第26話 "光"の信徒、雨槍のカリオス。
和気藹々のエレア第4番街2区。どこもかしくも人間だらけだ。雲一つない晴天が暑苦しい。紫外線でシミができたらどうしてくれるんだ。
現在、街中を散策中。
「……なにしようかなぁ」
ぼそりと独り言が零れ出る。孤独に街中を踊り歩くのも楽しいっちゃ楽しいが、やることが思い浮かばない。
俺の、というか俺が契約してる銀月の精霊の力を知って、イーラは第5レクサスの探索を推し進めることを決意したらしい。大体の依頼の基本的なやり方の指導は今までやったことで説明がつくので、全部すっぽかされるそうだ。少しやるせない気持ちになるが、
どうせ何してもあんたならできるでしょ、はー、人間のくせにちょーうざーい。
というイーラの投げやりな言葉が今も耳に残っているので我慢してやることにする。
イーラは本格的に探索を進めるために買い物してくるそうだ。ダンジョンでキャンプするってなったらそりゃ色々必要にもなるか。
で、取り残された俺が居るってワケ。
銀月の魔力の操作も慣れた。人間寝れば効率よく学べることはもう知っている。
一応すぐに魔力を動かせるように、体内で銀月の魔力をグルグルと回しながら、ぼーっと散歩する。あ、あの虎耳の生えた女の子可愛い。連絡先交換とか……
タッタッタッタ。
何か軽いものが近付いてくる音がする。
直感。
「おっとがきんちょ。俺の財布はやれねぇんだわ」
「チィッ!」
練り歩く人々の中、後ろから飛び出してきた灰色頭の子供の手をひらりと避ける。スリってやつね。初日の夜にもこういうことあったなぁ。
俺の言葉を聞き、その子供は妙にうねうねとした動きで人の群れの隙間を掻い潜り、走り去っていく。
すげぇ動きだ。でも一度見たから俺にもできそうだな。
「こんな感じ……か?」
あの少年の動きを模倣し、試しに追い掛けてみる。特に何の用もないけど追い掛けられる少年君には申し訳ないが練習台となってもらおう。
少年の跡を追っていると、いつの間にか裏路地の奥深くまで入り込んでいた。
異世界初日の俺ならすぐさま引き返すところだが、悪いが今の俺はバケモン精霊にドラゴンとまで戦ってんだ。少々治安悪い程度じゃビビることも難しい。
曲がり角に差し掛かったので、足音を殺す。森の中で学んだ、音消しの歩法。森の中では有効だったが、普通の地面なら効果は半減。
なら今すぐにチューンアップすればいい。
2、3回地面を軽く足で叩いて最も音がならない歩き方を見つける。
こん、こんこん。
多分これくらいだろ。よし追いかけよう。
常人の数百倍の、化け物じみたスピードで技能が進化する。異世界に転生してから、ウェイズの才能は研磨され続けていた。複数のあらゆる成長率の極大上昇の特典、そしてこれらは相互に作用してしまう。才能の原石が、そのまま大きさを肥大化させていく。
……妙、か? 多分これ俺が追っかけてきてるってバレてるな。先程から入り組んだ道をグルグルと回って、時に壁を蹴って予想だにしない方向へと少年は進んでいる。
たまに見失うが、そこは直感でカバー。
ぶっちゃけあの不思議な走り方も覚えたし、もう帰っていいんだが……いや、帰ろう。少年に悪いしな。まぁスリしてるんだから追い掛けられるくらいは覚悟してただろ。
心の中で謝罪しながら、俺は帰路につく。
お、そうだ。ギルドカードでも見よう。
歩きながらギルドカードを覗き見る。
・名前:ウェイズ
・年齢:14
・ランク:1
・功績値:26
・ギフト:[直感Lv4][身体強化Lv2][森瞳Lv2]
・ギフト?:[銀月の祝福Lv6]
・スキル:[魔力操作Lv8][無詠唱Lv8][歩行Lv5][鋼の胃袋Lv3][疾駆Lv5][格闘術Lv2][剣術Lv4][ナイフ術Lv2][斧術][観察Lv4][隠形Lv4][警戒Lv3][適正:氷魔法][森鹿の嗅覚Lv1][森歩きLv5][精霊憑依][追跡Lv3][危機感知Lv2][登攀Lv3][音消しLv2]
色々増えてるな。文字列多すぎてくそ読みづらいんだが……どうにかならんのかこれ。なんか、こう分類分け的なさぁ。
・名前:ウェイズ
・年齢:14
・ランク:1
・功績値:26
・ギフト:[直感Lv4][身体強化Lv2][森瞳Lv2]
・ギフト?:[銀月の祝福Lv6]
・スキル:
・『魔』[魔力操作Lv8][無詠唱Lv8]
・『技』[歩行Lv5][疾駆Lv5][格闘術Lv2][剣術Lv4][ナイフ術Lv2][斧術][観察Lv4][隠形Lv4][警戒Lv3][森歩きLv5][追跡Lv3][登攀Lv3][音消しLv2][体術Lv4]
・『特』[鉄の胃袋Lv3][適正:氷魔法][森鹿の嗅覚Lv1][精霊憑依][危機感知Lv2]
なんか心の中で文句垂れてたらギルドカードの文字列が動いたぞ。そんな機能あるんだ……。まだちょっと読みづらいが、少しはマシになったな。
気づいたら剣術、体術とかが追加されてるな。軽く探索しながら素振りした程度なんだけど、それでスキルが得られるのか。俺の才能が恐ろしい。
よそ見しながら歩き続けて、元々居た大通りに戻ってきて___ない?
