前世の徳で選ばれた転生特典が思っていたよりも大分やばい。

歩くよもぎ

第1話 成長系チートマシマシ転生。




 俺は至極真面目に日々を生きてきた。強きをくじき、弱きを助け……てはあまりないけど、それでも困っている人が入れば何となく手助けしていた。


 何か特別な力があるわけでもないなりに、自分が出来ることを模索した。


 道でおろおろしているお婆さんから話を聞いたり、両手が塞がっている人の扉を開けたり、コンビニで俺の後ろの人のために扉を開けておいたり。


 この程度の善行を毎日積み重ねていた。中にはとても感謝されたり、逆に非難されたりもしたが、あまり気にしなかった。


 助けた人の中には有名な人も居たが、まぁ些細なことだ。


 特に自分に誰かを助けたいという強い奉仕精神があったわけではない。ただ、困っている人や、ただ何も出来ないでいる人を放置することが気持ち悪かっただけだ。


 なんというか、ムズムズしたんだよな。


 今日だってそうだ。冬休み前の終業式で浮かれたバカが、アホなことをしでかしてもフォロー出来るように注意を払いながら帰った。


 その結果が、これだ。



「……ひっ……ぃや! いやぁぁあ!! 血が、誰かぁ! 大樹くんが! そ、そうだ……電話……ぁ……ひぐっ……うぇぇ」



 目の前に広がる、女の子の泣き顔。くしゃくしゃに歪んで、赤らんで、とにかく酷い顔だ。


 歩行者の信号は青だった。だから大丈夫って思ったんだろうな。何も周りを確認せず、スマホを弄りながら、この女の子は道路を渡っていた。


 明らかに酔っ払った運転手が突っ込んで来るまで、何も気付かず。


 だから助けた。


 何も自分の命を代償に誰かを助けようと思ったわけじゃない。後ろから彼女を引っ張って、それで解決だと思っていた。割と車が来るまで余裕もあったし、いざとなれば避けられると自負していた面もある。


 まさか冬靴に替えていなかったのが仇となるとは……。


 路面は凍結しており、まぁ……彼女を引っ張った反動で、普通に転んだのだ。ばかじゃねーのって感じだよな。


 そして案の定俺は轢かれた。


 思いっきり俺の腹の上を通りやがってあのクソ運転手め。精々法の裁きを受けるがいい。


 痛みはない。腹部にとんでもない圧迫感と、熱さだけが感じられる。


「もしもし警察ですか!? 私を庇って人が、人が轢かれて! いや119番にかけないと! ……はい、はい!」


 必死にどこかへ電話している女の子が薄らと見える。こりゃ死も近いかなぁ。


 目が霞んでくる。


「……くそぉ……滑って転んで死ぬとか、ダサすぎだろぉ……!」

「姫神町の正豊学校の帰り道で……! え、あ大樹くん!」


 俺の声に気付いたのか、女の子がこちらに声を掛ける。はは、思ったより可愛いじゃん。


 最期に俺の命よりは、上等なもん救ったんじゃねぇの。


 やるじゃん、俺。


「やばい、まじで死ぬ……まぁ、気にすんなよ、おぼっ……げほっ……」


 喉から血が上がってくる。アニメや漫画だけだと思ってたよ喉から血が出るの。


 新発見だな……。


「う、うぇぇ、ごめん……ごめんなさい! ごめんなさい!」

「は、はは……お前、隣のクラスのやつだよな……げほっ……横道ってやつに、よろしく頼むわ」


 言いたいことは沢山ある。家族にも、友達にも、まだ言いたいことは山ほどあるんだ。


 でも、うちの家族は俺以外全員やべぇし、まぁ何とかなるだろ。逆に慰謝料と死亡保険でウハウハかもな。はは。



 視界が遠のく。いや、意識が落ちそうになってんのか?


 思考がおぼつかなくなってくる……。



「大樹くん!!! ねぇ! 起きて!? 死なないでぇ!!!」



 ……死ぬのか、俺は。

 何も成していないのに。

 成そうとすらしていなかったのに。

 自分の成りたい自分に、近付くための1歩すら踏み出せていないのに。


 俺は、何にも成れずに_________。



 あれ、俺って何になりたかったんだっけ。



 それっきり、俺の世界は消え失せた。

















『善行値、679万8256。規定値オーバーです』


『輪廻転生:信賞必罰システムより転生特典が与えられます』


『生前のパーソナリティを取得。……他者や自身の容姿への激しい劣等感及び自らの成長願望を確認。善行値に基づき転生者に適した特典を選別します』



 ……あぁ? 夢……かぁ。



 何も見えない。何も感じない。心に重圧を与える圧迫感も、身を焦がすような熱も、全て消え去った。



 どこまでも、虚空だ。



『選別完了。善行値100万消費、[廻天乃力] 善行値100万消費、[蓋世不抜] 善行値100万消費、[冠前絶後] 善行値100万消費、[天姿国色] 善行値100万消費、[天資英邁] 善行値150万消費、[グローリアス・ヴィア]が転生特典として与えられます』


『残りの善行値29万8256はストックされます』



 ……何がなにやら、よくわからない。


 説明はないのか。



『[廻天乃力][蓋世不抜][冠前絶後][天資英邁]は成長系転生特典に分類されます』


・[廻天乃力]:汝、天を廻す者

 効果:あらゆる成長率の極大上昇


・[蓋世不抜]:汝、世界を覆う者

 効果:あらゆる成長率の極大上昇


・[冠前絶後]:汝、至極の才を持つ者

 効果:あらゆる成長率の極大上昇


・[天資英邁]:汝、天より才を授かりし者

 効果:あらゆる成長率の極大上昇



『[天姿国色][グローリアス・ヴィア]は特殊系転生特典に分類されます』


・[天姿国色]:汝、至極の美貌を持つ者

 効果:美しさの成長率の極大上昇


・[グローリアス・ヴィア]:敗者の頂上。

 効果:お前は敗者を糧とする。



 はぁ……。まぁ、好きにしてくれ。



『開発者メッセージを表示。善く生きた者よ。良い旅を』



『転生を実行します』





 ………



 ……



 …








『……致命的なエラーの発生を検出』



『エラーレポート:因果律の破損』



『エラー内容の提示』



『メインシナリオ:"壊れた世界の凡才ヒーロー chapter1" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"天と地。天才と、凡才" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"またいつか、どこかで" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"君の瞳に完敗" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"目撃、残された神秘" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"にゃっぷす大量発生騒動 ステージ1" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナリオ:"バカ&バカ&バカ、明日へと逃亡する" の発生に必要な人物が足りません』


『サブシナ………エラー。エラー。エラー』


『エクストラシナリオ:"再臨ヒーロー、ここに見参" の発生に必要な人物が足りません』



『エラーの解消のため因果律の修復を行います』


『失敗』


『別のアプローチを実行します』




………



……






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