1 初めての戦争(4)
「…良い加減にしてもらいましょうか。」
バン!という机を叩いた音で、一瞬で場が静まり返る。
セルズは周りを見渡してから続ける。
「かつて我々の先祖は、神が降臨なされたのち、この地をヒュム族のものとされました。そしてそれ以降、このゼアム川を国境として、魔国の手からずっと我が国を守り続けて来ました。それなのになんという体たらくでしょうか。15年前に一度大きな被害を出した上でなお、みなが自分の領地の事しか考えていないとは。こうなっては致し方がないですが、強権を使わせていただきます。」
場にザワつきが起きる。しかし、セルズの部下達は動揺していない。つまり、こうなることは分かりきっていて、ワルド軍に『見せる』のが目的だったのだろう。
格を下げてでも、事情を理解してもらう方を選んだ。
「あなた方にどのような事情があるかは、推測はつきますが、このドラン城を任された私には関係のないことです。」
そう言って間を置く。
(彼らも貴族の子弟だ。だから自分の地位や権利を維持できなければやっていけないのだろう。おそらく貴族本人から小間使いのように扱われた上で『上手くやれれば良い暮らしをさせてやる。しかし我が領地の損失となれば…』などと言われているのだろう。)
「この城を守りきれなければ多くの被害が出ます。なので私には国王様より直々に強権が与えられています。ご存知の通り、それは各領地への徴兵の権利です。アルバート殿、そちらからは上級魔術師を2人、出していただきましょう。」
「なんだと!?」
「逆らいますか?それならそう国王様に報告するだけですが…」
「ぐっ…、他の領地も同等の徴兵をなさるのでしょうな?」
「もちろんです。順を追って指示いたします。」
「分かりました。調整には口を出させてもらいましょう。」
「では、次は低級魔術師の徴兵ですが………」
そうやって時間が過ぎて、気づけば外は暗くなっていた。ワルド軍は結構な距離を馬で駆けつけ戦闘に臨み、激戦を終えてこちらに来たところなので、マグディスはもうフラフラだった。会議が終わってセルズが声をかけてくる。
「お時間をおかけしました。これが我が軍の実態です。ご容赦ください。」
セルズは頭を下げる。本来なら、この話は第一隊隊長が受ける筈だったが、既にいないため仕方なく隊長が応じる。
「分かりました。まずは敵を退けてから。後の事はその時に考えましょう。」
「我が国にはそういう考えの者がほとんどおらず…お見苦しいところをお見せしました。」
「貴族の内面は難しいというのは分かりますが、こうなると大変ですな。」
「ええ全く。ワルド軍の皆様はちゃんと目標に向かって下さるので、いつもありがたい限りです。」
「なるほど…。これもある種の"種族差"かも知れませんな。」
隊長も疲れているため、口調が崩れているが現時点で国家の代表だった。文句を言う人はいない。
その後、少し会話してから、食事をして眠りについた。翌日に備えて、短い休息時間にやっとありつけたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
背景紹介4「魔国カイゼアム」
アルディス連合国の東に位置し、南は少し海、東は広大な砂漠となっている。アルディス連合国との国境は、ゼアム川という大河で切り分けられている。ワルド共和国とは国境を接していない。土地の多くは湿地帯や沼地が占めていて、農業は成立しにくい。特産品と呼ぶべきものもない。
国としては1つであるものの、住んでいるのがマギア族ということもあり、犯罪が横行し取り締まるものはほぼいない。むしろ暴力沙汰に至っては取り締まるべき官憲側が行なっているものであるから、当たり前になってしまっている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます