第47話 "千岩"の魔法使い、コナフ
数多の空間魔法が掛けられ、その見た目を遥かに超える面積を誇るのがアルサンクト家の屋敷である。家の中に教会を立てるという意味のわからないことも可能なほどだ。
勘が疼く方向に走る。
普通の人間であれば、そんな広大な屋敷の中の、居場所もわからない人の所へなどたどり着けるべくもない。
が、俺は直感×天才のやることなすこと最適解の男だぜ。
何となくで屋敷内部を駆け回り、ちょこちょこ居る同じく迷っている信者共を出会い頭にノックアウトしていく。
まだ俺たちに岩の槍柱を吹っ飛ばしてきたバカも見つかってないし、さっさとヴェルターニャ様の所まで行きたいんだが……。
紫紺のドレスを着た、美しい女がこちらに歩いてくる。薄く三日月の微笑みを浮かべており、嫌ーな雰囲気を醸し出していた。
「こんにちは。あなたは屋敷の人かしら」
「……逆に聞いていいか。アンタは"光"の信者だな?」
沈黙。
俺を見るや否や何やら目を見開いて停まっているが、俺は男女平等キックの使い手だぜ。明らかに敵っぽいし、今のうちに先手を打つのもありか。
「"空抜__」
「ちが、違うわ! ええ! そんなわけないじゃない! えと、そうね! 私はー、トラオム様の愛じ……教育係かしら!」
優美な印象をかなぐり捨て、焦った様子で弁明する敵役っぽい女。
ぜってー嘘だろ。だがこの状況でそんな言い訳をする意味がわからない。何が目的だ?
「アンタの後ろに倒れてる騎士はどう説明する」
「……倒れていたから治療したのよ。勘違いしないで……? あなたにだけはそんな悲しい勘違いして欲しくないの……」
色気づいて近付いてくる女。
[歩行Lv5][ナイフ術Lv2][暗殺Lv3][隠密Lv2][隠形Lv4][音消しLv2][体術Lv4]を発動し、女から感じる違和感を浮き彫りにする。
[観察Lv4][警戒Lv4]を発動し、暗器の類いや他に隠しているものがないか看破する。
太腿に4本の巨大な針。足の裏に硬い板のようなもの。不可視のナイフっぽいものも背中にあるな。
「ねぇ、お願い。信じて__」
「__いつかやると思っていましたよ。色ボケ暗殺者が。だから私はあなたのような売女が嫌いなのです」
発射された岩の柱。それは女の後方から放たれており、丸ごと直撃した女は血反吐を吐きながら俺の目の前に飛んできた。
意味がわからない。これも含めて何かの作戦か? 俺を動揺させるという点ではこれ以上ない結果だが__
「っかふ……お、ぇ」
「おい、アンタ大丈夫か?」
仮に本当に騙し討ちされていたとして、それを放置してしまったら俺は俺じゃなくなる。俺は■■■■なんだから。
真正面から吹き飛ばされてきた女を受け止め、怪我の様子を測る。と言っても俺にそんな専門的知識はない。骨が折れてるかどうか、すぐに救急車を呼ばないといけないほどの重症か。
それくらいしかわからないが、やばいな。背骨がほぼイッちまってる。マジで死ぬぞ、この人。
それに何か違和感がある。胸の中に魔力のしこり……? いや、物理的にもあるな。なんだこれ。
背後から現れた白いローブにメガネを掛けたオールバックの男。杖を持っており、その表情は笑っている。
「それにしてもいい気分ですねぇ。こういう土壇場で裏切る馬鹿女に正義の鉄槌を下すのは……あなたもそう思いません?」
「悪いけど全く思わねーな。完全にシロかクロかもわかんねぇ、仲間の女に不意打ちかますようなクソ外道の言葉なんてよ」
推定有罪。
この男は味方であるはずの女を、裏切ったかどうかもわかっていない状況なのに本気で殺そうとした。
腹立ってきちゃったぜぇ、俺。
「"淫婦"、ルララ。知りません? 村ひとつ毒で沈めたり、貴族の愛人しながら奥方を殺したり。そうそう、変態貴族の前で生きたまま子供を解体してるなんてこともありましたねぇ! 全く信じられないクソ外道ですよ! 彼女は!」
ははははは! そんな極悪人に鉄槌を下して何が悪いのです!
