3 新たなる魔法剣(2)

「炉の温度すぐ上げなきゃな。」


自分の工房に帰ってきたマグディスは、早速炉に火を入れる。ミスリルと鉄を織り交ぜた芯を先に作る為である。

日本語では『合金』と言えるだろう。

塊から温度を上げて溶かして純粋な金属(若干の不純物混じり)を取り出す作業である。

溶かした段階で混ぜなければならないので、鉄と並行作業となる。融点が異なる為、マグディスはそれぞれで行うことにした。


「1人でやるのも大変だな…魔法具借りといて良かった。」


親方の工房から炉用の魔法具を借りてきていた。基本的に炉は一度に1人で2つ使用することは無いので、何故これがあるかというと、薪や木炭では実現が難しいほどの高温状態を作るのに使用するらしい。具体的には、オリハルコンなどの高融点の金属向けだ。結局、いざという時以外は親方の工房でも死蔵しているため、借りてこれたという訳である。かなり便利ではあるのだが、下手な使い方をするとドワーフでは魔力切れが起きて苦しむこともあるらしい。

上級魔術師クラスに近い魔力量のマグディスには問題は何もなかった。


「どれどれ…おっ、早いな。これは便利だ。」


鉄とミスリルが瞬く間に溶解していく。

ここからミスリルだけを取り出して冷やし、残りはミスリルと鉄を混ぜ込む。

剣の芯一本と指輪一つ分に上手く分け、さらに鉄の残りは剣の外側の分として取り出し、冷ます。


「冷ますのもコレでやるか。」


工房にいた間にメリアが作ってくれた冷凍の魔法具。大きめの箱型をしているので、そこに入れていくと一気に冷めていく。どうせ後でもう一度熱して叩いて打ち直すので、今はこれで良い。

そういう作業をしながら、マグディスはあの戦争の後でメリアとマグディスの魔法剣についての調査を思い出していた。


『あなたの魔法具は、正確には魔法具じゃない気がする。これは勘だけど。』

『私もいくつか魔法具を作ったことはあるわ。ただそれは、“完成品に魔法を封入する"というものだったわ。私は魔法を発動するつもりで、その魔法を道具に込めるの。私の知る限りだと、他の人もそうやっているはずね。だからこそ、目的や用途に合った魔法具ができるのよ。』

『だけどこの魔法剣は違う。何の魔法も込められていない。ただしその代わり、あなたの魔力が大量に込められている感じがする。切れ味が上がる効果しか出ないとは聞いていたけど、こんなシロモノだったとはね。』

『あなたの魔力を計測魔法具で測定した時、地属性だったのは間違いない。でも、この魔法剣からは炎が出た。ということは、この魔法剣に込められた魔力はあなたの魔力であって、あなたの魔力ではない。この矛盾が解けないと、真相には辿り着けないわね。』

『実際2属性使える人もいるにはいるんだけど、ごく僅かしかいない。多分だけど他の属性が使えるとかではないと思う。あなたはこの剣に何をしたの?正確に教えて。』

『魔力を込めながら剣を叩く?このハンマーで?…ちょっと見せてもらうわね。………このハンマー自体が魔力を持ってるじゃない。しかも結構な量がある感じがする。これも関係があるのかしら。多分、あるわね。なんとなくだけど、そう思うわ。』


(俺の魔法具はどうやら、俺の魔法ではなく魔力がこもっているのか。)


そうすると不思議に感じることがある。


(例えば【鎮静(ストア)】を込めれば、その魔法が発動する魔法具になる訳だよな。俺の魔力がこもった魔法剣から魔法を発動するにはどうしたら良い?)


実際にはとんでもない炎は出たので、発動できないわけでは無いと思われる。が、その違いの原因がイマイチ分からない。

もっと、魔法そのものと魔法具について知らなければ、これ以上のことは分かりそうにない。

ふと、目の端に映ったものが気になった。


(炉用の『魔法具』…。試してみるか。)


マグディスが今持っている数少ない『普通の魔法具』だ。台座に乗った壺のような形をしており、マグディスが台座を持ち魔力を込めると火が出てくる。

手を離しても、しばらくは火が出続ける。その間に作業できる魔法具である。火力も十分に高く、燃え盛っている。


(でも、この前の戦争の時ほどの火では無いな。)


あの時は、マグディスの魔法剣から人を簡単に飲み込めるサイズの炎が出ていた。そしてマグディスは矢を受け倒れたが、魔力についてもほぼ空と言えるレベルまで減っていた。

だがこの魔法具は大きく違う。込めた魔力は少量なのに、ずっとそれなりの火力を提供し続けている。


(炉の魔法具の方が効率がかなり良さそうだな。)


なんというか、込めた魔力以上の効果を出しているように見える。その炎は十数分消えることはなかった。

なお、途中で止める場合は、止める意識を持って魔力を再度込めると止まるとは聞いている。


(この、あからさまな魔力効率の差…。そしてドワーフ族でもこのレベルの魔法具は使用できるという事実…。ひょっとして、魔法具は魔力をどこからか持ってきているのか?)


それはただの思いつきだったが、信憑性があるように思える。


(俺の魔法剣がどうなってるかは分からないが、どうやら普通の魔法具には魔力を収集するか、あるいは効率を高める機能があるようだな。)


そう結論づけて、ミスリルの剣の作成に取り掛かった。

次なる剣が、さらなる性能になることを夢見ながら。


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背景紹介16「ギルバート・ヘムト」

ヘムト侯爵の兄で、熟練の職人。特産物の勉強として鍛治をしてみたら、相性が良すぎてのめり込んでしまった。前侯爵である父親と結託し、頭の良い弟を侯爵に仕立て上げた張本人。頭は悪く無いので、結局ヘムト家専属の工房の親方として、鍛治以外でも経営や販売、物資の確保まで全て手広くカバーしており、抜けがない。マグディスを拾って孤児院に入れた人でもあり、親代わりの側面も持っている。

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