第6話 太陽祭の準備が始まる。
「……見ろよ、懐かしいなアレ」
「バカ、懐かしいのはお前だけだよ」
「お、やってるやってる。ルーキーくんがんぱれー!」
「採取用の袋ならイチニーの伏せ森商店がオススメだよぉ! 安いし頑丈!」
「ってうそ……!? めちゃイケメンなんですけどー!?」
「はは、おいそこのルーキー! 1年も経てばお前も俺たちと同じ景色を見ることになるぜ!」
第1階層の森林地帯のヌカ草の群生地から小学生スタイルでヌカ草を大量にギルドへ持ってきた。流石に道中、他の冒険者になんだコイツ……と信じられないような目で見られたり、アドバイスされたのは少し恥ずかしかった。見せもんじゃねぇぞ!
「あ、探索お疲れ様です! 初めての探索の成果は如何ですか? ……何と言うか、その……独特な運搬方法ですね……?」
「採取したものを入れる袋もない一文無しなもんで……常時依頼の納品はどこで行えばいいんですか?」
「納品は右側のカウンターで行いますよ!」
「ありがとうございまーす」
小学生スタイルでヌカ草を右側のカウンターに持っていく。まぁ納品できりゃ良いんだよ! うん!
「……坊主。常時依頼だな? 話は聞いてたぜ。ヌカ草は1束あたり360コルってとこだが」
「これ全部でお願いします」
「出来れば束にして貰いたいんだが……まぁ素直に聞くやつも少ねぇし、もう諦めたさ。どれどれ……」
カウンターにヌカ草を向きを揃えて載せていくと、全身褐色でムキムキのナイスガイがヌカ草を数え始めた。
「よくこんな集めたもんだな。全部で36束か。久々にこんな持ってくるやつ見たぜ。……状態もまぁ悪くはねぇが……端数込みで合計12960コルってとこだな」
「うっす! ありがとうございます!」
銀貨1枚に大銅貨2枚、銅貨1枚に4枚の小さい銅貨、そして6枚の小さい鉄板を貰った。
なるほど……? 銀貨が1万、大銅貨が1000、銅貨が500、小銅貨が100、小鉄貨が10ってとこか。異世界あるあるだな。
早速宿探しと異世界の飯を食わなくては。ふふふ、屋台で買い食いとかテンション上がるぜ。
貨幣を握りしめ、財布に入れようとして衝撃の事実に気付く。
……財布も小銭入れもないんだった……。
素手でこれ持ってくの? お駄賃握りしめた小学生じゃねぇか! ぐぬぬ……そいや、イチニー?とやらの伏せ森商店で袋が買えるって言ってたな。
とりあえず行ってみよう。
「おい坊主」
「はい?」
「服装を見る限り、この街に来たばかりだろ。宿探しに困ってんならゴーサンの星華亭が良いぜ。坊主の顔も悪くねぇしあのバカも気に入るだろ」
……そっち系のお店だったりしないよな。筋肉モリモリマッチョマンに悪いやつは居ないと信じよう。
「あー、わかりました! そこにはどうやって行けば?」
「……そうだったな。新参だったか。手早く説明してやるよ。この街はレクサスを中心に放射状に作られてる。パイみてぇに9分割された街があるってことだ。このギルドがあるのはエレア第4番街1区。街に住んでるヤツはヨンイチって呼んでるわけだ」
なるほど。塔を中心とした街ね。ということはゴーサンの星華亭は第5番街3区にあるってことか。
「塔を前にして右側を進むと数字が増える。逆も然りだ。キューの右だとイチに戻るが、まぁそこは住んでりゃ覚えるさ」
「マジでありがとうございます! 早速行ってきます!」
「おう」
軽く黒人ナイスガイに会釈して、冒険者ギルドを出る。
小銭をあんまり持ってると手に匂いが移りそうだし、さっさと袋を手に入れたいところだが。
イチニーの伏せ森だから……第1番街2区ってことか。
日もそろそろ落ちかけてるし、急がねば。
えぇと……冒険者ギルドがまず第4番街1区だから、第1番街2区には塔の左に進んでいけば到達するな。
気持ち急いで移動する。周りの風景は目まぐるしく変わり、露店や商店、青空レストランのような酒場などが目に入る。まともに店の位置を覚えようと思ったら1年くらい掛かりそうだ。
正直色んな店があってめちゃくちゃ気になるが……バカでかいなレクサス。デカすぎだろ。塔の周りを9分割ってことは、1つの街が40°辺りを占めるってことだろ。そして街の横の長さは塔に近ければ近いほど短くなるはずだ。
なのに塔の1辺で何キロあるんだ? 正確に計測は出来ないが、今まで歩いただけで1キロちょいはある気がする。この街の住民は健脚を誇って良い。
少し塔から離れた位置取りで大通りを移動する。すると驚くべきものを発見した。
極彩色で足がムキムキの鳥が馬車を引っ張っているのだ。めちゃでかいし可愛い。
他にも二足歩行の恐竜のような生き物や、白いチーターのような生き物、サイもどきも居る。
これらの生き物に共通するのはみんな派手な馬車を引っ張っているということだ。街の住民が串肉を片手に会話をしているので、盗み聞きをさせてもらおう。
「お……あれは、そうか。そろそろ太陽祭の準備の時期か!」
「なんだよ忘れてたのか? 全く信仰心に乏しいやつだよお前は」
「う、うるせぇな。日常的にミオス様に祈ってると忘れるもんなんだよ」
太陽祭、信仰心、ミオス様ね。
おそらく太陽の神様を称える的なお祭りがあるのか? いいね、ワクワクしてきた。
「毎年見てるけど、やっぱ不思議なもんだわ。右の馬車をひいてるのが南方に生息してるらしいケニアドラゴ、その隣が北方のモーモル、先頭のは色合いが特に美しいチシャ鳥の希少種だろ? 有り得ねぇよ普通」
「流石は近隣諸国の王様が軒並み褒め称えるパレード団だな。たしか月華の燐光って名前だったか?」
「そうそう、まったくイカした名前してるぜ。……そいや去年に新しい団員が入ったんだろ。去年は忙しくて俺は見に行ってなかったんだけどよ……聞く話によると、新しい団員は南方のクェーバ砂漠から来たムチムチの女らしいぜ?」
「なっ……おい、本当なのか? クェーバ砂漠と言えばよ……ヒラヒラ衣装の女の舞踏が有名なとこだろ!? あのパレード団は綺麗どころしか居ねぇし、はは。この為の貯金だったのか……悪いな相棒。俺は未来を予知してたみたいだ」
「ばーか、先月俺もナナナナの宝翔カジノで大当てしてんの忘れたかよ。もちろん俺も行くぜ、相棒」
下世話な男たちが下世話な結託をしている。何やら頷きあっているのが見えるが、そんなことはどうでもいい。どうやら近いうち太陽祭という祭りがあるらしいな。そこにはパレード団も来るってことか……舞とか披露するのかな?
俺も見てぇぇぇ! 異国情緒溢れるバルンバルンダンス! ただ言葉を聞く限り貯金……つまり金が必要となるようだ。くぅ……! 稼ぎまくるしかないなこれは。
「今年の太陽の聖痕は誰になるかねぇ」
「少なくとも、快活で正直者を好むミオス様には俺たちゃ絶対選ばれねぇよ」
「違いねぇや。ハッハッハ!」
ハッ! いかん、こんなことをしている場合ではない! 日暮れも日暮れの良いところだ。この調子じゃ宿にも伏せ森商店とやらにも辿り着かねぇ! 急がなければ。
俺は人間をやめるぞ! ジ○ジ○ォ!
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