1 初めての戦争(6)
ぶつかり合う剣戟を見ると、ヒュム族は部隊ごとに、マギア族は個人個人で使用する武器が異なっているのが分かる。マギア族は基本的には盗んだ武器なので当然だが、ヒュム族は領地ごとに兵を出し、それぞれ渡す武器が違うためだ。
お金の無い田舎や一部地方都市ではもっぱら槍が使われ、マギア族を近づけないように頑張っている。一方、お金がある都市では短弓と剣を組み合わせ、確実にマギア族を減らしにかかっているところもある。各領地によって、出してくる兵とその練度は異なる。なお、槍を使っていても隊長格は帯剣していたり、その辺りも様々である。
しかし、兵のほとんどは基本的には食い扶持に困るような者たちなので、そこに金をかける事が可能な家は一握りだ。そして盾については、マギア族相手では木製などの生半な盾では意味をなさない事が多く、よって一部に隊長格が金属製の盾をもってはいるが、非常に数が少なかった。その盾持ちを軍団魔術師の周辺に数名配置すると言うのは、実はそれだけでも盾の数は足りないのだった。
ドワーフ族はと言うと、持ち前の製造技術と武力…筋力で魅せるという種族柄故か、騎兵隊も剣で武装しているが、やはり盾はない。歩兵隊の隊長格であれば所持しているが、機動力の高い騎兵には武装の軽さがある程度必要であり、盾を持つ余裕は無かった。
じゃあマギア族の戦術への対策はどうするのかというと、精鋭を軍団魔術師マグディスのいる中心部から前方に集結し、突破されることを防ぐ作戦だった。矢に対しては切り落とすか剣で受けるしか無いが、敵も1日に2射しか出来ない攻撃を突破もせず打ち込むことは無いだろう。そう考えて、突破を防げれば戦えるという判断だった。
「野郎ども、突っ込むぞ!」
「敵が来るぞ、迎え撃てぃ!」
左翼に展開していたワルド軍も戦闘に入った。隊長が先陣を切る部隊どうしであるため、隊長どうしが切り結び始めたのは必然だった。
昨日と同じであれば、ワルド軍側はじりじりと後退させられながら戦線を維持、その間に敵兵を削る。
その筈だった。だが、想定外はいつだって起きる。
かなりの速度で魔国軍第四軍団長クルドが突っ込んで来ている。
最も武力に優れる隊長が正面に位置し、他の者が周囲を囲んでいるのに、止められない。
マグディスの所まで辿り着くのは時間の問題だった。
「俺様を甘く見やがったな、貴様らあああァァア!」
「ぐっ!!?炎が強過ぎて近づけんとは!!」
昨日よりハルバードの先から出る炎が、3倍くらい長く吹き出している。人1人を飲み込めそうな程の炎だ。
このハルバードは、昔、『ヒュム族が1人でマギア族に対抗するために』作られた武器である。マギア族が使えば相当な脅威であるのは間違いない。
それこそ、ドワーフ族が相手にならないほどに。
「昨日は手加減してやがったな!この野郎!」
「長期戦のオーダーだったんでね、お前ら如きはあれで十分だったんだよ!だが今日はアイツを潰させて貰うぞ、ドワーフども!!」
無理して剣を前に出せば力で弾かれる。剣を出さねば炎が迫ってくる。隊長は無抵抗に下がるほかなく、クルドついにマグディスの元に辿り着いてしまった。
「昨日はよくもやってくれやがったな…!」
「こっちだって必死なんだ!負けられるかよ!」
クルドの恨み節に応えるマグディス。本気に、それこそ殺す気でかからなければ正気はない。応じながらも活路を探す。
しかし炎を撒き散らしながら追いかけてくるクルドに対し、背を向けないようにしつつ馬で逃げ回るしかない。騎乗していなければ既に勝敗は決まっていただろう。
しかしマグディスが遠くまで逃げてしまえば、軍が魔力遮断結界の外側に取り残される。そうなれば、敵の大規模魔法により多大な損害を受ける。本末転倒であり、よって追いつかれるのは時間の問題だった。
(どうしたら良いんだ!!?)
考えられる時間は残り少ない。少ない中で知恵を絞る。クルドの様子を見ると、恐らくハルバードに昨日よりも多くの魔力を流し込んでいると想像できた。
マグディスにとっては予想外の早い接敵だったために、気付くのが遅れてしまっていた。
(こっちも魔力を込めれば…)
魔力を多く流して剣を振るってみる。しかし炎を切っただけで、結局こちらに火の粉が飛んで来た。
「無駄だなぁ、オラオラどうしたぁ!!」
さらに踏み込んでくるクルドをから逃げようとして、マグディスは落馬した。
「うっ!!」
「こりゃあ、神代の弓も要らなさそうだな」
そう言いながら近づいてくるクルドに対し、マグディスは思う。
(なんでこの剣には属性が、効果が無いんだ…?)
そう。昨日はこう聞いた筈だ。
『魔法具の多くは武具ですが、それらは全て、魔力をこめれば頑丈になります。例えば魔力をこめたら火が出るのなら火属性の魔法具と言えますが、それと同時に通常の武器よりも硬く、打ち合いに強くなるのです。君は頑丈になり切れ味が上がると言いましたが、普通はそれ以外の効果が出るものなのですよ。』
分からない。
分からないが、簡単に死ぬわけにはいかない。
やってみないで殺されるわけにはいかない。
(あいつの炎みたいなものが生み出せれば…!)
そう思った瞬間だった。
人10人分…地球の尺度で言えば15メートルにも及ぶ炎が、剣先から吹き出した。
「な、なんだと!!??」
クルドも、周囲の敵味方問わず、思わず硬直する。
いきなり太陽が出現したかのような熱気に包まれ、その方向を見れば炎の大剣が上空に向かって伸びているのだ。
近くにいたならともかく、少しでも離れていれば敵の攻撃か味方の攻撃か判断がつかなかった。
そして炎の大剣が振り下ろされた。
「喰らえええええ!!!」
マグディスにも、何が何だか分かってはいなかった。
だが、すべきことははっきりしていた。
目の前の敵を排除する。
ただそれだけが今考えるべきことだった。
だからそうした。
そして、それはクルドも同じ。
何が何と分からずとも、死を意識させられるからこそ、ハルバードを振り上げる。
「クソオオオオおおおお!」
炎同士がお互いを打ち消すようにうねる。
押し勝つのがどちらかは分かり切った話。
その炎がハルバードを呑み込んで…【消えた】。
その光景を見た直後、マグディスの意識は途絶え、ワルド軍騎兵隊は帰還した。
まだ午前中の、正午より前の時間だった。
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背景紹介6「魔力遮断結界」
十数年前にヒュム族の上級魔術師が開発した魔法。範囲と効果時間を最初に決定して、その分の消費魔力を一度に消費する。以降、効果時間が切れるか、軍団魔術師が命を落とすまで効果が持続する。
結界を通過する全ての魔力を消滅させる効果がある。その効果の関係上、この魔法でも打ち消せないような凄まじい魔力を持つ魔法でなければ壊すことはできない。そのような魔法は史実上確認されていないため、実質敵は消すことができない。
ワルド共和国は同盟国なので教えてもらっている。
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