第46話 屋敷襲撃。
快活な太陽の視線が降り注ぐ太陽の宵祭り二日目。本当ならアルヴェルとも出かけたかったが、あいにく俺とは異なり彼女は屋敷で缶詰にされているらしい。顕光教団の襲撃とやらが本当に起これば、きっと屋敷で会うことになるだろう。
なら、俺も対応できるように準備しておかないとな。
早朝に鳥たちが囁いているのを聴き、ベッドから体を起こして温風と水滴の魔法で上手いこと動かず洗顔する。ずぼら魔法、ここに極まれり。
頑張ればベッドそのものを動かして__待てよ。俺は念動力とかいう不思議パワーにも目覚めているんだし、本当にベッドインしつつ俺は空を飛べるのか?
馬鹿な妄想を浮かべながら、頭の中で今日の予定を確認する。といっても俺の予定なんかたかが知れてる。イーラと共に観光ついでに市街のパトロールって感じだ。
まぁ獣人フェルメールの悪意なき経済的暴力によって俺の財布はもう予断を許さない貧困状態なんだが。
「おはよう、あい」
___おはよう。ふふ、ふふふふ___
耳元で囁くように小さい鈴のような女の子の声が鳴る。ふわりと感じられる冷気が俺の頭を冷やしてくれる。
アイと名前を付けてからずっと楽しそうだ。
名前を付けた甲斐が有るというものである。
キィン____。
宿の机に置いてあったピンクの貝殻が、微細に振動した。朝っぱらから元気すぎるぜ、変態全裸集団ども!
靴を履き、剣を手に取って急いでイーラの部屋まで行くと同じタイミングで出てきてくれた。不機嫌そうな顔だ。
「行くわよ」
「おう」
お仕事の時間だぜ。
▽
建物の屋根を蹴り、俺たちは一陣の風と化して迷宮都市エレアの上部を飛び回っていた。身体能力の強化はもうお手の物である。
5分もすれば屋敷が見え__っ!
「っぶねぇぇぇ!!! 何じゃこれェ!」
「これは……柱、いや、もしかして」
先が円錐状に尖った、太さ5mは有りそうな__
「槍!? デカすぎんだろ! 巨人族かよ!」
槍だ。
巨大すぎる槍が屋敷の方向から俺たちに向けて射出されている。飛来する槍を避けたが、背後で何軒か家が貫通して破壊されている。
避けるわけにも、いかねぇわけだ。
「……ふ、ふふ、学ばねぇなぁタコ共ォ、俺相手に
吹き飛んでくる柱のような槍が眼前に迫った瞬間、
「空抜き」
黒き渦がそれら全てを呑み込んでいく。しゅぽんっ! とでも聞こえてきそうなほど気持ちいい光景だ。
「後で綺麗さっばりクーリングオフしてやるぜぇ! 朝っぱらから騒ぎやがってよ!」
市街地への影響を可能な限り抑えつつ、接近し続ける。イーラの方にも柱のごとき槍が吹っ飛んでいるが、見事に蹴り壊していた。
イーラには魔力操作が上手くできていないときでさえ、龍を釣り上げるほどのパワーがあったので至極当然と言える。
そうして俺たちはアルサンクトの屋敷に辿り着いた。屋敷そのものに傷が付いている様子はなく、優美な印象を崩さない。途中から柱が来なくなったな。逃げたか?
しかし庭では真っ白いローブを着た集団がアルサンクト家直属の騎士団と戦っており、やはり命を投げ打ったフルチンシャイニング男たちには少し押されている。
どこに加勢するべきか。とりあえず庭でやってる奴ら全員ぶちのめすか? 戦況がわからん。
「ッくそ、なんなんだこいつら! 全裸で光り輝いたと思ったら急に強くなりやがる!」
「至高にして唯一たる"光"の光輝を奪う卑劣な者には、報いを与えねば! 報いを! 報いをォォォ!!!」
とりあえず近くのやられかけてる騎士に加勢する。
銀紋第1段階と念動力による姿勢補助に加えて[身体強化Lv4][疾駆Lv5][足捌きLv2][音消しLv2][体術Lv4]で加速、踏み込み__[豪腕Lv3][腕力強化Lv1][恵体Lv1]に[格闘術Lv4][拳撃Lv3]が載ったストレートパンチを顔面にぶち込む。
大気に鈍い音が響き渡る。殴られた"光"の信者はピンボールのように吹き飛び、俺の拳の直線上に居た信者共も纏めて死屍累々となった。
それを見ていた騎士がこちらに駆け寄る。
「……助太刀、感謝します。あなたが例のお嬢様を救ってくださった方ですね?」
「不肖の身ながら。ヴェルターニャ様はご無事ですか?」
あとついでにトラオムとかいうクソガキも。当主は当主でどっか行ってるらしいから大丈夫らしい。
「団長が付いているので大丈夫だとは思いますが、彼らが扱う"奇跡"は我々のそれとはかなり異なっています。正直何が起こるか……。ヴェルターニャ様は屋敷に居ます。どうか、あの方をよろしく頼みます」
「任せてください。では」
"奇跡"を詠唱し、プリミヤの癒しで身体を回復させている騎士を後にする。
うわぁぁぁぁ___!!!
悲鳴が上がった方に意識を向けると、高速で動き回って、信徒たちの首を焼き凍て斬り裂く化け物__失敬。イーラの姿があった。
炎の剣と氷の剣をどっちも持っているからか。あっ、"龍息"で丸焼きにされてる……なんてむごいことを。
ここは任せるか?
まだぞろぞろと信徒たちは沸いてきている。騎士たちもそこそこの実力者ではあるのだが、流石に命を捨て去ったフルチンシャイニングMenには対抗できていない。
「行きなさいな。こいつら程度なら幾らでも蹴散らせる。強くなった力に慣れたいし、丁度いいわ」
「……任せた!」
そう言ってまた戦いに行ったので、俺も屋敷に行くことにした。ボコボコにしてやるぜ。
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