7 反乱の狼煙(3)
「この状況、長く続いて欲しいねえ。」
「そうだなあ。昔は『徴収だ』とか言って食い物を取られとったらしいが、今だって『税だ』と言って取られるのは変わらんもんなあ。これが長く続けば、取られるものは無くなるんだもんなあ。」
村の門に見張り台があり、その上で2人の男が会話していた。門は閉まっている。
(ここまで来たけど、こういう会話を聞くと複雑な気分になるわね。税金を払う代わりに、結局こうやって自分たちで防衛に力を割かないといけないんだから。)
メリアは門の前に立っていたが、男達に気付かれてはいない。もちろん、魔法の効果である。
(さて、どうやって入るかだけど…。)
「おい、そろそろ偵察の時間だぞ!行ってこいって!」
見張り台の2人に声をかける別の男がいた。
当然、門の中なので顔はメリアには見えない。
「え?もうそんな時間だったか?」
「良いじゃねえか、ゆっくりしたって。今まで、軍の奴らはずっと来てないんだぜ?これからも来ねえよ。」
「それで村が滅茶苦茶になったらお前らのせいだぞ?良いのか、それで?」
「おいおい、もう少しゆっくりさせてくれよ。せっかく支配されずに自由にしてるんだからよ。」
「そうだよ。楽するために門番やってるんだからよ。」
「…村長達にチクるぞ?」
「わーかった、わーかったって。行ってくれば良いんだろ。」
「しゃあねえなあ。今後の楽のためにちょっとだけ頑張りますかね。」
「ちゃんと確認して来いよ!!…全く。」
(指示役かしら?)
メリアが少し待っていると、男たちが見張り台から降りてきて、門を開けて出てきた。すれ違いざまにメリアは中に入る。
(この人らが戻ってくる前に、標的を見つけなきゃいけないわね。)
先ほど偵察に行った2人の代わりに、次の2人が見張り台に登る。その2人に指示をしている男をメリアは見つめる。
(この人が標的なら、もうマグディス達に指示して突撃した方が早いけど、間違ってたら大変ね。)
メリアは足を早め、村の中を周っていく。
この辺りは山間部だからか、木造の家が多かった。
壁に、わざととは思えない穴が空いている家も多い。
(アルディス王国の街はレンガばかりだけど、ここは木造で、しかも修復が甘いわね。ちょっと危険かしら。おや、あれは…。)
少し立派な2階建の家が見えた。周囲も簡易な柵で覆われており、おそらくお偉方の…ここは村なので、村長の屋敷だろう。
門番などもいないので、メリアは家の前まで来て様子を伺った。話し声が聞こえてくる。
「いつもありがとうございます。」
「ほっほ、いや気にせずともよい。村の者らは喜んでおるようだしな。して、首尾はいかがかな?」
「今のところは向こうの動きは無いようですね。ただ、何もしないうちから諦めるとは思えませんので、そのうち動きがあると思うのですが。」
「そうじゃのう…、準備に手間取っているのか、それとも何かを待っておるのかな?」
「そうですね…、この村は隘路に門がありますので、防衛に徹すればかなりの防御力を発揮できると思います。だから準備に時間がかかっているのでしょう。その分、多くの兵が押し寄せるかもしれません。ですがそれこそ、その大群を撃退できれば、前より良い生活ができると思いますよ。」
「うむ。それを目指して頑張らねばな。皆には伝えておくよ。」
「はい。お願いします。私たちも、ここが気に入りましたので。」
「ありがとう。お二人が来てから、この村の活気が出て来たように思うのだよ。搾取されるだけの生活から脱せると思うと、私もこの年齢ながらやる気が出てくるよ。」
「それは良かった。こちらとしても一緒に住む方々が元気である方が嬉しいですね。」
どうやら、村長と誰かが話している様子だった。
窓から伺い、顔をしっかりと覚える。
メリアは思う。
(搾取される『だけ』の生活ねえ…。)
この村に来るまでの道は、整備されてきたように見受けられるものの、背丈の長い草が生え木の枝が道に張り出してきていた。
これはつまり、最近は整備できていないということである。
