第2話 天を衝く巨塔。
「おい、聞いたかよ! また聖女様が新しくお国さんから召喚されたんだと!」
「ばっかおめぇ、んなもん喜んでどうすんだ。どうせまた貴族様のしょうもねぇ怪我でも治させられて、俺らのところにゃ来ねえよ」
「ただでさえ迷宮都市はお貴族様に人気ねぇんだぜ?」
「にゃはは! あたしに喧嘩売ったのが間違いだったのにゃあ! 賭けは賭けにゃん。こいつは頂くにゃんね〜」
「……くそ、くそぉ! 俺の大切な天命のペンダントが……! てめぇさては冒険者だな! 俺の命の保険が……!」
「採れたて新鮮の発掘品の直売りだよ〜! 今なら未鑑定でも発掘品を買い取ろうじゃないか! さぁ買った買った!」
「へへ、お客さんお目が高いね。こいつぁあの鍛冶師ログレスが下積み時代に鍛えた代物でね。本当なら貴族にでも売り払おうと思ってたんだが……武器ってぇのは使われてなんぼだ。今だけ、特別にお客さんに売ってやるよ」
耳に鳴り響く雑踏。音と同時に感じ取れる太陽の光。気迫と活力に満ちた会話。汗臭いようで、どこか皮のような匂いもする。
目を開く。
猫耳。グレートソード。むき出しの果実。大きな槍。トカゲの尻尾が生えた人。エルフのように尖った耳。2メートルを優に超える巨漢。
ここは一体……どこだ?
目の前には、天を衝くほどの巨大な塔とその根元へと通じる商店街のようなものが広がっていた。多種多様な人が思い思いに動いているのが見て取れる。
トカゲ男に、猫耳女……エルフ耳に、ムキムキのマッチョだと……?
間違いなく俺は死んだ。腹の上をデカめの車のタイヤが2回連続で通過しやがったことも覚えてるし、可愛い子の泣き顔もしっかり覚えてる。
ということは……これはまさか、異世界転生というやつか?
ぼんやりと目の前の風景を眺め、圧倒される。
「おい、商売の邪魔だよあんちゃん。いつまでうちの前で立ってるつもり……ほぉ! あんちゃん偉い色男じゃないか! うちも商売だからねぇ……でもあんちゃんのためなら1つくらいなら……こいつなんてどうだい?」
横から声を掛けられる。どうやらどこかの店の前で立ち往生していたようだ。少し申し訳ない気分になる。
にしても妙な言葉を聞いた気がするが……かっこいい? 俺が?
何かを渡されそうになったので、大人しく頂くことにする。
誰かの好意を無下にするものはモテないんだ。俺はよく知っている。
「あー……ありがとうございます。これは?」
「メイサだよ。4番レクサスの第1階層から良く採れるもんだろう? この街に住んでるなら、あんちゃんも100回は食ったことがあるだろうさ。うちは専門の冒険者を雇ってるからねぇ……そんじょそこらの果物屋より100倍美味いよ! ほら、食ってみいや!」
店主の恰幅の良いおばちゃんが不思議な顔をしている。この果物はメイサ、メイサって名前か。
渡されたものは紫色の軽い果物のようだ。
とりあえず食べてみる。気のいいおばちゃんのようだし、媚びを売っておいて損は無いはず。
!
「美味い……! 凄い瑞々しくて、しかも甘い! めっちゃうまいっすねこれ!」
「そうだろうそうだろう! うちの専属もメイサ採りは中々の腕でねぇ。たまに商品をパクついたりするのは玉に瑕なんだけどね」
「代金はあんちゃんのその顔に免じてなしにしといてやるよ。にしてもあんちゃん……この迷宮都市の外からやってきたクチだろう?」
実は異世界から転生してきたんですー……なんて言えるわけないしなぁ。ここは話を合わせるとするか。
「! よくわかりますね! 実はそうなんですよ。食い扶持を探して村から出てきた次第でして……」
「それは本当かい!? たまげた村もあるもんだねぇ……あんちゃんを村から出すなんて。あんちゃんみたいな天女かどっかの神様の使徒みたいな顔は男娼として売れそうなもんだが……」
「それは……家族の助けもあって上手いこと行きまして」
「はっはっは! やるじゃないか! 顔だけじゃなくて頭も回るとは、気に入った。ここじゃ食い扶持探しにゃ事欠かないよ! 手早く稼ぐならあたしとしちゃ娼館を勧めたいとこだが、あんちゃんみたいな度胸と頭の回る人なら冒険者も1つの道だねぇ」
そんなにいい容姿をしているのか俺は。どうやら転生時に顔が整形されるタイプの異世界転生のようだ。
ギラついた目を見せるおばちゃん。
にしても冒険者か……。
いいな、それ。何をするかはわからないが、言葉の響きだけで楽しそうだ。
「冒険者……いい響きですね! どこで冒険者になれるんですか?」
「冒険者ギルドは……そうだね。ほら、大きな塔が見えるだろう? 神の具現。天のきざはし。制覇すれば、世界を牛耳る力が手に入ると言われる迷宮の塔、レクサスがさ」
「迷宮の塔……レクサス!」
なんだよそれ。
神の具現? 天のきざはし? 世界を牛耳る力? めっちゃくちゃ面白いじゃないか!
俺の反応に気分を良くしたのか、饒舌に語るおばちゃん。
「あの塔の根元に冒険者ギルドがあるのさ。他の街じゃ、割と色んなとこにあるんだけど、ここの主産業は塔からの発掘品や果物、モンスターの素材がほとんどだからねぇ」
「この道を真っ直ぐ行けば付くさ。この街はレクサスを中心に作られてるからね」
「ありがとうございます! 早速行ってきます!」
まじで速攻で行くしかねぇ! 面白すぎるだろ異世界。食い扶持にも困ることはないらしいし、素人にできる仕事があるなら嬉しい。
「あんちゃんが冒険者としてでっかくなる事を祈っとくよ! ただ……今は昼頃だからね。冒険者は血の気の多いバカも多いもんさ。登録の時は気を付けるんだよ」
「うっす!」
おばちゃんの露店を離れ、道の流れに乗る。みんな塔の根元を目指しているようだ。
とりあえず、行くしかねぇ。天下無双の無一文にして宿もないからな。今日のうちにどうにかお金となるものを稼がなくては。
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