3 新たなる魔法剣(6)
「で、マグディス、ちょっと貴方に聞きたいんだけど…」
メリアは顔をずいとマグディスに近づける。
フラフラのマグディスには逃げようもない。
…というか、周りはギャラリーで囲まれている。
「魔法具ってどういうものか分かってる?私は知ってると思ってたからあんまりそこは教えなかったんだけど。」
それを聞いてマグディスは拍子抜けした。
「魔力を込めれば魔法が使える道具だろう?流石に知ってるよ。」
メリアの表情が険しくなる。
「じゃあ次の質問ね。魔法具は元々何のために作られたか知ってる?」
ちょっと考えこむマグディス。
「俺が聞いた話だと、確か『魔法が使えない人でも使えるようにする』っていう理由だったと思う。」
「『魔法が使えない人』ってどんな人?」
「え?…属性が合わないとか、魔力が少ないとか、魔法を学んでないとか?」
「そう。魔力が少ない人でも使えるのよ。」
そこで、ふと思い出す。
この前、炉の魔法具を使った時のことを。
「もしかして、魔法具は魔力の消費が少なくて済むのか?」
「そうよ。先に言っておくと、原因は解明されて無いわね。」
「この魔法剣には俺の魔力が大量に込められてる、とも言ってたよな」
「言ったわね。」
「じゃあ、ひょっとしてかなり魔力消費を抑えてくれる?」
(それって、凄い魔法具なんじゃないか?)
マグディスは答えながら思う。
メリアはおそらく答えに辿り着いている。
怒っているのはきっと、それに気づかない自分に対してだと悟りながら会話を続ける。
「そうみたいよ。それでいて、私は水属性の魔法使いなの。あなたは?」
「地属性だって言ってたな。…別の属性の魔法を使用可能にする効果がある?」
「そのようね。それでいて、多分イメージを明確にすればするほど魔力は少なくて済むんじゃないかしら。詠唱も覚えれば…驚くほど少ない魔力で魔法が使えそうね。」
「えっと…それは何でだ?魔法具なら詠唱とか要らないんじゃないのか?」
そうマグディスが口にすると、メリアは呆れたようにため息をついた。
「私はそれを確認するために、ちゃんと冷静にイメージしてさっきの魔法を使ったのよ。あなたの魔法剣には魔法が込められてないから、魔法の発動そのものは魔法剣の使い手が行う形みたいね。あれだけの魔法を2人とも行使して、あなたは魔力切れを起こしてるけど、私は起こしてないでしょ。あなたより私の魔力は多いけど、それだけじゃないの。魔力の力押しで魔法を発動するのはあなたくらいよ。」
「…要するに、俺の魔法剣の効果は、魔力の大幅な補助と、別属性を使えるようにするだけってことか…。」
「…だけっていうには、魔力の補助が大きすぎるけどね…。それに、そのおかげで、どんな魔法にも使える万能魔法具になってるし。…私、なんて報告したら良いのかしら?」
「それについては、私が決めねばならないな。」
ヘムト侯爵が口を挟んだ。今の会話は全て周囲に聞こえている。
緘口令を敷くなら今しかない。
「まず、今回の件だが…ここにいる者以外には、基本的に話すな。もしマグディスが今後も活躍するなら、その有用性はそのうち広まっていくかもしれんが、魔法具の性能や性質まで教えてやる必要はない。噂される程度にしておけ。」
「僕の方はアルディス王には報告するけど、それは良いよね?」
「構わん。というかこちらもオルダンドルフ大公爵には伝えねばならん。逆に言うとそのお二方だけは例外だな。それ以外には話さない方が良いだろう。」
「今後の計画的にも問題はないかな?」
「ああ、アレか…。マグディス、ついでに言っておくことがある。」
自然とヘムト侯爵とレンディス公爵の貴族同士の会話になったが、途中でマグディスに目が向けられる。
「今後、色々な戦に連れて行かれるだろうが、なるべく殺すな。目立ちすぎるだけでなく、相手によっては戦力の低下に繋がるからだ。」
「君の騎士爵叙任とメリアとの婚約にあたり、アルディス王家からオルダンドルフ大公爵家に対しかなり多くの『贈り物』がされているんだ。レンディス公爵家じゃないよ。つまりそれは、アルディス連合国内での戦争や紛争への介入も期待されているということだね。もちろん、連合国家ではない、単体のアルディス国に味方する形でだ。」
「魔国が仕掛けてくるのはおよそ1年に2回。大体時期も決まっとる。魔国との戦争がない期間は、アルディス連合国内部、ワルド共和国内部でのゴタゴタは良くあることなのだ。それらに対する援軍として、お前は頻繁に呼び出されるだろう。そしてお前が本気を出せば、敵を殲滅出来るかもしれん。しかしそれでは魔国が攻めてきた時に戦力が不足する。だから覚えておけ。『敵は、なるべく殺すな。』」
その2人の剣幕は強くはなかったが、しかし強い意思が感じられるものだった。疲労しているマグディスも背を伸ばす。
「本当にそこまでのことができるとは思えませんが…わかりました。」
その返事を聞いて、2人の目は少し優しくなった。
「全く。お前は先が見えておらんからな。これから魔法を覚えるだけでも飛躍的に強くなる上に、さらに良い魔法具を作ればそれ以上となっていくであろう。」
「まあ、魔国相手なら本気の魔法を使っても良いと思うよ。目立ちすぎるのは考えものだけどね。」
言い終えると、レンディス公爵はメリアの方を向いた。
「メリア、これからマグディス君は各地の上級魔術士を訪ねて様々な魔法を覚えてもらう必要がある。交渉役も必要だし、何より道中の移動時間は魔法を覚える時間に充てるべきだ。だから、基本的に付いていってもらうことになる。よろしくね。」
「…はい。分かりました、お父様。」
諦めたように斜め下を向きながら返事するメリアだった。
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背景紹介20「水属性魔法」
水そのものを操ることが可能で、氷にしたり蒸発させたりすることが可能。また温度を変えることもできるので、例えばお風呂を沸かせることができる。火属性魔法と異なり温度を下げることも可能で汎用性が高め。ただし攻撃にはあまり向いていない。上級魔法に遠見の魔法があるが、『目』の前に水をレンズ状に溜めることで、メガネの役割をするものであり、操作が繊細で非常に難しい。
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