(つまり、この道を整備していたのはルーベン商業連合の上層部の指示なのよね。それを搾取だなんてあんまりだわ。他国からの防衛もしているのに。それが無い昔はもっと荒らされていたというのにね。)
メリアはお転婆ではあるが、公爵令嬢としての教育は受けている。よって、為政者としての視点は持っていた。
だからこそ、このあからさまな『乗っ取り』に、嫌悪感を抱く。
(さて、2人いるらしいから、もう1人見つけて居場所をはっきりさせなきゃね。できれば2人とも同じ場所にいる時を狙いたいけれど。あの口ぶりだとこの村の柵の中にいるとは思うのだけれど…。)
そう思いながら早足で一周したが、特に手がかりを見つけられなまま門付近まで戻ってきた。
(魔法としてはまだまだ保つと思うけど、精神的にしんどくなって来たわ…。急いで探しましょう。)
魔法がいつまで保つか。マグディス達が心配していないか。
そういったことを考え始めると、焦りが募る。
メリアが1人焦りつつ周囲を確認していると、門の前にいた指示役に近づいていく男に気づいた。
「おーい、見張りは順調か?」
「いや、そうでもないな。向こうが来ないから良いものの、指示しないとまともに動きはしないぞ?」
「それは仕方ないだろう。ここは軍じゃないんだぞ?」
「まあそうなんだがな。」
「準備はどうだ?」
「ああ、それなら………」
(見つけた!)
門の前の指示役がフランクに会話していたのは、先ほど村長と話していた男だ。ほぼ確実にこの2人が標的だろう。
(戻って知らせなきゃ…!)
メリアは門の方へ歩き出す。
「ん?なんだあれ?」
「?何かあったか?」
「いや、なんか魔力の吹き溜まり?みたいなものが見えた気がしてな。」
「???」
(見つかった?魔力が分かるということは、まさか魔術師?いや、まだそこまで気付かれたわけじゃないわ。ゆっくりと離れれば大丈夫…の筈よ。でも、最大限急がないと。)
音を立てないように注意しつつ、門の鍵を内側から静かに開けて、人1人だけ出られる状態にして抜け出した。門は閉じられるだけ閉じておいた。
「気のせいだったかな…?」
「そうじゃねえか?…ん?今門が開いてなかったか?」
「は?そんなことあるか?」
「あれ、門の鍵が開いてるぞ!?」
「何が起こっているか分からんが、2つも偶然があるとは思えんな。」
「…侵入者だったとして、何のために?」
「門を開けとくのが狙いなら分かるが…。」
「まあ閉めておくか。」
2人は門の鍵をかけ直した。
「それ以外だと、偵察か?とすると…。」
「…そろそろ軍が来るか。よし、人を集めておこう。」
村の男達に声をかけて、防衛の準備を始めた2人だった。
「マグディス、お待たせ!!」
メリアがマグディス達の待機場所に戻ってきて、魔法を解きつつ声をかけた。
「どうだった?」
「気付かれちゃったかもだけど…、でも、さっきまで標的2人は門の近くにいたわ。今なら作戦成功の可能性は高いと思う。」
「そうか。なら、このまますぐに向かおう。他は作戦通りに。」
「「「「了解。」」」」
魔法を解除して、マグディス達は村に近づいていく。モーリーは道中に残し、メリアはルーベン商業連合の軍と合流させる。
「さあ、本番だな。作戦開始だ。」
これから起こることに不安を感じつつ、宣言をするマグディスだった。
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背景紹介45「アルディス王国」
アルディス連合国、すなわちヒュム族領土全体のおよそ7割を占める領土を持つ大国。大昔は小国だったが、魔法具技術の発展が目覚ましく、他国を征服あるいは吸収合併することで徐々に大きくなっていった。
マギア族の侵略こそ受けることがあったものの、それでも栄華を極めるアルディス王都を中心とした最大規模の国家であることに変わりはない。
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