第19話 銀月の祝福。



 冷徹な月華の視線。蒼黒い空にある星々が光り輝き、地上を生きる生命を祝福している。昼と比べ、大幅に道を行く人の数は減っており、ここから先は夜の時間だと主張しているかのようだ。


 冷えきった夜の風が心地よい。


 主に唇の当たりとか特に。


 星華亭の後ろ。水を汲むための若干古い井戸と微妙な空き地があった。


 そこにブサイクな顔で流麗な剣を持ち、黄昏れる1人の男がひとり……


 俺です。


 ということで開き直った俺は魔法の検証と氷の剣&魔導書の検証とついでにギフトやスキルの有無何かも確認しちゃいたいと思います。やるならパーッとやらなきゃよぉ!


 早速手軽に確認できるギルドカードから見ていこう。いざ、魔力をカードに流し込んで、オープン。




・名前:ウェイズ

・年齢:14

・ランク:1

・功績値:14

・ギフト:[直感Lv1][身体強化][森瞳][■■■■■Lv4]

・スキル:[魔力操作Lv6][無詠唱Lv7][歩行Lv3][鋼の胃袋Lv2][疾駆Lv2][格闘術][ナイフ術][斧術][観察][隠形][警戒][適正:氷魔法][森鹿の嗅覚][森歩き]




 わお……なんか沢山増えてる……。そしてくそ見づらい。ユーザーフレンドリーじゃねぇな。というか[直感]にレベル表記なんてあったか?


 [身体強化]、[森瞳]、[斧術]、[疾駆]、[適正:氷魔法]、[森鹿の嗅覚]、[森歩き]は強奪系チート? のグローリアス・ヴィアで習得したことはわかってるが……なんか多いな。そして[■■■■■Lv4]ってなんだ一体。こわすぎる。


 スキルってそう簡単に取れるもんなのか……? まぁ前世のオンラインゲームでもちょろっとやれば熟練度が溜まってスキル解放みたいなのは知っているが……。


 まぁ貰えるもんはありがたい。正直体感的にはほぼ何も感じてないからな。


 早速[適正:氷魔法]とやらの性能を確かめてくれるわ!


 あの鹿から取れたあたり、そのまま魔力を変質させることができるようになるスキルと推測する。


 体内の魔力を血の巡りと共に巡らせ、突き出した手の先の一部分だけ魔力を放出する。そして放出した魔力を……どうするんこれ。


 動かしてみてもやはり何も感じない。ええい、ここまで来て氷魔法のこの字もないとか許せない。


 魔法はイメージの世界、とは誰が言った言葉だったか。氷魔法のイメージ、イメージね……凍る、冷たい、ひんやり、鳥肌、停止、氷……お、なんかできそうな気がしてきたぞ。氷河、オーロラ、流氷、


 __たいへんそう、てつだってあげる__


 鈴、雪崩、少女、冬、しんしん、雪、社____あ、?


 瞬間、前に突き出していた手の先から銀色の魔力が洪水のように溢れ出す。流れ出る銀の光輝が辺り一帯を支配し、凍らせ、停滞させる。1秒後には既に空き地の全ては凍結し、北極のように冷えきってしまった。急激に下がった気温により風が巻き起こり、更に銀色の魔力を運ぼうと__させねぇよォ!?


 全力で冷や汗をかきながら吹き出した銀色の魔力を抑制する。なんだこれぇぇぇえ!!!??? 魔力制御アホほど難しいぞ!? 消防車のホースを人力で制御しようとしてる気分だ! でもなんか逆にテンション上がってきたわ!


 う、うぉぉぉぉおおお!!! ちょ無理かもこれ、でもいつかはできる気が……そうじゃねぇな。必要なのは今だ。いつかじゃなく、たった今制御しきってやr


 あ、不味い。制御どうこう以前に俺の魔力が持たな__否、間に合わせるッ!


 身体中の血管が全てブチ切れたような錯覚を覚えながら、俺は気を失うギリギリで銀色の魔力の制御に成功した。


 なお惨状。完全に凍結しきった空き地に真白く染まった草が生えている。しゃがみこんで少しだけ白く染まった草をつついてみるとパラパラと砕け散った。


 月の光に反射し、白く輝く粉がキラキラと空へ消えていく。


 ……逃げよ。あとからなんか言われたらマジで何も補償できないよ俺。アイアム異世界3日目。キャント賠償金支払い。


 さっきまで痛いし暑いし最悪だったが、今度は寒すぎて体がピリピリする。……あ、顔の腫れがちょっと良くなってる……!


