4 騎士爵叙任式(1)

騎士爵叙任のため、オルダンドルフ大公爵領への出発の前々日。

マグディスは魔法具の調整をしていた。

この数日で杖も試作してみていたが、木製だとどうにも思ったように魔力が通らないようで、金属製の杖ならなんとか出来たりはした。

これも持っていくが、どちらかというと売り物だ。

やはりというか、ミスリル製魔法剣の方が魔力の通りが良いので、これと後もう一品を叩き直していた。

叩き直すと、魔力にも磨きがかかる気がするので、後悔のないよう念入りに叩く。


「っふー。こんなもんかな。」


汗を拭う。今日はメリアは来ないらしいので、十分に鍛治に打ち込んだ達成感を味わう。

その後、メリアが作ってくれたお風呂の魔道具があるので、それに浸かって疲れを取る。

その日は早く寝た。


翌日。


「相変わらず、朝食にはいるのな。」

「いたら迷惑かしら?」

「…いや、正直に言えば、ストレが迷惑じゃないなら良いが。」

「レンディスお嬢様にご奉仕できることは幸福なことでございます。お口に合えば良いのですが。」

「いつも美味しい朝食をありがとう、ストレさん。」


割といつも通りの会話だった。明日が出発ということを除けば。


「…メリアにはこれを渡しておこうと思う。」


そう言ってマグディスは手のひらサイズの木箱を差し出す。箱自体は質素だ。中でカランと音がする。


「…まさかとは思うんだけど、装飾品?」

「まあ開けろって。説明はする。」


渋々メリアが開くと、銀色の指輪が入っている。

ただ、どことなく緑がかっているように感じられる。


「これは…」


怪訝な表情から少しひくついた顔に変わるメリア。


「まあ、対外的には婚約指輪だということにしておけば良いんじゃないかと思ってる。ご明察の通りミスリル製、しかも魔法剣より純度は上だ。体積的に魔力がどれだけ入っているかは分からないけど、俺の魔法剣と同じ使い方が出来るはずだ。」

「護身用、と呼ぶにはちょっと過剰過ぎる気もするけど。分かった、受け取るわ。」

「俺の魔法具は、上級魔術師じゃないと使いこなせないし、かといって身近にはメリアしかいないし、そして緘口令で使い方を話せる相手がいないしな…。」

「ミスリル製の魔法具を作れる相手が私しかいなくて、売り物にもできなかったと。そういうことね。」

「ああ。サイズ調整は今日中にするから、あとで教えてくれ。」


そこまで言い終えると、マグディスは大きなため息をついた。


(メリアは俺との、というか結婚自体が好きじゃあ無さそうだもんな。やっぱり別の理由も必要だったか。受け取ってもらえてよかった…。)


「何?緊張でもしたの?」

「したよ。して悪いか?」

「はあ…このくらいで緊張するなんて、先が思いやられるわ。もうしばらくしたら大公爵様に会うのよ?私は付き添うけど、変なこと言わないでよ?」

「…言わないよ。失礼な。」


その様子を側で見ていた執事のコラムとメイドのストレの2人。メリアがいつもより少し嬉しそうだなと感じるのだった。


そして翌日。


「メリア。気をつけるんだよ。なんせ君1人で行かせるのは初めてだからね。」

「分かっていますわ、お父様。それにケイトもいますから、心配なさらないでくださいませ。」

「はっ。私が命に代えてもお守りいたします。」

「ケイト、分かっているとは思うが、ここで襲われるとしたら相手はドワーフ族だ。賊でも力は相手の方が上手、上手く逃げるようにね。」

「はっ。」


ケイトと呼ばれたのはヒュム族女性の護衛である。

今までもメリアの周囲で護衛と身の回りの世話の一部をしていたが、部屋の中にいることは少なかった。

マグディスとは、何度か会って挨拶くらいしかしていない程度の仲である。

今回は少数での移動ということで、レンディス家からはケイトだけを連れていくようだ。


「ランディス隊長。頼むぞ。それからコラム、面倒をかけるな。」


ヘムト侯爵も隊長と執事に声をかけた。


「マグディス。」

「はい。」

「お前は魔法鍛治士であるが、世間一般での認識は分かるか?」


ふと考え込むマグディス。

自分の印象を考えたことはあまりない。


「いえ、分かりません。」

「ワルド貴族に魔力『だけ』で取り入った成り上がりもの。あるいは、たった1人でマギア族軍団長を倒す英雄、などだ。よく覚えておけ。」

「…そんな風に思われているんですか?」

「そうだ。嫉妬され、そして力でねじ伏せようとする奴は後を絶たんだろう。半端者は大したことはできんだろうが、お前の役割と価値を履き違える奴はいくらでもいる。組織的にお前を害そうとする奴らは、相当な準備をして来るだろう。それを肝に命じよ。」

「分かりました。」

「予定はコラムに伝えてある。帰って来た後もすぐ次の仕事が入る可能性が高い。だから予定を引き延ばさず、すぐに帰ってこい。これは大公爵様にもご了承いただけるはずだ。」


そして全体を見回して、ヘムト侯爵が告げた。


「短い時間だが、よく学んで、そして無事に帰ってこい。分かったな。」

「はい。ヘムト様。」

「はい。義父上。」


そうして馬車に乗り込み、新たな嵐の予感を感じながら5人は出発した。


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背景紹介22「風属性魔法」

海上では船を動かすのに水属性魔法と並んで活用されているが、あまり実生活での恩恵はなく、攻撃魔法としても低級では火属性に劣り使い道が狭い。

上級魔法には強力な攻撃魔法や視覚に影響する魔法、空を飛ぶ魔法が使えるようになるため、上級魔法からが真価を発揮する。

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