7 反乱の狼煙(1)
朝食を終えたあと、ルーベン邸内の会議室では、アルディス王国側とルーベン側に別れて座っていた。
アルディス王国側にはコール隊長やケイト、モーリーも座っている。ルーベン側にはケルト、カルナックの他、軍上層部の面々が座っていた。
緊張感を感じるような、そうでないような、不思議な感覚をマグディスは覚えた。
「現在、我が領土内の一つの村全体が、反乱を起こしている状態となっております。村の入り口付近は細い崖となっており軍隊の侵入は難しく、しかも入り口の門を増強して籠城しています。」
軍部の中では若い、おそらく今回の面子の中では最も下位の者が説明を行っていた。ケルトが追加で説明を加える。
「反乱自体はこれまでにもあった事ですが、村一丸となったことなどありません。狙ったように鎮圧の難しい村であることと、門を増強する知恵が回ること。この点も踏まえ、私達はこれが敵国の煽動であると疑っています。」
「なるほど、分かりやすいですな。」
コール隊長が応じる。軍のことは、やはり軍属の者が応じるのが望ましい。
「状況は分かりましたが、どこまで対応できるかは相談せねばなりません。目標はおありですかな?」
「最低限の目標は、反乱の完全鎮圧です。可能であれば、死傷者を可能な限り少なくすることです。」
「首謀者の捕縛は不要ですかな?」
「いえ、それは最も優先度の低い目標ではありますが、可能であれば、といったところです。」
「ふむ。分かりました。…メリア嬢、こちらからの要求はありますかな?」
「無いわ。今回の話は友好国に対する謝罪と、関係性の強化だから、無償なの。」
「なるほど。マグディスからは?」
「私からもありません。お世話になっているアルディス王国から無償という話なら、私から要求はできません。」
「あいわかった。…こちらはそういうことです。ルーベン殿。」
「むしろ有償であった方が、色々要望もできるのですがね。作戦はそちらが決めるということでよろしいでしょうか?こちらではマグディス様の『強さ』を測りかねますので。」
ここで言う『強さ』とは、マグディスの秘密のことだろうとは皆が理解していた。
「もちろん。可能な範囲で構いませんので、その村周辺の地図をいただけますかな?」
「ここにご用意しております。お使いください。それでは、こちらは席を外しますので、方針決まり次第、部屋前の廊下から見える位置に使用人を待機させますので、そちらへお声かけください。」
ケルトがそう言うと、軍部から地図を手渡させ、そしてルーベン側の面々は退出していった。
「凄いなこの村…どうやって外とやり取りしているんだ?」
「この細い崖の道だけで荷をやり取りして、後は基本的に自足自給なのでしょう。かなり曲がりくねっていますから、おそらく坂になっているかと。」
「そういう点も、今回扇動の対象として選ばれた理由なのでしょうな。」
ふと、マグディスはメリアが静かに集中していることに気づいた。
「おい、メリア、どうし…。」
声をかけようとしたら、魔力が体を通り抜ける感覚がした。
「はい。これで音声遮断結界を貼れたわ。自由に喋れるわね。」
「そんなこと準備してたのか?」
「話しやすいでしょ?今後もこうする必要が多いかと思って、練習していたのよ。それに、私は前線に出ることは基本的に無いでしょうから、魔力は余ると思うし。」
「まあそういえばそうだな。」
本題に頭を切り替える。
「目標はどこに設定しようか?」
「やっぱり、標的の捕縛まで行くべきよね。無償だからと言って手抜きしたら、今後に響くわ。」
「そこは私も賛成です。マグディス様でしたら、おそらく可能かと。」
メリアだけでなくケイトも、今回の依頼を全解決することに賛同した。
「そうか…。一応、今はコレで考えていたんだけど、捕縛までは難しいかもしれなくてね。」
そう言って魔法書のとあるページを見せる。
「ふむ。適切な魔法のようには思えるな。足止めは容易そうだ。問題は、標的がどこにいるかを前もって知っておかないと、効果範囲が絞れないのではないか?」
「そうね。そこは私が調べるわ。」
「いや、もう一つ問題があって。これを発動中は、味方も足止めしちゃうんだよな。当たり前なんだけど。」
「それは…、モーリー、アナタにその時はこの指輪を貸すわ。壊したり無くしたら承知しないわよ。」
「はいっ!?そんな大役、私で良いんでしょうか?」
「というか、モーリーしか適任がいないんだよ。俺はずっと魔法を使い続けなきゃならないし。武装した相手にメリアを近づけるわけにもいかないし。隊長とケイトさんは捕縛をしなきゃならない。その間のメリアの護衛はルーベン軍に頼めばいいからな。」
「わ、分かりました。目立ちませんか?」
「目立つだろうな。でも、俺の魔法具と言っておけばとりあえず深くは突っ込まれない筈だ。仕事の後で、こっちが探られたく無いと分かっている腹を、味方になりたい向こうが探りに来ることは多分ないだろ。」
「そうですね、分かりました。」
「ルーベン側には捕縛まで、見えない細道でメリアと一緒に待機してもらおう。皆もそれで良いか?」
全員頷く。
「もしも時の対応も協議しておくぞ、マグディス。」
「確かにそうですね、隊長。」
そこから、魔法が効かなかった場合や、標的が想定よりも奥深くにいた場合の対応なども協議していった。
「よし。魔法が効かなければ、俺が魔法剣で炎を出して威圧する。この場合は正面突破になるだろう。ルーベン軍と共闘だ。標的が奥深くにいた場合は、メリアに先導して貰って強襲を仕掛ける。標的が見つからなかった場合は当初の予定通りで進めて、後から標的を探すぞ。それで良いか?」
また全員が頷いた。
「じゃあ、ケイト。ルーベンの皆さんを呼んできてちょうだい。」
「了解しました。」
メリアが音声遮断結界を解いて、ケイトがルーベン側の面々を呼びに行き、再度会議室に人が揃った。
「それで…どうなりましたかな?」
「決行はなるべく早くに。目標は、敵首魁…この場合、煽動者ですか、の捕縛となりました。」
声こそないものの、少し会議室がザワついた気がした。
「…そうですか。」
「こういうのは早い方が良いと思います。どれくらいで村まで着きますか?」
「丸一日程度はかかります。ですので、話をお聞きしながら向かうということでよろしいでしょうか?」
「分かりました。」
「よし、ではすぐに軍用の馬車を準備し、出発しましょう。計画は道中で聞くので、まずは出発を。」
全員立ち上がって、マグディスたちは軍人の案内に従いつつ、馬車に乗った。
馬車内でマグディス達は説明を行った。
「後方で待機しておけ、ということですか。」
ルーベン軍の上役が不満そうな言葉を漏らす。
「我々の作戦が全てうまく行くとは思っておりません。よって後詰をお願いする形となります。しかし、我々の作戦が上手くいかないとも思っておりません。向こうはこちらの情報をほとんど持っていないはず。よって、早期に決着をつけます。そのためには、大軍で移動するよりも少数の方が都合が良いですし、立地も大軍が移動するには向きません。だからこそ、我々が呼ばれたのだと思っておりますが?」
「そこまでにしておけ。コール隊長、こちらがお願いしている立場なのに、すみません。お話は分かりました。そちらの作戦通りでお願いします。」
「ルーベン様…、申し訳ございません。分かりました。」
「ふむ、そちらの方は責任感が強いとお見受けする。この程度、私にとっては失礼には当たりません。むしろ、その姿勢は好ましいですな。」
(こちらが上位だからか、コール隊長も押していくなあ。)
マグディスは会話を聞きつつ思う。
一体今回の戦いでどれだけの人が亡くなるのかを。
(できれば、殺したくはないけど…。)
大規模魔法で事故はつきものである。
直接的な攻撃では無かったとしても、今回は人が死ぬかもしれない。それも、力を持たない、煽られただけの村人だ。
(でも、敵であれば容赦なく切り捨てる。隊長はそうしてきた。)
英雄と呼ばれる自分が手を汚さないというのはおかしい。
いつかはそうなる。早いか遅いかの違いだけだ。
(よし、やるぞ。)
馬車は村へ近づいていった。
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背景紹介43「ルーベン商業連合」
この地域を流通ルートとしていた商人たちが50年ほど前に作り上げた、歴史の浅い国家。国家とみなされてはいるが、土地の広さの割に人口が少なく、国を名乗っていない。
いわゆる商業ギルドのような存在が成長し、この地域の上位者となって管理・統括しているのが実態。
近隣国に土地を狙われており、なんとか跳ね除けていた。成長を続ける大国であるアルディス王国が東の隣国を征服したため、商業上のメリットと、戦争の無意味さ(確実に負ける)、近隣国からの保護を目的として、アルディス王国への併合を望んでいるが、前王が現王に代わりアルディス王国の方針が国内重視に変わったため、『浮いた土地』となっている。
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