廊下に男の笑い声が響き渡る。
「……げほっ。私に相手されないからって、みみっちい男ね」
「黙りなさいッ! 余所者風情が! "光"を信じぬ者をこうして光輝聖祭に使うのは反対だったんですよ私は! そして案の定裏切った!」
よくわからん。よくわからんが__敵の敵は味方という。それに瀕死の女にとどめを刺すような真似はしたくない。
抱き止めている状態の彼女をゆっくりと下ろし、回復体位を取らせる。ルララと呼ばれた女は意識を失ったようだ。
「……アナタ。顔が良いからって調子に乗らないでくださいよ」
余裕を見せつけていた男は消え、そこには悪鬼の如き形相で俺を睨みつける1人のオスが存在した。
「……嫉妬かよ。マジでみみっちぃな。俺も好きな人をぽっと出のイケメンに取られたことあるけどさぁ__」
「黙れェッ! 私の聖なる子種を受け入れないあの女が悪いのです! どうせ何百と緩い股を開いた売女のくせに私を拒むなんて許せることではありませんッ!」
きも……。
「なんだ。なんです。なんですかその顔はァ!! キェェェェェェィ!!!! 殺しますッ! 死んでくださいッ! 無詠唱Lv6、発動ォォ!」
男が腕を振り、杖の先から岩の槍が無数に生成されていく。高速回転し、異音を放ってその槍の衾は発射された。
屋敷の通路全体を埋め尽くすような物量攻撃。しかも回転してるし、当たれば貫通は間違いなさそうだ。
「てめぇだな? 俺に槍の柱飛ばしてきたアホは」
「喰らいなさい! "岩千突"ッ!」
迫る回転する槍の壁。ドリルみたいだな。
遅くなった世界で呑気に眺めつつ、俺はお馴染みの魔法を準備した。
「ふふ、ははは! 当たればミンチですよォ! 楽しみですねぇぇ!」
アルサンクト家上空300m、空より動き続ける影が地上に投影されていた。それは太く、硬く、巨大な柱のような岩。ある一定の距離を高速で動き、振り出しに戻ることを繰り返している。
[無詠唱Lv8][魔力操作Lv8]発動。
スキルを使うと楽でいい。
「クーリングオフの時間だぜ。自由落下砲、発射ァァァ!!!」
総数27個の黒き渦が俺の後方に展開される。
半径約2.5m、縦の長さ約8mの岩の柱。これらをウェイズは"空抜き"の魔法で上空へと打ち出し、落下地点にも転移の黒い渦を設置することで、岩の柱は無限に落下し続けた。
空気抵抗も含めたその終端速度は秒速53.4m。時速192.24kmである。その質量は約390トンであり、それらが時速192.24kmで飛んでくる悪魔的魔法の使い方。
ド パ ン ッ !
1つの黒い渦から岩の柱が発射されたと思わしき影が現れ__目の前に迫っていた岩のドリルの壁は全て粉々に粉砕された。数秒経つと廊下の先に突き刺さった岩の柱から爆音が生み出され、屋敷全体に軽い振動を齎した。
神経質そうなあの男は下半身を残して消し飛んでおり、べチャリと下半身が地面に倒れた。
「……え?」
ちょっとした思い付きだったんですけど……え? こ、こんな惨い殺し方するつもりなかったのに。
ミンチよりひでぇ。
放たれた自由落下砲の威力は2トンの自動車が時速100kmで衝突する威力。
の、約558倍。"光"の信徒であるあの男は558台の自動車に時速100kmで轢かれたようなものである。最もその構成は緩く、一定の威力で一点に衝撃を与えれば岩は四散するが、今回は速すぎたのでもはや弱点関係ない。戦光司祭29位"千岩"のコナフ、死亡。
・[グローリアス・ヴィア]を発動します。
・敗者の成長率を勝者へ加算します。
・敗者のギフト[魔力の湧泉Lv2]、スキル[魔力操作Lv5][魔力感知Lv2][魔力強化Lv4][体魔変換Lv2][無詠唱Lv4][適正:岩魔法Lv3][魔道具作成Lv3][解読Lv2][並列思考Lv2][杖術Lv2][回避術][射出Lv3][回転Lv1][妄想Lv3][正義Lv2][スロースターターLv1][限界突破]を獲得します。
・[グローリアス・ヴィア]を終了します。
数秒思考停止してた。というか獲得スキル多くね? あの嫉妬男そんなに強かったのか。
俺は残りの恐ろしい質量攻撃の威力を減衰させるべく、上空の転移を逆向きにし、威力が殺されるまで重力に逆らってもらうことにした。流石にこの威力は制御しきれない。
問題は……。
深い呼吸になり、奇妙な音がなっている紫紺の女。ピンクの髪が血と混ざり、悲惨な上体になっている。
……しゃあねぇ。
俺は首につけていた乳白色のネックレスを女の人の首に掛け、勘の疼く方向に向かうことにした。
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