7 反乱の狼煙(2)

ルーベン商業連合の西には超えられない山脈があり、東にも山脈が連なる。中央には南北に河川が通っている。非常に起伏の激しい土地柄で、大雨が降ると崖崩れも珍しくない。

長年、安定した道が少なかったことから、あまり近隣国の領土として認識されていなかったが、その分徴税の時期には近隣国がまるで自国の領土かのように徴収に来ることがあったため、不定期に連続で税の徴収(というより簒奪)があることも珍しくなく、非常に貧しい土地となっていた。

周辺の国々は東西の山脈により南北しか移動が難しかったが、この周辺には、アルディス王国のある東に向かって比較的移動しやすいルートがあることに商人たちが目をつけた。この近隣の村民に道の整備の仕事を与え、代わりに農具や食料を提供することで、商人たちはこの地域の上位者となっていった。

この地が再度荒らされることを嫌った商人たちは連合を結成し、結果としてルーベン商業連合が成立した。


「…という歴史があるのよ。」

「詳しいな、メリア。」

「まあ、こことは色々あってね。」


マグディスは少々気になって、ケイトの方を見た。


「私がメリア様の護衛となったのは、マグディス様と会う少し前なので、私も存じ上げません。」

「私は知っておりますが…。」


モーリーは何か知っているらしい。

そっけなくメリアが応じる。


「話しても良いわよ。私から言う気が起きないだけだから。」


それを受けて、モーリーが話し始めた。


「私の知る限りでは、ケルト様の息子のカルナック様と、メリア様との間で結婚の話が上がっていたと記憶しています。ですが、しばらく後になんらかの理由があって破談になったと聞いています。噂では、上からの介入があったとか。」

「上って…レンディス家は公爵なんだから、それはつまり…。」

「はい。王家の介入ですね。私が推測するには、現王は領土拡大の野心が無いことを他国に示すために、ルーベン商業連合の併合を拒んでいます。そこに高位貴族の血縁を送り込むとなった場合、ルーベン商業連合をアルディス王国の影響下に置く形となり、結局他国に警戒されてしまいます。」

「そういうことか。」


(ただまあ、そもそも公爵令嬢のメリアがルーベン商業連合との結婚話になったのは、今までのメリアの所業が影響してるんだろうけど、それは言わなくていいな。仲は良さそうだったから、王家の介入が無ければそのまま結婚してたんだろうな。)


そう考えて、ふと気づいた。


「…よくそこまで知ってるな、モーリー。」

「ええまあ。所長には『政治のことも知っておきなさい』と言われていますので。」


(それは、次期騎士爵なのでは?)


と思ったが、変に期待させても良くないため、これも黙っておいた。


「そろそろ、陽が傾いて来ましたな。馬車の上ではあるが、翌日に備えて、ゆっくりするとしよう。」


コール隊長の言う通り、夜になってきた。

今晩は全員馬車の上で過ごす。

マグディス一行は全員夜は寝て、周辺の警護はルーベン軍に任せた。

明日の作戦が上手くいくことを祈りつつ、皆寝ていった。


翌朝すぐに出発し、全員軽食を取る。

敵に対し勘付かれないために、軍としては少数で移動速度重視で行動して、昼よりも少し前の時間には、村付近の崖近くまで辿り着いた。


「しかし、本当にレンディスお嬢様が来られるとは…。」

「まあ、マグディスの秘密と一口に言っても色々あってね。私じゃないとできないこともあるのよ、カルナ。」

「マグディス様はそれほどまでの方なのですね、分かりました。ご武運を祈ります。」

「ええ、期待して待ってて良いわよ。」


そう言って、メリアもマグディスと共に村の近くまで歩いていった。

村の方は籠城しているとはいえ、いつ軍隊が来るかは注意している。よって時々偵察が来ることは容易に考えられた。


「では、剣をお借りしますね、マグディス様。【隠匿(ブルド)】!」


モーリーがマグディスの剣で魔法を発動する。

マグディス達には何も変化がないが、外から見ていた者がいれば驚愕しただろう。

何故なら、マグディス一行が魔力の結界で包まれ、全く誰もいないように見えるのだから。


「確認するぞ…ここが境目か。なるほど、見えないな。魔力に気をつけなければ気付かないと思う。」


マグディスが結界を出入りして確認する。問題はなさそうだ。


「じゃあ、私は偵察に行ってくるわ。」

「何かあったらすぐ拡声魔法で呼べよ。」

「もちろん。分かってるわ。…【隠匿(ブルド)】!」


今度は1人分の結界がメリアの周囲に張られた。マグディス達からは見えなくなる。

足音が聞こえて、メリアが村に向かったことが分かった。


「さて、頼むぞメリア。無事に終わらせられるといいけど。」


少し不安に思いながら、メリアの帰りを待つ。

今はじっと耐えるしかできないもどかしさを感じるマグディスだった。


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背景紹介44「ワルド共和国 その2」

ドワーフ族は温厚であり、また魔力も多くないことから争いの種が少なく、比較的平和である。しかしそれは戦争や紛争が起きないことを意味しない。加えて、貧富の差もヒュム族と負けず劣らず存在する。アルディス王国のように農民が魔法具を使うこともほぼないため、特にオルダンドルフ大公爵領内では農民が、イルライド大公爵領内では木こりが、もう1人の大公爵領内では鉱山の採掘員が、割合的に多い職業でありかつ貧しい者が多くなっている。

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