3 新たなる魔法剣(3)

「こんばんは。お邪魔してるわよ。」


一声かけるだけでもマシかな、と思ってしまったマグディス。かれこれメリアとの付き合いは3ヶ月以上なのだが、どうもこの図々しさが距離感を狂わせる気がしてくる。

腐れ縁とはこういうものかもしれないと初めて思ったのであった。


「…今日は来るのな。」

「まあ昨日は特別だったけど、あなたに魔法を教えるのは私の仕事でもあるのよ。」


昼間の鍛治が終わって夜は、魔法の勉強をしていた。疲労が半端ないが、もう慣れっこではある。


「今日はどんなものを作ったの?」

「あー…、ミスリル塊が入手できたから、早速剣にしてみた。悪い出来じゃなかったから、そのまま使えるかもな。」


普段なら鍛治の様子も見るメリアであるが、今日は日中不在だったため、様子を聞くのは珍しい。だからこそ、指輪もできたが黙っておく。


「そう。…試してみたの?」

「いや、まだだ。あれは広い場所じゃないとちょっと怖いというか。」

「まあそうね、工房が火事になってもいけないわね。」


戦争の時、魔国軍第四軍団長クルドが使用していたハルバードは、全体が鉄製でできていた。そのハルバードを一瞬で溶かすほどの炎が、15メートルもの長さで噴き上がっていたのである。鉄製の剣でソレなのだから、ミスリル製の剣ならどうなるものか分かったものではない。テストには、かなり広い場所が必要だった。


「それに、アレは人に見せるなとも言われているから、今までの魔法剣の方もテスト出来てないし。」


政治的にも、マグディスの剣の性能は伏せるべきだった。マグディスが危険視されるからとか、政敵からより狙われやすくなるとか、魔法具技術の漏洩が懸念されるから、などの理由だ。よって、テストするにも場所の確保が重要だった。


「それなら、明日にヘムト様が庭を開けてくださるそうですよ。様子も見たいからと仰っておりました。」


コラムが口を挟んだ。


「それと、どうせもうミスリルの剣は出来ているだろうから、とも仰っておりました。」


先読みが過ぎるが、ありがたいことではある。

人に見せない広い場所だと、多分中庭だろう。草花を焼いたり切ったりしないと良いのだが。


「なら明日の午後はそれだな。とりあえず飯にするか。一緒で良いんだな?」

「そうね、いただくわ。」


既に夫婦感が出ているが、お互いそれ以外でもやりにくいのでスルーする。息ぴったりだった。


食後、庭で魔法の練習をする。


「魔法に属性があるのは聞いたわよね?基本的には火、水、風、土の4属性があると言われてるわ。ただ、中にはどの属性にも該当しない人は稀にいるらしいけど、まあ今は気にしなくて良いと思うわ。」

「それで、メリアは水属性で、俺は地属性だって話だったな。」

「そう。だから私は水属性魔法を使えるけど、地属性魔法は分からないから教えられないの。だから誰でも使える無属性魔法を教えるわ。前は色々すっ飛ばして魔力遮断結界を教えなきゃいけなかったけど、今日からは初歩の回復魔法を教えるわ。その本に、魔法が色々書いてあるから、読みながら覚えましょう。その本は貸し出しだから、ちゃんと覚えてね。」

「分かったよ。その本分厚いなあ。覚えるのには時間かかりそうだな…。」

「アルディス王国のほとんどの低級魔法が載ってるらしいわよ。でも読んで使うようじゃあ、戦場でも使えないわよ。」

「確かにな。やるしかないか。あ、そういえば【鎮静(ストア)】って魔法?あれは覚えときたいところだな。鍛治が捗るし。」

「………まあ、やる気があるのからやろうかしらね。その方が覚えられるでしょうし。イメージして、詠唱すると消費魔力が少なく済むわ。加えて、詠唱を引き伸ばせばより消費魔力が下がるの。でも低級魔法だから、慣れればイメージから無詠唱でも、連発しなければ毎日使う分にはできるかもね。」

「よし、やってみよう。」

「…やる気があるところにこういうのもなんだけど、なんというか現金ねえ…。」

「楽しいのは魔法具作りというか、鍛治してる時だけだからな。そんなもんだ。」


そして2人は色々話しながらも、魔法の練習を続けた。


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背景紹介17「カイラル・レンディス」

レンディス公爵その人。柔らかい物腰の人物であるがやり手のヒュム族で、外交を一手に引き受ける。その関係上いつもアルディス王側近の文官たちと手紙と書類でやり取りしており、ワルド共和国にいようが全く休みなく働き続けているワーカーホリックでもある。

メリアの嫁ぎ先がひとまず決まって、考えることが減って喜んでいる。

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