7反乱の狼煙(5)

「良し、これで2人を捕まえたな。」


コール隊長が縄を掴んで言った。

縄の先には、扇動した首謀者2人が繋がれていた。


「魔力は大丈夫か?」

「まあ、それなりには残っていますが…少ないですね。」

「うむ、少し休むと良い。こいつらは私が見ておこう。」

「そうさせてもらいます。」


しばらく休んでいると、モーリーがメリアとルーベン軍を連れて来た。


「お疲れ様、結構大仕事だったわね。」

「ああ、移動時間もこの時のためと思うと仕方ないけど、やっぱキツイな、こういうのは。」


そうメリアと話すと、近づいてくる者がいた。


「うむむ、何をなさったのか分かりませんが…凄いですね、門がここまで崩れるとは。これがマグディス様のお力ですか。」


近づいて来たのはカルナックだった。

門を見ながらそう言うと、マグディスの方に向き直った。


「これほどの力をお持ちとは…、って、まさか。」


カルナックの様子を見て、誰よりも早く動き出したのは、ケイトだった。


「マグディス様!!」


マグディスの背面側のその先には、縛られた首謀者2人。

そのうちの1人の男が、炎を放った。


「ケイト!!?」


メリアが叫ぶ。

その炎は、軽鎧を着ていたケイトに直撃した。防御するような余裕もなく、体で庇ったのだった。


「魔術師だったのか…ふんっ!!」


縛り上げたコール隊長が2人の頭を殴って気絶させる。死ぬ可能性もあったが、事ここに至っては仕方がない。


「ど、どうすれば…。」


カルナックはただただ慌てていた。


「マグディス殿、カルナック様はお下がりください!」


そう言ったのはルーベン軍の指揮官だ。


「そう言う訳にはいかない!今ここでケイトを治療する!」


ケイトの様子は『黒焦げ』に近い状態になっている。一刻の猶予もない。


「何をするにしても下がってからです!」

「今は隊長がアイツらを気絶させたから大丈夫だ!!すぐに済ます!」

「直ぐに治療ですと…!!?」

「良いから黙ってろ!!ケイト、起きろよ!!!」


マグディスが魔法剣をケイトに向け、剣先で触れる。


「一体何をする気ですか!!??」

「マグディス、私も!」


困惑するルーベン軍指揮官を無視してメリアも駆けつける。マグディスと同じように、指輪をケイトに当てる。


「「【アルティンハイル(高位治癒)】!!」」


2人の魔力がミスリルを伝わりながら増幅される。大気が鳴動鳴動しているような錯覚は、周囲の魔力が渦巻きケイトへと注ぎ込まれているという現実とともに、この異常事態を示す映像のように見えた。夢か現か分からない光景を前にしてもなお、必死でイメージを保ち魔力を込め続ける。


どれくらいの時間が経過しているのか、時間感覚が薄くて分からない。だが確実に、急速にケイトの肌の焦げ跡は小さく、大人しい色へと変わっていく。


「ゲホッ!!」

「まだよ、マグディス!ケイト、早く目を覚ましなさい!!」


外傷は治って来ているが、この魔法では体内の様子が回復するのには時間がかかるという。そのため、実際にケイトが目覚めなければ、山場を越えたとは言えない。


パタリ。


マグディスが剣を力なく手放し、その場にへたり込んで、倒れる。


「代わります、マグディス様。【アルティンハイル(高位治癒】!」


モーリーが剣を掴み、魔力を込めて治癒魔法を発動した。


意識朦朧とするマグディスは、視界が切れるその直前に、ケイトが呼吸を再開して咳き込むところを目撃した。


(よかった…。)


マグディスは、もう何度か分からない疲労感で眠りについた。


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背景紹介47「シンディア・ムール」

レンディス公爵家、魔法研究所所長を務める騎士爵の女傑。肩書きの通り魔法研究一筋で、朝から晩まで魔法のことを考えるために使用人を雇っている。それでも立場的に教養が必要であることも理解しており、抜け目はない。最近魔法研究にのめり込めるほどの体力が無くなってきており、魔法研究所の将来を画策中であるらしい。

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