1 初めての戦争(5)
「皆の者、英気は養えたか?まだマギア族どもは諦めていない。おそらく敵の戦略目標は我々や同盟軍の軍団魔術師の排除であり、今回の戦争だけではなく今後を見据えた攻撃ということだ。マギア族どもは性格が短気ではあるが、頭が悪いわけではない。心してかかれ。」
朝早くに起きて、敵を待ちつつ隊長が鼓舞を行う。また戦いの朝が来てしまった。
「我々の戦術は変わらない。軍団魔術師を守りつつ敵の数を減らせ。そして奴らの戦力を使い物にならなくすること、それが最も重要なことだ。昨日、第一隊に放たれた矢は、今日はこちらに飛んでくるだろう。しかし恐れることはない!我らが軍団魔術師を守り、軍団魔術師が皆を守る。そして皆で敵を撃破するのだ。我々の力はそのためにある!」
「「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」」
隊長の言うことは根性論かもしれない。しかしそれで良い。力ある者の有無を言わさぬ断言が、今は必要だった。
皆が気を引き締め直した。
(また戦いの1日が始まる…)
マグディスの心境は複雑だった。敵が狙っているのは、マグディス含む軍団魔術師だ。しかし、それに対する明確な対抗策を打てていない。ドワーフ族より魔法が得意なヒュム族でさえそうなのだから、ドワーフ族が打てる手はほとんどない。
(でも、今日を耐え凌げば歩兵隊が到着する筈だ)
覚悟を決め直す。その手は震えていたが、誰も責めるものはいない。
そして銅鑼の音が遠くから聞こえてくる。
「奴らが川を渡り始めたぞ!決戦の時だ!」
また戦争が始まった。
ワルド騎兵隊はアルディス軍の左翼の遊撃隊として展開している。対して魔国軍は薄く広く展開しており、しかし右翼には第四軍団長クルド・ロビウスの姿があった。
クルドは昨日、魔法具の武器…魔法武器を壊され、予備の魔法武器も無かったため、まだ日の高いうちに撤退せざるを得なくなり、後方から弓矢と魔法で支援していた第三軍団長シュウ・イモールから叱責を受ける失態を演じた。魔法武器は高価であり、かつ魔国カイゼアムには魔法具を作るノウハウが無かった。現在使っているのは15年前に盗んだものであり、数に限りがあって予備を持ち出せなかった。
「ちっ、昨日のことを考えると落ち着かねえぜ…早くぶっ飛ばしてやらなきゃなあ…!」
昨日、奴隷に八つ当たりをしたものの、おさまらない怒りが溢れ出しそうだった。
「テメエらが、まともに怪我したか武器が壊れた以外の理由で逃げたら、俺が直々にぶっ殺す。分かってんだろうな?死ぬ気で敵を抑えろ、シュウの奴の矢で敵の結界を壊したら勝ちだ。それまで敵を殴り続けろ、簡単だ!さあ、殴り込みに行くぞ!!」
「「「オオオオオ!!!!」」」
怒りを声と言葉でぶつける。マギア族にしてはアンガーコントロールが上手なのは、魔国の軍団長には必須のスキルだ。
かくして、マグディスの戦争の第2ラウンドが始まった。
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背景紹介5「クルド・ロビウス」
魔国軍第四軍団長。叩き上げの軍人であり、若いながらも早くに軍団長まで上り詰めたエリートである。魔国軍の軍団長になるには、筋力や魔力などの戦闘能力が他者より秀でているのは当然として、軍団長としての冷静さを兼ね備えていなければならない。マギア族自体が短気な性格であり、冷静さを持っているだけでも一握りの選ばれた人間であると言える。
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