路地裏から1歩目踏み出した瞬間、音が消える。
は?
うるさいほどに人の群れがあった第4番街2区の通りは、今や人っ子一人居なくなっている。そんなことある?
聴覚を魔力で強化する。魔力単体でも感覚器はそこそこ強化されるらしい。ついでに銀紋も少しだけ耳に付けてみよう。
途端、増大する情報量。しかしその情報の中に人の足音や話し声などは一切なかった。
聞こえるのは舞う砂塵の音だけ。鳥の鳴き声すら聞こえない。
何が起こっている? 路地裏から入って、少し奥に入ってから戻ってきただけだぞ。人が消えるにはあまりにも短い時間。てかさっきまで聞こえてたし。
異常だ、間違いなく。
空間に作用する魔法か何かか? でもなぜそれを俺に掛ける必要があるんだ。てか普通に俺なら気付けるはず。直感もちゃんと機能して__いや、してないぞ。
路地裏から出る直前まではちゃんと機能してたはず。ならこの空間に入った瞬間から直感が働かなくなった? なんでこんな場所がエレア都市内にあるんだよおかしいだろ。
心の中で文句を垂れつつ、俺は仕方なく探索を始め、何となく危ない気がしてしゃがむ。
頭の上を通り過ぎた風圧。その後すぐさま甲高い金属音が響き渡った。飛来してきた金属が無人の店にぶつかったようだ。
俺はギフトの直感なんざなくても自前で何とかできるらしい。
「へー! 避けれんだ! いまの! さっすがぁ!」
「……で、おたくはどちら様で?」
先の尖った金属、否。人を殺せる投槍が飛んできた方向を見据えると、そこには赤茶頭のキマッた目をした男が居た。
「んー、教えちゃおっかなぁ、いやでもなー? んー……まー、君ここで死ぬし? ばんじおっけー的な?」
急にニコニコとしたと思えば、笑い始めたその男。不気味だ。俺もあたおかアクションで対抗すべきか?
「ここはさぁ、一定以上の魂の質がある人間を、問答無用で引き摺り込む領域の中ってわけなんだよねぇ!」
「なんでそんなことするんだ?」
それ! いい質問だねぇ! とそいつはケラケラ笑いながら手元の投槍でジャグリングし始める。おー、ちょっと凄いかも。
「"贄"さ。良質な糧を我らが尊き"光"への捧げ物にする__っていうのが俺の上司のうっぜぇおっさんの言ってることなんだケド……俺的には魂の質が高いやつって大体強いから、ちょお前俺と戦ってけよ。的な?」
ニコニコとよくわからんことを言い始めたぞ。待てよ、"光"……だと? 脳裏に溢れ出る明確なイメージ。焼き付いて取れない圧倒的存在感。
「……ふっ、そういうことか」
「おっ、なかなかに君……察しが」
「お前も空飛ぶシャイニング全裸男の仲間というわけだ」
「……んっ????」
ニヤついた笑顔が固まる。
ニタニタと戦闘狂のちょいワルかっこいいみたいなフリして、本当は全裸で飛び回ることが好きなんだろう? 馬鹿め。ここには男しか居ねぇんだぜ。
「……この空間に引き摺り込まれたやつはスキルもギフトも機能しなくなるんだヨ。よくお上もこんなお高い発掘品を用意したもんだよネ〜……で、俺は本当は強いのにその力を発揮できずに死んでいくやつの顔が大好きってワケ」
あとはもう、わかるっしょ? と言い、固まった笑顔を動かし、無理やり狂気じみた顔を作ってくる。
うわ、こいつ空気を取り戻してきやがった。流石シャイニングフルチン男の仲間というべきか。場に流されないその心の強さは認めよう。
「本当はこんなもんじゃない。本当はもっと強い。本当なら俺は、私は! スキルさえギフトさえ使えればこんなやつ余裕で殺せる__これ全部負け犬の言い訳ネ。ふふ、世の中さー? 何しようが、勝った方が正義なんだよ。負け犬がきゃんきゃん吠えてるのってカワイイよね〜!」
あはははははは!!!
無人の大通りにて、男の笑い声が反響する。なるほど、あらゆるギフト、スキルを無効化する空間にて一方的に狩りをしているわけだ。
「じゃ、しんで?」
ピタリと笑い声が止んだ瞬間。ノーモーションで槍が飛んでくる。
戦いが始まった。
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