魔法鍛治士マグディスの戦争
適温
1 初めての戦争(1)
マグディスは話としては聞いていたが、今の状況を現実だと信じることができなかった。すぐにでも目を背けたいが、そうすれば命は無い。
それが戦場。
それが、魔国の軍団長と、それこそ目の前で相対するということだった。
「オラオラァ!!」
相手が振り回しているのはハルバードだった。
剣で防御姿勢を取るが、鈍い金属音が響くとともに、マグディスは馬上から吹き飛ばされた。
距離が空いたうちに姿勢を立て直し、痺れた両手で剣を構え直す。打ち付けた背中は痛く呼吸も整わないが、無視するほかない。
一瞬でも目を逸らせば命は無い相手、それが魔国の軍団長という存在だ。
「一撃は耐えるか。面白えな、そうでなきゃなあ!」
言うやいなや、ハルバードの刃が燃え盛る。その炎は大きく、打ち合うだけで深刻な火傷を負う可能性が高い。
振りかぶって、避けにくい横薙ぎをしてくる。
「マグディス!下がっていろ!」
しかしこちらも1人ではない。横合いからマグディスを後ろに突き飛ばしつつ、馬上から剣先でハルバードを弾く隊長。燃え盛るハルバードと剣がぶつかり合い、いくつもの火花が生まれた。
マグディスが狙われる理由は分かりきっている。それは、ドワーフ族騎兵隊の中に1人だけ目立っているヒュム族だからではない。マグディスを中心とする魔力のドームが、騎兵隊を守っていたからだ。
魔力遮断結界。
現在の戦争において無くてはならないこの結界を展開できるのは、ドワーフ族ではほんの一握りの才能だった。ヒュム族でありながら、ドワーフ族の国家であるワルド共和国に所属する稀有な存在であるマグディスが、戦争に駆り出されるのは必然だった。
そんなマグディスの展開する魔力遮断結界に、今も敵の大規模魔法がぶち当たっては消えていく。敵の魔法部隊は結界が消えるのを今か今かと待っている。既に、戦場に駆けつけた2つの騎兵隊のうち、もう一つの隊は壊滅している。それは単純に、魔力遮断結界を展開していた魔術師を敵の攻撃で失った結果だった。
マグディスには分からない話だが、この戦場の味方は通常よりも少なくなっていた。いや、正確には少なくなった。それはワルド共和国に救援要請を出したヒュム族の同盟国であるアルディス連合国も同じように、軍団魔術師を失い大規模魔法で焼かれた結果だった。
「オオオオオオオラアア!」
「なんの!」
隊長に2人程補佐が付き3人がかりで敵を囲むが、それでも押されているのは隊長の方だった。リーチも長く遠心力がかかって凄まじいパワーで振り回される炎のハルバードを弾くには、炎を回避するために剣の先端で捌かねばならず、かなりの集中力と筋力を要求していた。
「ハアッ!!」
「ぬうっ!!」
ついに隊長の剣が弾かれる。周囲で共闘していた部下も吹き飛ばされて膝をついた。仰向けに倒れなかったのは意地のなせる技だろう。
周囲は周囲で他のマギア族と相対している。魔力も力も強力なマギア族は、集団戦は苦手なので数人で囲んで各個撃破が基本だ。
しかし、今はまだ敵の数が多い。この戦場全体で味方が劣勢になっていることが、より状況を悪化させている。
隊長が取り落とした剣を拾う時間を稼ぎつつ、周囲がマギア族を減らす時間も稼ぐ。
それができるのは、今ここにはマグディスだけだった。
(やるしかない!)
剣に魔力を込める。剣技も腕力も体調に劣るマグディスにできるのは、ありったけの魔力をこの自作の魔法剣に込め、力の限り振ることだけだった。
「あ゛あ゛あ゛ああああああ!!!」
声にならない叫びが出ていることに全く気が付かない。
走り込みながら剣を振り下ろす。
「ハッ、死ぬ気かテメェは!?」
ハルバードの迎撃が迫り、そして魔法剣とかち合った。
鈍い音と共に飛んでいく武器。
それは剣では無く、ハルバードの上半分だった。
「何だと!?武器が…!?」
炎を撒き散らしながら転がるハルバードの斧部分。
「今だ、かかれぃ!」
隊長と部下達が剣で敵に襲いかかる。敵も流石に捌き切れ無いと見て、後ろに引いていく。
この間、味方も何とか立て直し、マギア族の何人かを地に伏させる事に成功していた。
「チッ、テメェの武器も魔法具らしいな…『一旦引くぞ、オメエら!!』」
その号令を元に敵が引いていき、マグディスは何とか初めての戦場で生き残ることができたのだった。
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背景紹介1「マグディス・ヘムト」
ヒュム族でありながら、ドワーフ族の国ワルド共和国の貴族ヘムト家に引き取られた養子。小さい頃の記憶がほとんどない。扱いは良くはないが、事実上は騎士と同等の待遇となっている。鍛治に興味があり、最近自分の工房を持つようになった。仕事は兵士としての訓練と、自身の工房での鍛治仕事の2つ。
鍛治が好きだが基本的に真面目な性格。ただし巻き込まれ体質でもある。
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