1 初めての戦争(2)
「マグディス、良くやってくれた。だがすぐ動くぞ、馬に乗れ。」
一撃を返す事に成功したが、しかしマグディスは疲労困憊でもはや魔力も気力も切れかかっていた。隊長に指示された通り馬に乗って、アルディス連合国の陣地に帰還した。
敵であるマギア族達が引いていったが、深追いはしない。それは非常に合理的な判断だった。そもそもの話、この戦争はいつも防衛戦である。マギア族の住む『魔国カイゼアム』は、その土地の多くが湿地帯で農業には向いていない。彼らはいつも略奪の為に隣国であるアルディス連合国を襲撃していた。
アルディス連合国も昔、優勢だった頃にはマギア族を殲滅する案もあったが、湿地帯故土地を手に入れるメリットが小さく、そして何よりマギア族の気性の荒さからそもそも軍を駐屯させることが難しいと言われてきた。
よって、昔からずっと、国の境にあるゼアム川から出てくるマギア族に対し専守防衛が行われてきた。しかし、だんだんと旗色が悪くなってきており、15年前には防衛線を大きく突破されたこともあった。そんな悪夢を繰り返さまいと、アルディス連合国はドワーフの国『ワルド共和国』との間で強固に同盟を結んでいる。
マグディスはワルド共和国およびワルド共和国軍に所属しているが、戦争の拠点はアルディス連合国の城となる。
援軍の要請を受けて騎兵隊2部隊と、歩兵隊6部隊の計8部隊が揃えば確実に魔国カイゼアム軍を押し返せる算段だった。…先行して援軍に来た騎兵隊のうちほぼ半数は撃破されてしまったが。
「っと、到着したな。俺と副隊長、それとマグディスで報告に向かう。後ほど、アルディス軍から人を寄越してもらって休む場所を指示させる。それまで他の者はここで待機せよ。」
味方拠点であるドラン城に着いたが、ワルド共和国軍は同盟軍であって本国の城ではない。よって報告と指示を仰ぐのは当然だ。門の近くに兵士を待たせ、マグディス含む3人は城内に入っていった。
城内にいた兵士に連れられて、作戦室の入り口で待つ。中から出てきた人物は、軍服としては少々華美な、整った服を着ていた。
「よくぞ駆けつけてくれました。私はアルディス連合国軍総司令官のセルズ・ドランです。よろしくお願いします。」
「私はワルド共和国軍騎兵団第二隊隊長のコール・ランディスと申します。こちらは我が隊の副隊長と軍団魔術師になります。よろしくお願いいたします。」
隊長に紹介され、副隊長とマグディスも頭を下げる。
「そちらの軍団魔術師は、魔法鍛治士をしているとの噂の者ですか?」
「ご存知でしたか。マグディス、挨拶せよ。」
「お初にお目にかかります。ヘムト侯の養子で魔法鍛治士と軍団魔術師を兼任しております、マグディス・ヘムトです。」
そう言ってマグディスは再度頭を下げた。ドラン伯爵と言えばアルディス連合国だけでなくワルド共和国でも有名だ。最前線で常に戦い続ける土地を持つ、とても軍律の厳しい英雄の家なのだ。その血縁者が総司令官をしているのはむしろ自然で、侯爵位のしかも養子であるマグディスがへりくだるのは自然だった。
「その腰の剣はもしや…見せてもらっても?」
「構いません。どうぞ。」
マグディスは腰の剣を鞘ごと差し出した。セルズはそれを受け取って、ゆっくりと剣を抜いた。
剣の腹は鈍い色合いをしているが、そこに内包された魔力で剣が輝いているように見える。
「これは…ふむ。剣として鋳造品でない業物のようですが、魔法具としても相当な魔力量に見えますね。君が作ったのですか?」
「はい。剣については義叔父が鍛治士でして、作り方を教えていただきました。魔法具としては私の独学になります。」
「なるほど。我が国の魔法具でもここまでのものがあるかどうか…。効果を聞いても良いですか?」
「効果ですか。頑丈になり、切れ味が上がるだけでございます。」
「…まさか、無属性なのか…?」
「無学で申し訳ありません。無属性、とは何でしょうか。」
「そうか、属性を知らないのですね。なるほど、ワルド共和国で育ったのなら無理もありません。時間は多くは無いから手短に教えましょう。魔法具の多くは武具ですが、それらは全て、魔力をこめれば頑丈になります。例えば魔力をこめたら火が出るのなら火属性の魔法具と言えますが、それと同時に通常の武器よりも硬く、打ち合いに強くなるのです。君は頑丈になり切れ味が上がると言いましたが、普通はそれ以外の効果が出るものなのですよ。」
「なるほど、頑丈になる以外の効果が無いから無属性ではないかとお考えになったのですね。」
「そうです。魔力の多寡に関わらず、人は通常、何らかの属性に魔力が偏っています。よってこの剣が無属性なのは、何か特別な理由がありそうですが、その様子だと知らないようですね。」
「申し訳ございません。」
「なに、謝ることはありませんよ。良いものを見せてもらいました。ありがとう。」
そう言って剣をマグディスに返すセルズ。理由が分からないことが少し残念そうではあるが、仕事もしなければならない。顔を引き締め直して隊長に言った。
「さて、では報告を伺いましょう。」
「了解しました。トルオラ、報告を。」
トルオラとは副隊長の名だ。ワルド共和国軍は隊長は大概最前線にいるので、指揮は副隊長が中心だった。よって報告をするのも受けるのも副隊長が多い。隊長には強さが第一に求められ、軍の強さを引っ張る責任があるが、副隊長には頭脳と判断力が優先的に求められている。
「はっ。我らワルド共和国軍は、歩兵団6部隊と騎兵団2部隊で一昨日に出発し、騎兵団がここに駆けつけたのが本日、歩兵団は明後日の到着予定となります。本日分の戦闘報告ですが、騎兵団第一隊が壊滅、第二隊はこちらに帰還しました。第一隊はおそらく軍団魔術師が倒された所に大規模魔法が直撃したものと思われます。第一隊の残存戦力は第二隊に合流しています。第二隊では、敵将の武器を叩き折ることで撃退に成功しました。敵の損害はおそらく80人と言った所でしょう。」
一部隊がおよそ500人程度なので、およそ300人程度の騎兵を失った計算だと副隊長は推測していた。それと敵80人だと、割に合わない引き算だった。
つまり、劣勢ということである。
「報告ありがとうございます。こちらの情報が何らかの理由で伝わっていなかった様子ですね。こちらの情報は作戦会議でお話ししますが、先に質問しておきます。敵将の武器は何でしたか?」
「はっ。刃先から炎を出すハルバードでした。」
それを聞いてセルズは思う。
(マグディス君の剣はやはり使用中の魔法具を叩き切っていたのか…。あの内包魔力、一体どれほどのものになっているのか。属性と効果が発現したら、大変なことになるかもな。)
「………ありがとうございます。それでは、作戦会議に合流しましょう。」
そう言ってセルズは扉を開け、喧々諤々とした部屋の中へマグディスも入っていった。
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背景紹介2「ワルド共和国」
ドワーフ族が住む国。3人の『大公爵』が国を治めており、国家元首としては数年単位で交代する。世界の北西を領土とし、北と西は山と森に囲われている。山や森の先に何があるかは知られていない。山から算出される金属は豊富で、武器や農具、工芸品はアルディス連合国へよく輸出されている。農業としてはイマイチな土地柄と、長らく続く戦争の影響で馬などの軍事力を売り込む一面も持っている。
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