8 新たな発見(1)
あれは、誰だろう。
多分、「あり得たかもしれない未来」の私。
この夢は何度も見ているような気がする。
どこかの貴族の跡継ぎに嫁入りし、必死に子を産んで育て、他領の貴族や商人と交流を重ねて、気付けば老後を迎えるような、そんな未来。
私は、この将来が大嫌い。
周りの皆も、他の貴族の娘も、そういう人生は「勝ち組」だと言っていた。自由に着飾って遊べる人生なんだって。「それを選べるのにそうしない娘は馬鹿」…表立ってそう言う人はいなかったけど、話をするとそういう思いがあることをひしひしと感じた。
そして、だからこそ良く知っている。「高位貴族の娘は楽でいいよな」って。そう言われているということを。
私は、そんな1人で着飾って遊びたい訳じゃないし、それを見せびらかして褒められたい訳でもない。
ただ自分なりに満足したいと思ったの。
世界の色々なものを見て、できるなら自分でも何か作ってみたり、あるいは仲間と一緒に"何か"を完成させたり、そういうことがしたい。
それをするには、結婚という王道の選択は私には向いていないなと思った。
幸い、私の手元には「膨大な魔力」という武器があった。
これを磨いて護身術にしたり、しつこい男を撃退した。まあ、大体そんな男のほとんどは貴族の息子だったけど。親から口説いてこいとか言われていたんでしょうね。
そうこうしているうちに、私の周りには少数の変な人しか集まらなくなった。そういえばジュミィもその1人だったっけ。
もうレンディス領は見飽きたと思っていた頃。そんな私を見かねて、お父様が私を仕事ついでに旅行に連れて行ってくれた。
それから数年経ち、お父様はワルド共和国に私を連れて行ってくれた。私は、そこにヒュム族の男の子がいるとは聞いていた。
使用人には反対されたが、私はマグディスに会った。始めの印象は、『どこにでもいる田舎の青年』だった。ただそれだけ。ただ、王族や家族以外はみんな私に笑顔を向けてくるのに、マグディスだけは私に疲れた顔を見せてきた。
それは普通なら、『上位者に対して腹立たしい!』と怒る人もいるくらいだけど…私は驚きが勝った。だから、私はマグディスの日常を覗いてみた。そしたら、とんでもなく忙しいスケジュールで動いていることが分かった。
休みなく毎日、訓練と鍛治と勉強(大体寝落ちしていたけど…)を繰り返していた。忙しい貴族は休みのないスケジュールになることはあるけれど、それでも移動時間は馬車の中で休んでいるし、それなりに趣味の時間は取るものだ。その趣味が他の貴族との友好関係に繋がることもあるから、教養としても必要だったりする。しかしマグディスは趣味の時間も無かった。
…いいや、趣味の時間はあった。鍛治の時間がそれだった。『仕事が趣味』というタイプだ。だからその間だけは、笑顔こそ無いものの、非常に真剣に取り組んでいた。
そしてその姿が、何より眩しく見えた。
どう、と言われると、よく分からない。普段の姿とギャップが大きかったのかもしれないし、『ものを作る』ということが私も好きで、それで惹かれたのかもしれない。
それからは、マグディスの行く末を見てみたいと思うようになった。
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いつものように朝早く起きる。何か、長い夢を見ていた気がする。枕元のベルを鳴らして使用人を呼び、着替えながら考える。
(私の中で、マグディスに対し思うところでも変わったかしら…?)
あまり意識していない部分だったかもしれない。
最近は旅で寝床がいつも変わっていたから、しっかりと寝られたと感じられたのは久々のことだ。だからこそ、あまり気にしていない昔のことが夢に出たのだと思う。
「お嬢様。本日の朝食ですが、いかがなさいますか?」
「要らないわ。いつも通りマグディスのところでいただくから。」
「承知いたしました。」
そう伝えて、ヘムト家の客室を後にする。
また忙しく、楽しい日々が始まる。
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背景紹介50「火属性魔法 その2」
火属性魔法そのものの活用の幅は狭いが、料理の分野においてはアルディス王国、特に王都においてかなり研究が進んでいる。
焼き目と香りをつけるために表面だけを焼いたり、低温熟成用に料理の内側で火を燻らせたり、あるいは酒に火をつけるパフォーマンスや、地球で言う誕生日ケーキの蝋燭のように飾りとして魔法の火を灯すなどが研究・実用化されてきている。
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魔法鍛治士マグディスの戦争 適温 @tekion_tekigi
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