7 反乱の狼煙(4)

「索敵っと。うん?」


門が見える直前に、索敵魔法で村人の配置を確認する。


「何かあったのか?マグディス。」

「いや、かなり多くの村人が門付近に集まってるみたいだ。100人くらいいそうだな。」

「100人もいるとなると、この程度の村だと最大動員数に近いと思います。」


コール隊長とケイトの2人と共に、最終確認を行なっていた。


「万全の態勢ということか。メリア様の潜入がバレたのか?」

「確かに、メリアに気付いたのかもしれないな。問題ないというか好都合だと思う。どうせ一網打尽にするつもりだったからな。」

「ただその分、マグディス様への攻撃は激しくなりそうですけどね…。」

「確認だが、門を開けて敵が出てくる場合には、村人だろうが切り捨てるぞ。それで良いな?」

「もちろん、頼みます。詠唱中まともに動けないですから。こんなところで死ぬわけにはいかないので。」

「全力でお守りします。」

「ああ、ケイトもよろしく頼む。」


ケイトとコール隊長はそれぞれ盾を持ち、マグディスの前面の左右を守りながら、3人で進んでいく。

門が見える位置に入った時、見張り台にはそこそこの人数が乗っているのが見えた。


「そちらはルーベン商業連合の者か?」


見張り台の上の1人が大声で話しかけてくる。


「ああ、そうだ。」

「その人数だと、交渉に来たということか?」

「いや違う。制圧に来た。」


マグディスがそう返すと、見張り台の面々と門の内側にいるであろう村人達がざわついた。


「この人数を相手にか!?舐められたものだ。我々の意思をあいつらに見せてやるぞ!」

「「「オーッ!!」」」


その声をきっかけに、見張り台から攻撃が始まった。

といっても、数名がもつ弓矢による攻撃である。

マグディスがまだ門から少し離れた位置にいるため、本格的な攻撃が難しいのだろうと予想された。


弓矢のみの散発的な攻撃を、コール隊長とケイトが捌いていく。


「さて。始めるか。」


ミスリルの剣を抜き、正面に掲げて、下向きにして地面に突き刺した。


「【我らが地の神、人の神の作りし大地にて、その広大なる荒野、爽やかな草原、静かなる森林、雄大なる山脈、陰鬱なる沼地、これら全てを掌握せしむ。】」

「お、おい…あいつら、何やってるんだ?」

「まさか、魔法詠唱か!?」

「おいおいおい、あの剣は飾りかよ!!剣士じゃないのか!?」

「まずい、投石も追加しろ!!!」


見張り台からの攻撃に投石が追加され、激しくなってくる。

しかし、コール隊長とケイトの2人ならば、全て冷静に捌き切れる。


「【古の遥かなる時を経て、造られしこの大地。風も空も陽の光も、星々も時を同じくして、この世に造られし創造物なり。】」

「落ち着け!アイツらは3人だけでここに来ているんだ。この門と人数を突破できるだけの大規模魔法を展開できるとしても、今なら門を開けて囲めば絶対に勝てる!だから今すぐ突撃するぞ!」

「ちょっと待て!門を突破されないなら放置するのも有りなんじゃないのか?」

「そんなこと言ってるうちに後続が来たら手に負えなくなるぞ!突撃できるのは今だけだ!」

「マグディス。落ち着いて急げよ。」


上級魔術師がいない軍において、長時間の詠唱を必要とするような大規模魔法への対処法は限られている。魔法具の防具を着けた軍で防ぐか、突撃して詠唱を中断させるか、あるいは野戦であれば射程外に逃げるか、などである。

後続が見えない現時点では、突撃は適切な選択であった。


「マグディス様、門が開きました!」


ケイトが叫ぶが、マグディスは魔法詠唱に集中せねばならない。それはお互いに分かっている。

村人を殺してでも、守らねばならない。


もう村人の槍が届こうかという距離に来た瞬間、待望の時を迎えた。


「【それらが彼方からの約束のもと導き合い、今ここに大地の龍となりて、刻むべき歴史として現れよ。ーーー地震(アジクエ)ーーー】」


マグディスが唱え終わると、突撃してきた村人が順々に見えなくなる。

彼らは1人残らず前方に転び、頭や腕を地面に打ちつけていた。

ケイトとコール隊長は、予期していたためしゃがんで盾を構える。幸い、もう攻撃は飛んでこなかった。


そして、魔法は門まで到達し、門と見張り台が倒壊した。


「な、何だあ!!?地面が!!」

「見張りが崩れる!!助けてくれ!!」

「こ、こんな短時間で大規模魔法だと!!?」


阿鼻叫喚の中、倒れた門の向こうには村人達が立ち上がれずにもがいている様子が見えた。


「よし、モーリー!!来てくれ!!」

「もう来ていますよ、マグディス様。」


マグディスの後ろにモーリーが既に来ていた。


「早いな…。」

「まあ、様子は見てましたからね。そろそろかと思いまして。」

「まあ好都合か。よろしく頼む。」

「お待ちくださいね…、浮遊魔法を浮いたままかけ直さなきゃならないので、ちょっと難しいんですよね。」


モーリーが数秒集中して【浮遊(フレビィ)】と唱えると、コール隊長とケイトがモーリーと同じように浮き上がる。

それを確認して、2人は立ち上がった。


「モーリー殿、助かりました。」

「モーリーさんありがとうございます。」

「いえ、これが僕の仕事なので。さあ、首謀者を捕まえましょう。そこはよろしくお願いします。」

「うむ。しかしこの魔法、『アジクエ』でしたか、地面が揺れるだけでそんなに効果があるかと思っていましたが…相当ですな、これは。」

「僕も半信半疑でした。この魔法を作った人は凄いですね。」

「色々試してみたのでしょうね。かなりの試行錯誤の時間を感じます。」

「よし、ではマグディス、行ってくる。」

「た、頼みます。」


マグディスは、イメージを維持したまま剣を介して魔力を注ぎ続けていた。

額から汗が垂れてくる。


「うむ、急ごう。」


今度はモーリーを守るようにして、コール隊長とケイトが浮いたまま進んでいく。

相変わらず村人達は混乱の中立ち直れずにいた。

コール隊長はその中の1人の男を捕まえる。


「おい、聞きたいことがある。嘘だったら容赦なく殺す。お前達の村に最近来た余所者で、この反乱を主導していたのは誰だ?」


そう聞くと、男は恐る恐る周囲を見回した。


(義理堅い奴なら、見つけても言わんだろうが…、)


「言っておくがな、後続の軍はおるぞ。門と見張り台の無いお前達など、簡単に制圧できるだろうな。」


(全員が全員、義理堅くもあるまい。)


コール隊長が周囲を見ると、何人かの視点が同じ男を向いている。


「お前だな。観念しろ。」

「くっ…。」


隊長は背中に準備していた縄で、男を縛る。その男にはケイトが付いた。


「もう1人、いるんだろう?」

「あ、アイツです。」


もう村人側も観念したのか、もう1人の男を指し示した。

その男も縛り上げ、隊長が叫んだ。


「もう良いぞ!!」


それを聞いたマグディスは魔法を解いた。


「これで、この反乱も終わったな。」


ホッと一息ついたマグディスだった。


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背景紹介46「コール・ランディス その2」

基本的に、貴族の軍の隊長格の騎士爵は、1代限りであるが、父もかつて騎士爵を持っており、十分な実力ありと認められて騎士爵を引き継いだ。厳しい鍛錬が中心ながらも多くの教育も併せて受けており、隊長としての能力に不足がない思われていた。しかし、流石に魔法の分野は未知の部分が多く、実力が発揮できないこともある。

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