8 新たな発見(5)
鍛冶が終わって一息つく。
そういえば今日はギャラリーが多いんだったと振り返ると…
「…鍛治終わったけど?」
「あっ!マ、マグディス?そうなのね、お疲れ様!」
「?…あ、ああ。」
何やら、3人でコソコソ会話に熱中していたようだった。
声をかけるとハッとしていつものように振る舞おうとする。
あからさまに怪しいが、別にマグディスにとって悪いことをしようとする相手という訳でもない。
それくらいには信用していい相手だと思っている。
「…何してたか聞かないの?」
「気にはなるけど、言えない話もありそうだなと思って。」
「うーん、そうね…2人はどう思う?」
「私には判断がつきません。伝えるべきとは思うのですが、レンディス様の判断になる気がします。」
「私もそうです。特に私にはこの件は専門外です。」
モーリーとケイトは首を振った。
メリア1人では判断が難しいことらしい。余程のことなんだなと他人事のように感じる。
「お父様の判断ということであれば、マグディスの秘密を本人が知らなくて良いとは思っていないはずね。それに、モーリーの研究が遅れても良くないわね。」
そう言ってメリアはこちらへ向き直った。
「マグディス。」
「…どうした?」
「貴方、鍛治中に魔法を使ってる意識は無い?」
改まって何を言うんだろうか。そう思っていたら予想外の言葉を投げかけられた。
「鍛治中に魔法って…、そんな余裕は無いよ。作るので一所懸命だから。」
「そうよね。でも貴方は確かに魔法を発動していたわ。…ここの空間が貴方の魔力で充満しているから、かなり分かりにくかったけど、モーリーが見つけたわ。」
「…ひょっとしてそれで騒いでたのか?」
「気付いてたのね。この状況で貴方が発動したと考えられる魔法は一つ。」
「俺の魔力を道具に込める魔法、ってことか。」
メリアに合わせるようにモーリーも頷く。
「マグディスさん以上くらいの魔術師の中には、得意魔法を無意識に使ってしまうケースがあると聞いたことがあります。きっと、『魔力を注ぎ込む魔法』がマグディスさんの得意魔法なんですね。」
「俺の得意魔法…。」
「思えば、貴方は回復魔法よりも身体強化の方が速く習得できてたわね。きっと自身の体に注ぎ込むのも近い感覚なのかもしれないわ。無属性魔法なんて研究も全然進んでないから、憶測だけどね。」
いつのまにか使っていた魔法が、得意魔法だったから自然と発動していたのだという。
「ただ、せっかく教えてもらったけど、これが分かってもどうにもならないような?」
「そんなことないわよ。『魔法である』ということが分かったなら、その魔法を真似できれば貴方と同じとは言わずとも、同じようなものを作ることができるようになるわ。」
「なるほど。だけど、自分でも使い方の分からない魔法だから、教えようが無いような…。」
「そこはこれからですね。マグディスさんの魔力の動きを観察したり、マグディスさんが魔法を意識して使えるようにしたり、そのイメージを共有したり、詠唱を付けて効率が上がるか見たりなど…、おおよそ研究の初期段階から始める必要がありますが、数年かければモノにできるかもしれません。」
「数年?…ホントに?」
「はい。研究というのはそういうものですね。」
「…誰がやるの?」
「マグディスさんにご協力いただくことはありますが、まあ私…しかいないでしょうね。」
「え…、なんか申し訳ない。」
「良いんですよ。マグディスさんは悪くありませんし。研究所に残してきた研究に心残りが無いとは言いませんが、こちらは時代を変える発見ですからね。これをモノにできたら歴史に残る成果になるかもしれません。そんな仕事ですから、研究所に残っている仲間が羨ましがるくらいですよ。…まあ、1人でやるので、死ぬほど忙しくなりますが。」
どうやら大きな仕事を無意識のうちに押し付けてしまったらしい。少し罪悪感を覚える。モーリー本人は嬉しそうではあるが、少し気になるところだった。
「そうそう、マグディス。貴方、人のこと心配している場合じゃないわよ?最近回復魔法具作っているけれど、これからはまたミスリルの魔法具も作ってもらわないといけないんだから。」
「ん?でももうミスリルが無いぞ?買う金も持ってないし。」
「お金はレンディス領から出ると思うわ。入手ルートはヘムト侯爵様を頼ることになると思うけれど…、まあ、貴方の名前で買うことになると思うわ。」
「そこまでしないといけない話なのか?」