 これが異世界氷魔法(?)式アイシングの効果なのか。



 というか今の銀色の魔力絶対にさっきの文字化けギフトのせいだろ。出てきなさい! 


・名前:ウェイズ

・年齢:14

・ランク:1

・功績値:14

・ギフト:[直感Lv1][身体強化][森瞳]

・ギフト?:[銀月の祝福Lv4]

・スキル:[魔力操作Lv6][無詠唱Lv7][歩行Lv3][鋼の胃袋Lv2][疾駆Lv2][格闘術][ナイフ術][斧術][観察][隠形][警戒][適正:氷魔法][森鹿の嗅覚][森歩き]


 あ? 文字化けが治って……ギフト?ってなんやねん。ついにギフトですらなくなってるやん。普通の氷魔法すら邪魔してくる精霊くんとは今度Japanese式お話をしなければならないな。これは。













 第3レクサス26階層、業獣の棲家。一人の青年が黄金の輝きを放つ剣を振るっていた。


 ひと振り。業獣から生み出される澱んだ血の獣たちを、金色に輝く斬撃が抉り飛ばす。縦に振られたその斬撃はその先の岩盤地帯に風穴を空け、渓谷を作り上げた。


 ふた振り。一文字に振り切られた"黄金"の得物は、直径3キロほどの業獣の巣を金色の衝撃にて消し飛ばす。


 粗方全ての敵対する生命を狩り尽くしたが、念には念を入れて彼は"黄金"の代名詞たる

必滅の剣を放とうとし__


「……へぇ? まさかとは思うけど……起きてよ、フォン」


 技を放つ直前に何かに気付いたように血に染まった空を見上げ、虚空に呼びかけた。


 彼の二つ名は"黄金"。本名は一部の人間しか知らない。冒険者等級が16にして、帝国全域のギルドを含めてもなお最強の一角に数えられる正真正銘、現代の英雄である。趣味は辛いものの食い歩きと木工。


 彼の手に握られた華美な装飾が施された黄金の剣が薄らと光り輝く。


『ん、んぅ……なにぃ? まーた40層近くまで来たの……? 少しは休憩しようよぉ……』


 ふわぁ〜、と少女の欠伸がどこからともなく__否。"黄金"の手元から聞こえてくる。


 "黄金"は内心苦笑する。


 伝説を辿り、やっとの思いで手に入れた神々の剣にまさか歳若い少女の魂が入っているとは誰も思うまい。


 不定期にこの世界に襲いかかる異次元の"敵"。それら全ての脅威を打ち倒すべく神々によって鍛造された紛うことなき最優にして頂点の剣……だったはずだが中身には異物が混入し、剣そのものの性能は少し弱体化している。


 最も、その異物によってここまで"黄金"は強くなれたのだが。


『はふぅ……それでどうしたの? 昼寝もバッチリだし今なら3回はアレ出せるよ。あ、いや寝てないけどさ』


「言っておくけどバレてるからね。それは置いておいて……地上のリコンで何か居ないか確認してみて」


『ふ、ふふ。わかった。……お、おお? 目録にある魔力の波動だ。えーと、メモ書きは……"光"のついでに封印したやんちゃ娘。これでエルフ共にもちっとは恩売れたろ。って書いてあるよ』


 "黄金"は暫し考える。メモ書きの様子を見るに緊急性は低いが、かと言って長いこと野放しにしておくのも危ないか。定期の教団狩りの帰りに見てこよう。僕としてはさっさと始末しておきたいところだけど……。


 チラリとまだどこか眠たそうな声を漏らす黄金の剣に目をやる。


 フォンって甘いし、殺すに殺せないしなぁ……僕も甘くなったものだ。全く。


『というか! 何で地上に"銀月"が居るってわかったの? 私のリコンほぼ意味なくなっちゃうんだけど』


「いつもの勘だよ」


『はぁ……これだから才能あるやつって嫌い! もう二度寝しちゃうから! ディーもそろそろ寝ないとダメだからね!』


 黄金の剣から漏れ出る光が失われる。どうやらフォンの意識が沈んだらしい。


「さて、僕もそろそろ三徹目だし……ご褒美のクェーバ激辛煮込みハンバーグの時間にでもしようかな」


 消し飛ばされた業獣の体臭や血の匂いが充満する中、冒険者は束の間の休息を取り始めた。










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