4 騎士爵叙任式(6)

「隊長、治しますよ。」

「ぬう、すまんな。…痛つつ…。」


マグディスは魔法で隊長の火傷を治療する。

今はまだ馬車を走らせて、村に向かう途中だ。


「相変わらず、無属性魔法は得意なのね。」


マグディスは何故か無属性魔法は得意だった。

通常、無属性魔法は誰でも使用できるが、使用した魔力に対し非効率な効果しか出ないことが多いという。

マグディスは上級魔術師としては魔力がギリギリだが、回復魔法と同じく無属性魔法である魔力遮断結界に対しては適性があったため、軍団魔術師として配置できた。


「…その辺りも、魔法具製作に影響があるのかもな。」

「これから調べなきゃいけないことだけど…でも、多分帰ったら次の仕事ね。」


なお、先程の事件は一旦話から遠ざけている。

捜査の役目はマグディス達には来ないので、村について話をして一晩を過ごし、とにかくすぐに無事に帰る。これが大事である。


「一応、特定の魔法に対する相性が良い人というのはいるのよ。でも、貴方みたいに無属性魔法全体に相性が良いっていうのは初めて聞いたわ。」

「なんかそうやって聞くと、自分が異常に見えてきて嫌だな。」

「実際異常なんだから諦めなさい。そのおかげで騎士爵になったのだし。」

「まあ、そうなんだけどな…。」


ふと、日頃静かにしているケイトが口を開いた。


「マグディス様の剣のおかげで、先程の戦闘でも私は無傷でした。ありがとうございます。」

「それは防具の魔法具の性能じゃないか?」

「いえ、それもありますが、防具の魔法具の対魔障壁は、そこまで強力なものではありません。ですので、火の魔法剣相手に無傷で突破するには、どうしても短時間で決着をつける必要があります。マグディス様の魔法剣は、素の出来栄えでも業物に近いですから、そこに魔力で硬さと鋭さが加われば敵が魔法剣でもへし折ることができますね。私は初級魔法しか使えないので、マグディス様の魔法剣の本来の性能は発揮できませんが、それでもかなり有用かと思いました。」


それを聞いていた隊長も会話に加わる。


「私もマグディスの秘密を知ってしまった1人なので、マグディスの剣を貰えないか、侯爵様に交渉しようと思っていたところだ。こんなことがあからさまに起こってくるようでは、やはり必要だと感じたな。」

「隊長もですか。」

「敵が魔法剣まで持ち出すくらいだからな。何とか抑えたが、もう私の剣はボロボロだよ。使い物にはならん。」


そう言って隊長は剣を鞘からおもむろに抜いて見せる。

なるべく上手く捌くよう努力したのだろうが、もう数合打ち合わせれば折れそうだった。


「魔法剣の標準機能で、硬さが上がっちゃうのが効いてくるんですね…。」

「そのようだ。」

「魔力量が多いからか分かりませんが、敵の炎を消しているようにも見えました。対魔法の武器や防具としての活用も出来るかもしれません。」

「そんな効果もあるのね。」


ケイトとメリアも会話に加わる。

思ったよりも、マグディスの武器は汎用性があるらしい。


「ただ、魔力を込めても魔法自体が展開される訳じゃないからな。他に作るとしても盾くらいかな、これは。」


そう話したところで、コラムから声がかかる。


「皆様、村が見えてまいりました。本日は体を休めましょう。」


そして、村に辿り着いたマグディス一行は、村長達に迎えられた。


「なんと!?襲われたのですか!?新たな騎士様になんということを!」

「ああ、相手は覆面をしたドワーフであることまでは確認できている。魔法剣まで使ってきた10騎もの騎兵だ。確実に族などではない。軍隊だろう。」

「ぐぐぐ軍隊!?」

「我々は休まねばヘムト領に戻ることも難しいが、早馬をヘムト様に送ってもらえるか?それとできれば証拠隠滅される前に調査も頼みたい。それなりの痛手は与えたから、ある程度の人数を揃えれば襲われる可能性は低いだろう。目的はマグディスの暗殺だったろうからな。」

「は…はっ。すぐ手配いたします!」

「頼む。ヘムト様も感謝なさるだろう。くれぐれも気をつけてくれ。」


隊長が村長に指示を飛ばす。そして行きと同じく空き家へ入った。


「今回の道程での食料を、ヘムト様と大公爵様からのものだけで食い繋ぐ、というのは毒の回避が目的だと聞いて、半信半疑だったが…本当に必要そうだな。」

「同意するけども、まずは休みましょ?明日1日持たないわよ。特に、隊長さんとケイトがね。」

「あの戦闘の後の夜間の護衛…起きてると余計に気をつかわせるか。そうだな、とっとと食べて寝るとしますか。」


食事を終えたマグディス一行は、前もって用意されていたベッドに入り、不安な夜を過ごした。

翌日、出発後は特に何もなく、疲れた顔のままヘムト領に辿り着き、今度は安心して眠りにつくことができたのだった。


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背景紹介27「ケイト・オルドラッド」

騎士爵の家に生まれた娘で、メリアと歳が近く運動能力が高かったことから、最終的にメリアの護衛に抜擢された。他にもメリアの護衛はいるが、運動能力・戦闘能力・教養など、全体的に高いレベルにまとまっていたため、メリアに最も近い護衛として働いている。

許嫁がいるが、最近は会えていない模様。

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