2 マグディスの日常(2)

「それは、如何なる性能なのでしょうか?」


近衛魔術師が王の代わりに尋ねる。ここにいるセルズを除く3人が思う、当たり前の疑問だった。


「まず参戦した初日は、ワルド軍によると、かつて奪われた『煉獄ハルバード』を叩き切ったとのことです。2日目は遠見の魔術師が目撃しておりましたが、剣からヒュム族10人弱程の炎が吹き上がり、同じく『煉獄ハルバード』を溶断したとの情報があります。また、ワルド共和国によると、敵の持つおそらく『神の弓』の一射を受けて矢の方を折ったとのことです。」

「そんな出鱈目な魔法具を、ドワーフ族が造ったというのか?」

「いえ、違います。最近ワルド共和国で、ヘムト家の養子になったマグディス・ヘムトというヒュム族の青年です。彼は魔法鍛治士と名乗らされており、実際鍛治士でありながら魔法具士でもあり、そして軍団魔術師としてこの戦争に参加しました。」


それを聞いて考えこむ近衛魔術師。その間に、近衛騎士がさらに疑問を口にした。


「しかし、何故1日目から炎を出さなかったのだ?確認できていなかっただけだろうか?」

「いえ、それが、どうやら彼は炎を2日目まで出せなかったようなのです。」

「それはおかしいですね。」


近衛魔術師が話す。


「魔法具は、効果が製造時点で定まっています。よって魔力を込めれば効果が発現するはず。それが2日目まで出せなかったということは……、、、……。」


が、途中で黙ってしまった。結論が信じられない様子だった。それを見て王が命令する。


「まず言ってみよ。考えはそれからでも良かろう。」

「はっ。…おそらくセルズ殿も同じ結論なのだと思いますが、その剣は伝説の『無属性魔法具』の可能性があるのかと。」


そこで、セルズも話す。


「私もそう考えました。初日の後、魔法武器の属性を彼に尋ねました。しかし彼は属性を知らず、そしてその剣には硬くなり切れ味が上がる効果しかないとはっきり言いました。嘘で言っているようには思えませんでしたし、属性を知らないのもワルド共和国という魔法に疎い地域ゆえのことだと考えます。彼は神代の武器と近しい魔法具を作り出せる可能性があります。」

「むう。そんなヒュム族がワルド共和国に確保されている状態ということか。なんとかこちらに戻ってきて欲しいものだが…」


王が悩む。ダイヤの原石をどこで見落としたのかは不明だが、磨ききっていないダイヤならばまだ入手できるかもしれない。


「今回の論功行賞で、敵の撃退に最も貢献したのは彼ですので、如何なる褒賞を出すかというのは私では判断のつかないことと思いました。ですので、こうして直接情報をお渡しするとともに、ご判断をお伺いしに参った所存でございます。」

「うむ。なるほど。これは他の者には聞かせられんな。引き抜きや暗殺があり得るということだな。分かった、褒賞については考えておく。お前たち、マグディスのことを部下に命じて調べておけ。気取られるなよ。そして何より部下にも決して理由を話すなよ。気付かれてからも時間を稼げるのでな。」

「「はっ。」」


王が即座に近衛騎士と近衛魔術師に命じた。

セルズは必要な話を終えたため、王に挨拶と礼をして去っていく。そして王が謁見の間より去ると、近衛騎士と近衛魔術師は即座に部下と話に行った。


王は執務室の椅子に座り、報告書を読みつつ、少し考える。

(そういえば、あやつが今ワルド共和国に出向いているのでは無かったか?使えるかもしれんな…)

王は選択肢の一つを頭の片隅に置き、そして文官を呼び出し、褒賞の分配を命じた。


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背景紹介9「魔法」

この世界で生きる「ヒト」は、生まれながらに魔力を持ち、その属性は決まっている。そして魔法にも属性があり、例えば火属性魔法であれば、火属性の人しか使用できない。ただし、誰でも使用できる無属性魔法という分類も存在する。魔力遮断結界は無属性魔法のため、魔力が十分にあり、かつその魔法に対する知識(詠唱句や概念など)があれば、属性に関係なく魔法を使用することができる。

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