2 マグディスの日常(6)
「よく来たな。メリア殿、マグディス。」
そう話すのはロバート・ヘムト侯爵。
「お世話になっております、ヘムト様。」
「ただいま参上しました。義父上。」
メリアとマグディスは礼の姿勢を取っている。
何故か面会室のような場ではなく、執務室での会談となったことに、マグディスもメリアも少々驚いていた。ヘムト侯爵はとても忙しいらしく、先ほどまで何かを書いていた様子だ。
ヘムト侯爵はペンを置いて、2人を迎えた。
顔は笑っていないが、基本的にそう表情が変わる方ではなかった。ひょっとすると心労が顔に出ているのかもしれない。
「2人とも、今日はそう畏まらなくて良い。マグディスに対する褒賞の話であるしな。昼食を食べる前に、先に少しだけ話しておこうと思ったのだ。」
口調は硬いが、なんとなく優しさが見える声でそういうヘムト侯爵。それに対してメリアは固まった。
「メリア殿、この地は如何かな。いかんせん、ヒュム族の対応には慣れておらんでな。」
「…皆様良くしてくださいますし、不便なこともありませんわ。ありがとうございます。」
少々詰まった返事を返すメリアに、ヘムト侯爵は頷きを返す。相変わらず表情は読めない。
「それは何よりだ。それで、褒賞だがな、マグディス。」
「はい。」
「お前に騎士爵を授与する。」
「え?」
マグディスの咄嗟で気の抜けた返事に対し、ヘムト侯爵は何も返さなかった。なおメリアは右手の指先を額に当て、軽く俯いている。
ヘムト侯爵は、机の横に置いていた書類をマグディスへと見せた。
「…これが、大公様の印のある正式な書類だ。お前には後日授与式に行ってもらう。良いな?」
「わ、分かりました。」
「お前はヒュム族だから立ち位置が微妙なのでな、色々権利は与えられるが、あまり大っぴらに使わない方が波風を立てないだろう。よってこれはどちらかと言うと、お前のことを大公様も保護すると言っているようなものだな。」
「なるほど、そういうことですか。」
騎士爵は、平民生まれに対し与えられる最高の地位だった。騎士爵を持っている者に下手に危害を加えたり、気分を害そうとするならば、裁判上大きな不利となる。なので有能な者を保護するために騎士爵に引き上げるというのは分かる話だった。実際、上級魔術師で騎士爵を持つ者は多く、今は亡き騎兵団第一隊の軍団魔術師は騎士爵だったらしい。
騎士爵は、他にも様々な権利と義務を持つが、少なくともヘムト家に仕える以上は仕事は変わり映えしないし、権利も行使する必要の無いものばかりだった。
「それで、マグディスに対する騎士爵位の他にも、ミスリル塊を融通する事が決まった。数に限りはあるが、年に一回、一定量を購入可能な契約という形になった。」
「本当ですか!!」
「ただし、購入だからな。その分の金はお前の魔法具か魔法武器を売って稼ぐ形になる。私の方でも物によっては買い取るから、その際は言うように。まあ、魔法具ではない武器や道具であれば勝手に売っても構わんが、それらでは買えない値段だ。…必ず言うんだぞ。」
「分かりました!販売用のものを考え、試作品を持ってきます。」
ヘムト侯爵は、マグディスの食いつきの良さに少々呆れながらメリアに目を移した。メリアの姿勢は先ほどから変わらず、指先で額を抑えて軽く俯いている。
「メリア殿は…もう言わずとも分かっている様子だな。」
「…どちらの方が言い出して、どのくらいの方が賛成しているかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「どうやら、アルディス国王様の発案らしい。オルダンドルフ大公爵もお認めになったようで、双方の印が押された書類がここにあるぞ。私もこのようなものを目にするのはかなり珍しい。」
オルダンドルフ大公爵は、ワルド共和国の東側を領土としており、ヘムト家もその傘下に入っている。今現在はワルド共和国の国家主席を兼ねている。
つまり、両国のトップが認めた書類があるらしい。
「私が推測できる事は多いが、まあメリア殿が思うところとそう変わらんだろう。」
「そうですよね…。とりあえず、私が呼ばれた理由は分かりました。」
「まあ、この後の昼食にお父上殿も同席するので、そこで確認されるのが良いだろう。」
「そういたします。」
マグディスは何の話か怪訝に思いつつも、訓練の疲労を休めるためにあまり深く考えないことにした。分からないことは考えないに限る、とそう割り切っていた。
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背景紹介13「エルフ族」
身長はヒュム族と同じくらいであるが、身体能力は4種族中最も劣る。その代わりマギア族と同等以上の魔力量を誇り、また他国と関わらない姿勢から、独自の魔法文化を築き上げている。交流が無いためか、他種族に対しては高圧的。寿命は200歳と言われているが、定かではない。
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