3 新たなる魔法剣(4)

翌日。訓練を終えたマグディスは早速、魔法を使うことにした。


「【我らが天の神、地の神、人の神に祈り奉る。我らが血に与えられ賜う癒しの術、ここに顕現す。ーーー鎮静(ストア)ーーー】」


そう唱えて溜めた魔力をイメージとともに解放する。

訓練の疲労感がかなり和らぐのを感じる。


「めっちゃ便利だけど、俺が神とか言うのはなんだかなあ…。」


神。


マグディスは孤児院にいたが、孤児院では宗教を教えていた。

天の神は陽の光を司り、地の神は大地を司る。

しかし人の神は、千年以上前に実在した人間であったという。

その神は、現在にも多くの影響を与えており、その影響のうちの一つは、今この地が4種族で4分割されていることだ。


『エルフ族は北東の森に、ヒュム族は南西の平野に、ドワーフ族は北西の山に、マギア族は南東の沼地に建国し、その地を我が物として住むべし。』


それより以前は、各種族が入り乱れ、些細な争いごとが絶えない環境だったらしい。人の神が顕現されてから、この世界を掌握し、比較的落ち着いた環境を得られるよう種族ごとに土地を分けたのだと伝えられている。

なお、神がどの種族であったのかは定かではない。神のことを記憶・記録して伝えることは教会の義務であるが、神本人のことを調べることは教義上で禁止されている。

よって、神学者とは大概が異端者であるらしい。

そんな神に対し、マグディスは大抵の人と同じく『まあそれくらい凄い人がいたんだな』と思いつつ、年1回くらいは教会で『鍛治が上手くなりますように』程度の欲を見せつつ祈るくらいだった。


「さて、じゃあ剣を見せに行きますか。」


最新作のミスリルの魔法剣を使える機会を得て、ワクワクによって神のことなど一切忘れたマグディスだった。



「待ってたぜ、マグディス。」


そういって、ヘムト家の屋敷で迎えてくれたのは親方だった。


「親方!呼ばれてたんですか?」

「それもあるが、お前の剣も見とこうと思ってな。おっと、今は出すなよ。侯爵様が最初だ。」

「…兄上に侯爵様と呼ばれるのは未だに慣れんな。」


ヘムト侯爵も合流し、中庭に向かう。

兄弟の間ではあるが、思うところが色々あるようだ。


「マグディスも覚えておくと良い。兄上は急に発言を変えるところがあるから気をつけることだ。実際、私もそれで急に次期侯爵に指名された結果、こんなことになっている。」

「親方、そんなことしたんですか…?」

「いや、耳が痛いね。実際、ロバートの言う通りではある。だけど、こんな性格のワシとロバートでは、ロバートの方が実際向いていると思わんか?」

「それはまあ、そうですね。」

「兄上は成績優秀で、知恵も回るのでな。長男であったから次期侯爵確実と言われておったが、その知恵を父上を説得するのに回したようでな。気づいたら私が次期侯爵に任じられ、兄上は鍛治職人に収まっておった。油断ならんぞ。」

「…ははは、昔の話さ。」


それを聞いて、珍しく諦めたような顔を見せるヘムト侯爵に、驚くマグディスだった。



中庭にヘムト侯爵の声が響く。


「よし。ではマグディス、まずは普通に剣に魔力を込めよ。」


そこには既に数名のギャラリーがいた。貴族たちでは、レンディス公爵と娘のメリア、それとマグディスの義姉にその許嫁だ。あと軍属では、隊長と副隊長が来ていた。

全体的に、緊張した面持ちの人と、ショーでも見るかのように気楽な気分の人がいた。

マグディスはミスリルの魔法剣を掲げ、言われた通り魔力を込める。外観上、特に変化はない。


「なるほど。では、前の丸太を切れ。」


マグディスは前に置いてあった丸太の1本に近づき、袈裟斬りにした。

剣は丸太がまるで液体であるかのように通過し、2つに分かれた丸太の上半分は地に滑り落ちる。


「ううむ、こいつは前の以上の切れ味だな。にしてもマグディス、初めてのミスリル製だってのに1発でこの出来かよ。良い腕してやがるぜ。」


親方が口を挟む。尚、教えたのは親方本人であるので、ひょっとしてわざと言っているのかもしれない。


「…よし。では、剣を再度上に掲げ、炎を出してみよ。」


その命令に中庭はざわつき始める。

ミスリルの魔法剣の真価の一部が、ここに現れようとしていた。


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背景紹介18「魔法具」

魔法の込められた道具全般を指す。この中で武器となるものは、魔法武器とも呼ばれる。同様に、魔法剣は魔法武器のうち、剣となっているものの呼び方である。

基本的には、魔力を込めると決められた効果を発揮する。また、込める魔力量によってどの性能が伸びるかはある程度決まっているようだ。例えば、灯りの魔法具であれば魔力を込めるほど効果時間が伸びるが、明るさは変わらない、など。

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