2 マグディスの日常(1)
「皆、良くやってくれました。戦果については、今後国王陛下及びワルド共和国と調整し、それぞれ適切な賞罰与えられるでしょう。連絡をお待ちください。」
あれから2日ほど警戒体制と偵察を続け、魔国軍が完全に撤退したと判断された。ここからは城内に平常時と同じだけの守備隊を残しつつ、他の軍は帰還することになる。
「また次の機会があるまで、英気を養っておいてください。では、解散といたします。」
アルディス連合国軍総司令官セルズの声をきっかけに、半分ほどの兵が離れていく。ワルド共和国軍も、北へと帰還を始めた。
「初陣はどうだった?マグディス。」
隊長がマグディスへ話しかける。本来、軍として行動中の私語は良くないが、ほぼ安全な帰還中であり、しかも歩兵と速度を揃えているため、急がないし急げない。つまり暇だった。その状況で功労者に隊長が話しかけるのに目くじらを立てる者はいなかった。
「戦闘していたのは2日だけだったはずなのに、かなり疲れましたね。」
「そうだろうな。だが、これからは別の意味でもっと大変かもしれん。」
「どういう事でしょうか?」
馬上であるがギリギリまで近づき、小声で話す隊長。
「孤児としてワルド共和国貴族に引き取られたヒュム族が、自身の造った魔法武器で戦争の趨勢を決したんだぞ?魔法武器の内容自体は緘口令を敷くとセルズ殿は仰っとったが、マグディスのことはアルディス連合国、ワルド共和国双方の貴族界魔法界に伝わっていくだろうよ。」
「そこまでのことが?実感がありませんね。」
「そこまでのことだと思うぞ。お前への論功行賞もどうなるやら。」
「うーん、立場から言ってそこまでのものは無いと思うのですが…。」
「そうともいかんだろう。お前に高い恩賞が無ければ、他のものはそれ以下になってしまう。まあ、楽しみにしておくんだな。」
そう言って隊長は元の位置に戻っていく。嫌な予感がし始めたマグディスだった。
即座に報告書を書き上げたセルズは、少数の共を引き連れてアルディス国の中心アルトランドへと馬車で向かった。
一刻も早く、情報を届けるために。
2日ほど馬車を走らせ続けて、アルトランドの王城へ着いたセルズは、手早く門衛と話を取り付けると足早に謁見の間に向かい、そして目的通りに王の元へ跪き、口上を述べた。
「ドラン伯爵の兄にあたります、セルズ・ドランでございます。国王陛下におかれましては、そのご威光益々強まるばかりで…」
「よい、セルズよ。此度の役目、ご苦労であった。そなたを総司令官としたドラン家の目に狂いは無かったと見えるな。」
王の周囲には近衛隊が付いている他、即座に情報を提供し対応できるように、文官の上層部がいる。結構な大所帯であるが、王の前ではいないも同然の振る舞いをしていた。
「もったいなきお言葉でございます。私は陛下よりいただいた強権を使用してしまい、誠に申し訳なく…」
「それも良いのだ。そもそもそなたに強権を渡しているのは使うためである。我が息子がそなたの邪魔をしたようであるな。【一言】、添えておくとしよう。」
「はっ。」
実際、強権を持つドラン家が政治的なやり取りで揉めることは少ないのだが、今回は勝手が違った。自身の遠い上司にあたる王家の者が、自己の領地の利益の為に強権の発動に待ったをかけたのだった。結果的には、強権の発動をしてもしなくても、特に戦況や損耗率に変化は無かったと思われる。だが、そのせいで味方を危険に晒したことは、罪であった。
だがしかし、王にとってみればそんな話は報告書で済む話だ。つまり、本当に話したいことは別にあり、そしてそれは秘匿性の高い内容であると想像がついた。
王は目配せをした。
「人払いを。」
王から見て左にいた近衛騎士が命令する。王と近衛騎士、近衛魔術師とセルズだけがその場に残った。
「それで、何の件であるか?」
王が尋ねる。
「魔国軍を引かせる決定打となった、ワルド軍の軍団魔術師が持っていた魔法武器についてでございます。」
近衛魔術師の眉が動いた。
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背景紹介8「世界各国の状況」
南西側のアルディス連合国と南東側の魔国カイゼアムは常に敵対状態であり、北西側のワルド共和国はアルディス連合国と同盟している。また北東の広大な森にはケズィン神聖帝国があり、永世中立を謳っている。結果、国家間での交易が成立しているのはアルディス連合国とワルド共和国のみである。基本的にアルディス連合国は食品と魔法具を輸出しており、ワルド共和国は鉄器と材木を輸出している。
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