔術師を多く抱える家の方の仰ることは違いますな。さぞ上級魔術師が大事とお見受けします。」

「何が言いたいのかね?」

「いえ、なに、簡単なことですよ。ここにいる者達は既に何人かは上級魔術師を軍団魔術師として戦場に出している。それでも苦戦しているというのに、余裕たっぷりのアルバート殿が上級魔術師を出されないのは不思議だなあと思っておりまして。」

「度し難いな。貴様の家の格で私の家に物申せると思っているのか?」

「おや、申し訳ございません。そのように聞こえましたかな。ですが、周囲の者も同じように思っておると思いますし、アルバート殿ご自身も分かっておられるのでは?」


それを聞いて、何人かの貴族家のものは同意したように頷く。一枚岩でも無いし、上下関係も拮抗は出来るほどの家の数が揃っている様子だった。これでは議論は進まない。


「盾持ちを増やすのはどうか」

「近隣で兵を追加で募集せねばなりませんな」

「あの家はいつも兵を出すのを絞っている。上から言ってもらえないだろうか」


そんな声で騒がしくなり、会議は長く続く様子になってしまった。

会議の参加者から一通り意見が出きったところを見計らって、セルズは机を叩いた。


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背景紹介3「アルディス連合国」

世界の南部から西部にかけて、最も広い領土を持つ大国で、ヒュム族が住んでいる。南側は海があり、西側には崖のような山がある。国土の中央から東と西に伸びる領土を持つ「アルディス国」が最大領土を誇っており、ここ数100年はアルディス国を中心とした連合国として成立している。よってアルディス国国王が、必然的にアルディス連合国の国家元首となる。多くの川が流れる平地であり、農業が盛んで人口が多い。魔法の利用も得意であり、農業や治水に活かすほか、魔法具の生産も盛んである。

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