第45話 戦闘民族系獣人アルティス。
どうしてこうなってしまったのか。
耳に入り込み続ける喧しい金属質な剣戟の音色。1秒に10回は打ち合い、俺はさながら剣客のように白銀の剣で相手の持つハルバードごと切り付け、吹き飛ばす。
痛ってぇぇぇ……! 手に伝わる膨大な衝撃。なんだよそのハルバード重すぎんだろ!
そいつが吹き飛んだ先に、背後に控えていたイーラの炎による攻撃が襲いかかる。”龍息”、だったか? 海で毒の源流魔法を扱う魚を消し炭にしていたときに使っていた技だ。
俺の魔法のレパートリーを遥かに超えた超高温の炎に巻かれ、一見そいつの命は身体ごと焼き壊されたように思えた。
「____クヒッ……なぁ! やるじゃないか! たのしい、愉しいぞ! おまえはどうだぁ!? なぁ! 愉しんでるかよぉぉぉおおお!!!!」
「悪いが俺は楽しくデート中だったんだ。ぶっ飛ばすぞガキンチョが」
身長ほどもあるハンバードで炎を切り裂き、現れる小柄な少女。赤いツインテールにギザ歯を煌めかせ、狂気的な笑みを浮かべている。
「はァ!? いまオレとデートしてんだろうが! ぶっ殺すぞッ!!!」
「殺し合いをデートとは呼ばねぇよタコ! さっさと家に帰れギザ歯女ァ!」
いきなりブチギレるそいつに俺もキレ芸で対抗する。しかしナチュラルボーンキレ性には俺程度では対抗できそうにない。
現在。俺とイーラは顕光教団の連中の結界に引っかかり、突然無音の空間にぶち込まれたかと思えばこのメスガキに襲われている最中である。真っ只中と言っても差し支えないだろう。
「なんかあんたら仲良いわね……? 相性良いんじゃない?」
「やめろやめろ。どう見たって12歳くらいだろこいつ! お巡りさんに俺がつかま__ッ! 話してる最中だろうがよー!」
「知らねぇよイケメン! 決めたぜ。てめぇは"巣"に持って帰る。あたしと五体満足に打ち合える筋肉にその顔、サイコーだよおまえぇぇぇ!!!」
俺に襲いかかるハルバードによる連撃に、性欲という名の粘っこく重苦しい衝撃が追加された気がする。ロリコンじゃねーんだわこちとらよォ!
銀紋第一段階の全力で戦ってるはずなんだがこの女の子マジで普通に強え。弾いたと思ったら下から柄で攻撃が来るし、横薙ぎかと思えば徒手空拳が飛んでくる。
たまーに念力の補正を加えてみると想定していたよりも強い衝撃だったのか、ガードごと捲れることもある。しかしよろめいた瞬間姿勢を低くし、こいつは獣のような不思議な体勢で引くか攻撃を続行してくる。
闘いが上手いってのはこういうことなのか?
俺は才能溢れるこの身体から勝手に浮かび上がってくる剣の軌道を辿り続ける。
直感×才能。
俺はこの2文字の掛け算でこれまでの強敵を退けてきたんだ。そしてガキィ! てめぇも例外じゃァないぜ!
「というおまえ絶対教団のやつじゃねぇだろ! 別に戦わなくてもいいだろうが!」
「アァッ!? きょーだんン!? 知らねぇよんなもんよォ!!! さっきぶっ殺したやつがそーかもしんねぇなぁ!!!」
「だったら戦わなくても」
「でもそんなの関係ねぇッ!!! 胎にクる顔しやがってよぉぉぉ!!! 光栄に思えよォ? てめぇはアルティスの種馬になるんだから、今のうちにちんっ……お、おっ勃たせとけよなァ!!!??」
何も人の話を聞きやがらねぇ!!! んだこいつぁ!? 変なところで恥ずかしそうにするくらいなら喋んじゃねぇよ! ピュアか!
凶悪に歪んだ表情が更に歪み、痴女メスガキの身体から重くとろみのある赤い魔力が溢れ始めた。
浮かんだイメージは豹。今にも獲物を喰い殺さんとする気迫だ。舐めやがって。
「アルティスって言えば、南方の砂漠の狩猟民族ね。確か猫? の獣人だったはず。尻尾でも掴めばもしかしたら大人しくなるんじゃないかしら」
「せんきゅーイーラ。試してみよう」
後ろから有益な情報と提案を頂いたので、やつの重くとろみのある赤い魔力が悪い仕事をする前に無力化してやる。
銀紋第二__いや、そういえばあれがあるんだった。
「"魔眼"、開眼」
「んだよォ……こっち見んなよ、唆るから、よ、? ぉ、ぉお? んだァこれ! 動けねぇ!!! てめぇオレに何しやがった!」
足に力を込め、飛び出そうとする姿勢のまま静止する。ピタリとも動けないようだ。
敵の変身シーンは悪いがNGと行こう。俺の中で巨大な隻眼の蛇がチロチロと金色の瞳を輝かせる。
__くく、随分とうまそうな供物……はい、なんでもないです__
脳内の蛇は盛大にイキろうとして、そして燃え盛る煉獄の鳥に睨まれすごすごと引き下がっていった。
格下狩り特化のクソゲー魔眼でボコボコにしてやろうかと思ったが……
「ん、んだよ……? 何見てんだよ!」
「いや、うーん。お前マジで小さいなって」
「____てめぶっころっ、ひぅっ/////」
飛び出ている尻尾を鷲掴む。にぎにぎしてみると思ったより効果が出てしまった。
飛来する極寒の冷気。否、これは極寒と表現していい次元ではない。精神のみが感じられるマイナス273を越えた寒さ。
振り向くと、そこには薄く微笑むイーラが存在した。
「……あの、今回ぼくわるく」
「悪いわ」
「あっ、はい……そうですよね……小さな女の子睨み付けて、動けなくなったところで大事な部分を触るゴミクズ野郎ですよね……自分で言っててぶん殴りたくなってきたわ。誰だよそいつ」
「てめぇだろうがッ! ぶっ殺すぞ,ぉ、ぉほっ////」
「ウェイズ?????」
「ごめん」
握っている尻尾を解放し、物理的に腰抜けになってしまった赤髪の少女を自由にしてやる。
「……何のつもりだァ? てめぇ」
「運動して腹減ったし……お前も飯、食わないか?」
「……意味わかんねー。でも、オレ金ねぇから食う」
「決まりだ」
獣のような構えを解き、物騒な雰囲気が霧散する。
「帰り方は知ってるのか?」
「知らねぇ!」
「お前どうするつもりだったんだよ」
「なんか、頑張ってりゃ帰れんだろって」
「無鉄砲すぎる……でも、そういうのも悪くないな」
「だろ~!」
話してみると案外面白いやつなのかもしれない。
「すぐ仲良くなるのね。馬鹿って」
「うるさいぞ~そこ。帰るための穴ぶちあけるから下がってろ」
▽
いいやつ! またな〜!
手を振って何処かに消えていく赤髪の少女__否。フェルメールの姿を見届けて、俺たちはようやく肩の荷が降りた気がした。
「なんだかんだ、面白いやつだったわね」
「食う量も面白かったけどな」
ほんとに、笑っちまうほどにあいつ食いやがる。美味しそうに頬を膨らませて、必死に食べている姿を見ると流石にほっこりしてしまった。
なお現在の俺の財布=ほぼ宿5日分。
どんだけ食ってんだフェェェェルッ!!!
「……帰るか」
「そうね」
なんか、疲れた。
今日は色々有りすぎたね。うん。風聖トラールにフェルメールに、くそ恥ずかしいプレゼントとか特にね。
お兄ちゃんこんなに幸せでいいのか不安になってきたよマイシスターたちよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます