第7話 強キャラ系エルフとの遭遇。



「はぁ……はぁ……ふぅ……やっと着いたぜ、伏せ森商店」


 走り続けること30分ほど、俺はおそらく誰よりも素早く街を移動したことだろう。5キロは走ったね。間違いない。


 途中小汚い格好のやつから嫌な予感がして避けて通ったり、道が塞がれてて屋根の上を通ったり、アホなことしまくったが、無事にたどり着くことは出来た。


 問題はまた元の場所に戻って星華亭とやらまで行かないといけないことだが……今度はより効率良く移動できる気がする。


 伏せ森商店の建物自体はあまり大きくはなかった。見た目は伏せ森と書かれた大きな看板が飾られ、壁全体が花々やツタで覆われている。店の前にはアイアンウッドチェアやテーブルがオシャレに置かれていた。テーブルの真ん中にはオレンジの花の蕾が鎮座している。何か効果があるんだろうか。


 雰囲気バリ良いな。


 中に入ると天井から垂れ下がった白い花のつぼみの中から僅かに光が漏れ出していた。


 くそオシャレすぎる。もう既に好きよ伏せ森。


「おや〜? こんな微妙な時間帯にお客さんとはね〜。おっとと、少し待っていておくれよ〜。全く〜……こういう時に限ってネル子は居ないんだから困っちゃうよね〜」


 店の奥……というより天井から声がする。二階建てだったのか。待っていて欲しいようなので大人しく店内を物色する。


 戸棚には小型、中型、大型の革袋がズラリと並べられていたり、燃焼石と戸棚に書かれた赤黒い石が売られている。雪の結晶が水晶に閉じ込められたような見た目の氷冷石とやらも売られているようだ。


 どれどれ特殊な石の値段は……げっ、1個36000コル!? 高ぇ! 何に使うんだこれ。


 他の戸棚に目を移す。ポーション系統のようだ。


 ヌカ草の依頼からもわかってたけど、ほんとにポーションあるんだな異世界。すげぇ。


 お、名札が付いてる。どれどれ……?


【大特価セール中! 深緑のヘリエル謹製下級ライフポーションがなんと12万コル! 信じられないくらい安い! 10点以上の購入で1%割引き! ⚠本日限定】


 読むだけで俺の顔がシワシワになっていくのを感じる。言葉選びのセンスが完全に日本の詐欺師のそれだ。


 ……ぼったくり店なのでは? 先輩冒険者さんにもしかして騙されたのか俺。


 いや、本当にヘリエル謹製ポーションとやらはこれくらいの値段がするのかもしれない。安易に人を疑うのは良くないよなー……。


 先輩冒険者さんを信じるべきか否かを思案していると、後ろの天井からぬるりと何かが落ちてくる気配がする。穴なんてなかったよな……?


「ほっとと……やぁ。こんにちわ。僕はヘリエル。今日は何の商品をお求めかな〜? 僕としては〜、やっぱりポーションかな〜! 結構味にも気を使っててね〜」


 落ちてきたのは長い耳を持ち、薄く光を放つ翡翠の髪の毛を持った女だ。にんまりと薄く笑っている気配がする。


 なぜ気配かって? こいつが俺とは反対の方向を向いてるからだよ!


「あのー、そっちじゃなくて後ろですよー……」

「おや?」


 声を掛けるとようやく気付いたようにこちらに振り向く女。ヘリエルと言ったか。12万コルもするポーションの調剤師の名前だ。


 にんまりと浮かべられた笑顔に開いていない目、そして恐ろしく整った美貌……間違いない。こいつぁ強キャラエルフだぜ。俺の直感もそう言っている。


「……ひょえ!? えと……ぁわ、うー……あ! まずはけ、けけ結婚から始めてみよう!!! 大丈夫君と僕の子はきっと素晴らしい神にも匹敵する魔法使いになるよ〜!! 経験ないけど精一杯頑張るから!」


 こちらに振り向いて数秒経った瞬間、目を見開き、突如早口で俺に結婚の申し込みを行ってきた強キャラエルフ。


 見開かれた瞳の虹彩からは翡翠色の蠱惑的な輝きが放たれており、僅かに黄金の円環が深緑の瞳孔を囲っている。美しくも神秘的で、神秘的でありながらもどこか底知れない樹海のような恐怖を掻き立てる翡翠の光だ。


 ……えっと、なにごと?


「……はい?」

「ありがとう! ここに遍く万象を振り払う古の愛の女神テレアスの祝福を賜り我は汝と不変不壊の愛の契りをむす「アウトォォ!!!」がふっ……」


 俺の返事をOKと勘違いし、暴走したヘリエル。謎の呪文……いや詠唱? を唱え始めたと思えば、後ろから来た何者かに詠唱をストップさせられたようだ。


 ヘリエルはお目目グルグル状態のまま倒れ伏している。倒れたヘリエルの後ろに立つ何某か……否、こいつもエルフだ。特徴的な長耳が見える。


 後頭部に素晴らしく綺麗な飛び蹴りだったな……。


 飛び蹴りエルフの手に宙を舞う買い物カゴと思わしきものがすっぽりと収まる。その手つきはまるで曲芸師のようだ。どうやら飛び蹴りをする前に宙に買い物カゴを投げていたらしい。


 えっと……何が何やらわからんチーノなんですけど。


「アホなんじゃないですか!? 今の神前の祝詞ですよねぇ!? バカですよね! バカなんですよね! 私はバカですって言ってくださいよこのバカァァ!」

「う、うぅ……せ、せめてこの誓約書にさいんを〜」


 ブチ切れエルフが倒れたヘリエルの手元に虚空から出現した羊皮紙を奪い去る。


 しれっと空間魔法みたいの使ったなこいつ。


「ダメです! 急にどうしたんですかほんとに! 今の言葉を深き樹海の賢者様たちが知ってしまえば卒倒してそのままポックリ逝っちゃうくらいですよ!? クーデターですよもはや!」

「だって〜……ハッ! お見苦しいとこをお見せしました〜。僕は深き樹海を束ね「てないですよねぇ! あははすみません〜、このバカ師匠はお歳も600年ほど召してるおばあちゃんでして……。深緑と呼ばれる凄腕調剤師なんですよぉ! 私はその弟子のネイルと申しますー」……むぅ〜、そんなに若くないし〜……」

「おだまり!」



 ……何やら強キャラエルフが飛び蹴りエルフに言論統制を受けているようだ。


 つまり……強キャラエルフは強キャラってことだな! ヨシ!

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