6 邂逅(7)
「レンディスお嬢様、お久しぶりでございます。カルナック・ルーベンでございます。」
マグディス達を最初に出迎えたのは、長身細身な男性だった。痩せ過ぎで、剣も持てないように思える。
「久しぶりね、カルナ。元気にしてたかしら?…こんなこと言うのもなんだけど、疲れが見えているわよ。」
「面目ない。最近は例の問題に頭を抱えていまして…。そちらの方が例の?」
「そう。マギア族を1人で退けた英雄、マグディス・ヘムトよ。マグディス、こちらが国家元首のルーベン殿の長男のカルナック・ルーベンよ。」
「マグディス・ヘムトでございます。初めまして。」
「私には敬語は不要ですよ。マグディス様、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「構いませんが、様というのはやはり落ち着かないですね。」
「でしたらマグディス殿とお呼びいたしましょうか?」
「そうですね、それでお願いします。こちらはルーベン様…じゃないんですね、ルーベン殿でよろしいでしょうか。」
そういうと、カルナックは笑顔を浮かべた。
「いえ、私どもは商家で小国ですから、カルナックと呼び捨て、あるいはカルナでも構いませんよ。」
「それでしたら…カルナック殿と呼ばせていただきます。」
(なんか、掴みどころがない人だな…。)
マグディスは困惑していた。
国家元首の息子というには、それらしい高貴さがない。
仕草はよく教育され、服装には金をかけて落ち着ついた色合いながらも整った美しさが感じられる。
それなのに、伝わってくる感情は非常に素直で、そして直接的には呼び方を自然と下げようとする謙虚さも見られた。
どの姿が最も『カルナック・ルーベンらしい』のか、分からない。
「奥で父が待っておりますので、こちらへ。」
カルナックに連れられて屋敷の廊下を進む。
来賓室と思われる大きな扉の前に着くと、ノックをして『カルナックです。メリア様とマグディス様をお連れしました。』とカルナックが言うと、『入りなさい。』と声が返ってきた。
「メリア嬢!お久しぶりですな。よくぞ来ていただきました。」
「お久しぶりですね、ルーベン殿。こちらがマグディス・ヘムトです。マグディス、こちらがケルト・ルーベン殿よ。」
「お初にお目にかかります。マグディス・ヘムトでございます。」
「いえいえ!敬語など結構でございます。こちらは商家であり貴族でもなんでもございません。ご高名はよく存じておりますとも。先の戦いでは、本当にありがとうございました。これからもよろしく頼みますぞ!」
「えっと…私に対する敬語もしないでいただけると助かります。あの戦いについては私があなた方の軍に何かをした訳ではないですので。」
「……。」
目を見開き驚いた様子を見せるケルト。
気を取り直して、会話を続ける。
「どうやら本気でおっしゃっているようですな。勘違いされているようですが、あの戦いは本当に危険だったのですよ。」
「そうなのですか?」
「はい。通常、マギア族の集まり具合をアルディス王国にて監視しており、その予測に合わせて、アルディス王国から軍を各国に要請します。」
「その予測が間違っていた訳では無いのですよね。」
「はい。マギア族側に、弓と聞きましたが、新たな武器が追加されたため、劣勢に陥ったと聞いています。その状況から優勢に傾けるどころか、短期でマギア族の襲撃を終わらせてしまった。しかもたった1人で。だからこそ、マグディス様は英雄と呼ばれているのです。」
「…そこまでのお話は初めて聞きましたね…。」
「初陣だったとお聞きしていますから、無理もないのかもしれません。通常でも後1週間はかかったところ、劣勢でしたので最悪後1月かかる可能性も、敗退する可能性もありました。そうなれば我がルーベン軍も無事とはいきません。かなりの死傷者を出したことでしょう。それがマグディス様のお陰で多くの兵と民が救われました。これで感謝しないほうがおかしいところです。」
「王国の方でも、不届者がいたようですので、罰しておきました。それで済む話ではありませんが、改めて謝罪しますわ。」
「そうですな。その点も今回の件に拍車をかけましたな。あの方はそちらの主戦派の方でしたな。」
「主戦派?軍を出し渋っていたようにしか見えなかったですが。」
「マグディス。アルディス王国の主戦派っていうのはね、領土拡大に軍を使いたいの。マギア族との戦いは最低限に済ませたいのよ。誰でも良いから戦いたい訳じゃないわ。」
「それはそうか。」
「まあ正直に申し上げますと、我々も厳しい中で戦力を集めておりますので、何もあの場では申しませんでしたが、主戦派の方には消極的に賛成だったと、軍務局長が申しておりましたよ。」
「あら、そんなことを私の前で言って良いのですか?」
「構いませんよ。マグディス様に来ていただいた時点で百人力ですので。『かの英雄とお会いして縁ができた』というだけでも、かなりの効果が見込めます。」
「何度も言うようですが、私にそこまでの価値はありませんよ。」
それを聞いて納得したように頷くケルト。
「きっと、上の方々は分かっておられるのでしょうな。色々教えてしまうと、マグディス様に自惚れや傲慢さが出てきてしまう可能性がある、と。マグディス様には今の謙虚さを保ってほしいからこそ、マグディス様の価値を説明しなかったのでしょうな。」
「そういうものでしょうか。私には分かりかねます。」
「ええ、ええ。おそらくそれで良いのでしょう。おっと、今日はもう遅いですので、体を休めたら明日、仕事の話をさせてください。」
「分かりました。」
もう既に夜が更けてきていた。
『ご到着時間が読めず、簡素な食事しかご用意できませんが』と使用人は言っていたが、それでも十分な食事を取った後、マグディス達は眠りについた。
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背景紹介42「ジュミィ・クレード」
クレード家の次女。どちらかと言うと内向的な性格をしている。『夢見がち』という自覚は無かったが実際そうであったようで、今までの結婚話も何かしら理由をつけて断ってしまった。慕っている家族や親交の深いサバル家との交流のうちに、内々に『英雄との結婚願望』が芽生えていた様子。
彼女の一目惚れが冷めるかどうかは、彼女にも分からない。
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