「それはそうよ、だってこれはレンディス魔法研究所からの、秘密裏だけど正式な依頼になるわ。貴方の魔法具無しで無属性魔法を発動するには効率がかなり悪いから、そもそも研究どころじゃないから。」
「そうか…、分かった。ミスリルを入手次第、作れば良いんだな?」
「そうね。それまでは貴方の鍛治の様子を観察したり、貴方に魔法を試してもらうくらいになるかしらね。」
「そうですね。この件を報告書に起こすだけでも大変なので、マグディスさんとしてはゆっくりやっていただければ良いかと。」
魔力を注ぎ込む魔法と言われても未だにピンと来ないが、どうやら本気で解明と習得に取り組むらしいことは分かった。
「大事だなあ。そこまで構えなくても良いんじゃないか?」
「そうはいかないわよ。英雄と同じくらいの力を他の人も持てて、しかもそれがこれからも続くかもしれないし、もしかしたらそれ以上の発展があるかもしれないのよ?貴方がどう思っていようと、これはそれだけの価値があると周りが思っているのよ。」
「それに、マグディス様はほぼお一人で、強力な魔法具を手にしたマギア族の軍団長を撃退したと聞いています。そのような快挙はここ100年以上聞いたことがないくらいなのですよ。もっと自信を持っても良いように思いますが、増長しない分今のままで良いのかもしれませんね。」
ここまで黙っていたケイトも、メリアの言葉を後押しした。
「まあいいや。とにかくやれることからやっていこう。今日はここまでで、後は回復魔法具を作らなきゃな。」
ちょっと現実逃避だったが、実際時間には追われているので、一旦話を戻すことにした。
「まあそうね。これから先のことはまた先でやりましょう。必要なことはモーリーや私が指示するから、とにかく進めましょう。」
「モーリー殿、大役ですね。」
「これまでだと、『なんでお前がついていくんだ』という状態だったので、皆さんに並べる役目ができてホッとしてますよ。」
どうやら丸く収まったようだと判断して、マグディスも魔法樹を手に取った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから何日か、マグディスには分からなくなるくらいの時間が過ぎ、少し季節も変わったなと思う頃。
マグディスの元に、一つの伝令が届いた。
「そうか…。」
「また、行くのね。」
「まあ、こればっかりはな。」
鍛治を中断し、書類作業をしていたメリアと会話する。
この生活に慣れるくらいには時間が経ったな、とふと思った。
「ん?どうされました?」
「マグディス様に召集がかかったようです。おそらく、マギア族との戦争かと。」
「ああ、そのくらいの時期ですね。ただ、ワルド共和国に援軍を頼むには少し早いような気もしますが。」
「それはおそらく、マグディス様の力を見込んでのことでは無いでしょうか?」
「そうですね、英雄がいれば士気も上がるし、いざという場面でも対応がしやすいですかね。」
モーリーとケイトも今の状況について考察しているが、おそらくその通りだろう。マグディスとしてはただ従うのみではあるが。
「よし、それじゃあ行ってくる。みんな、元気でな。」
剣を腰に佩き、周りに声をかける。前回は声をかける相手もいなかった。随分と変わったものである。
「マグディス様、ご武運をお祈りします。」
「マグディスさん、まだ魔法が再現したばかりでやることたくさんあるんですから、生きて帰ってきてくださいね。」
メリアの方を見ると目が合う。メリアは少し目を逸らした。
「マグディス。」
「…。」
少し間が空いて、メリアはマグディスの方を見る。なんだか泣きそうだなとぼんやり思う。
「新しい屋敷、帰ってくるまでに出来上がってるから。一緒に住む家よ。」
「ああ、必ず帰ってくる。約束だな。」
「うん。…うん。約束ね。」
こうして、マグディスは急ながらマギア族との戦争に出発した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
背景紹介54「新魔法の研究」
新しい魔法は作っただけでは魔力効率がかなり悪いため、いくつかの手順を経てようやく現実的な魔法になる。
イメージの具体化や、詠唱の種類の選定、魔力の動かし方の調査などが必要で、一つの魔法が発見されてから、新規に完成するのはそれだけで通常数年かかると言われている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます