第5話 たたかうを選択した。勝った。
歩みを進める毎に、木漏れ日がところどころ目に入って鬱陶しい。木々の葉のざわめきや鈴の音のような動物の鳴き声、どこかの川から水が流れる音が流れ込むように聞こえてくる。森の匂いだ。
現在、俺は森の中を探索していた。
今回の探索において俺の目標は常時依頼であるメリクの花弁、ネーリュの実、ヌカ草を持ち帰ることだ。
来てから思ったけど、袋も何も用意してないんだよね。小学生式、服の裾をめくって詰め込むしかないなこりゃ。
依頼の紙には絵も書いてあったので一応見た目はわかる。多分。
メリクの花弁はユリの花を少し太くような青色の花の花弁だ。花弁を引きちぎっても数日で生えるらしい。異世界の植物の屈強さに脱帽です。
ネーリュの実は黄色いサクランボのような見た目だ。これは見た目はわかりやすいが、結構高いところにしか生えないらしく、発見も採取も難しいらしい。高度な風魔法使いか飛行魔法使いくらいしか簡単には採れないが、そんな魔法使いは別のことに忙しいらしい。高単価案件ってやつだ。
ヌカ草は……なんか、雑草亜種みたいな……? 正直見分けがつく気がしない。デカめで葉脈が波のようになっているらしい。ちゃんと見ればわかるのかな? 風邪とかポーションとか御用達らしい。こいつも若干高単価案件。
俺の狙いとしてメリクの花弁とやらを大量に集めたいところだが……どうなるか。
もうある程度探してはいるが、やはりここら辺にはなさそうかな……?
森に入って割とすぐだからな、俺がいる地点は。既に他の冒険者に取り尽くされてしまっているのだろう。
奥に進むしかない。
数十分ほど森の中を散策する。道中でピンクで発光するキノコや黄金のトンボ、風船のような植物など、見ているだけで面白いものがたくさんあった。紅く光る鱗粉みたいのもあったな……毒ありそうだから近づかなかったけど。
にしても森の中は歩きにくいが、段々と慣れてきた。今なら苔が生えまくってる森の中を全力疾走しても大丈夫そうだな。
素晴らしいバランス感覚と体幹だ。試しに走ってみよう。
まずは小走りから始める。草を掻き分け、苔むした岩を蹴り飛ばし、徐々にスピードを上げていく。
走る速度が上がるにつれて、周りの風景が後ろへ流れていく。
は、ははは! すげぇ! 全然転ぶ感じがしないぞ! 木の上も走れそうな気分だ!
直感。お……? なんかちょっと先に目的のものがあるような気がしてきたぞ。
一旦走るのをやめて勘が疼いた方へ近付いてみる。
木々の合間から顔を出すと、そこには雑草と緑色の身体で草むしりをしている小さい子供が……。
俺が出した音に反応してこちらを向く子供。目の色は黄色で濁っていて、欠けた歯がチャーミングだ。
あ、いやゴブリンだこれぇぇぇ!!!
「ご、ごが、ゴガァァァァ!!!」
突然いきり立って走り寄ってくる。
いやこわぁぁぁ!!! ゴブリンじゃねぇかもう二度と信じねぇよ直感くぅぅん!!!
とりあえず逃げ……るか? 逃げる必要あるのか? これ。
何となく逃げる必要がない気がして、どうにもその方向に考えが行かない。
一旦冷静に相手の戦力を確認する。武器は無し。小学3年生ほどの小さな体躯。短い足に短い手。ボロきれのようなものを纏っているが防御性能は感じ取れない。歩幅は小さく速度も遅い。実に効率が悪い走り方だ。身体の筋肉の付き方のバランスが悪い。右の骨盤が歪んでいる________全てが滞った、緩やかな世界でどこまでも思考は回転する。
無意識に膨らんだ脳の算盤はこの場に置いて最も正しい結論を叩き出した。
何の問題もなく、殺せる。
そのままゴブリンが突っ込んでくる勢いに合わせて俺はナイフを投げつけ、ゴブリンの目に叩き込んだと同時に足の甲で顎を蹴り上げる。
どちゃっと音を立てて宙を舞ったゴブリンは倒れた。
哀れなゴブリンは黒い粒子のようなものに分解され、消え去った。
……あ? え? こ、殺しちゃった……?
ゴブリンが居なくなった森。硬直する俺。木から顔を出すリス。よく見ると波打った葉脈の草たち。
ピコン!
・[グローリアス・ヴィア]を発動します。
・敗者の成長率を勝者へ加算します。
・獲得出来る異能はありません。
・[グローリアス・ヴィア]を終了します。
ん……?
脳内に声が響く。強奪系チートってやつか? そういや、寝ぼけた頭で聞いたような聞かなかったような……。
数秒固まったあと、俺の脳内は動き出した。
お、俺TUEEEE! でも、なんか……思ってたんと違う俺TUEEEE……まぁ良しとしよう! ゴブリンは俺の脅威足りえない。1000匹来ても問題なく殺せる気しかしない。だから直感はここに導いたんだな。
元々ゴブリンの居た場所を見ると多くの波のような葉脈の草が生えている。
ヌカ草見ーっけ!
ヌカ草はポーションの素材にもなるらしいし、ある程度の治癒効果は草の状態でもあるのだろう。だからこそゴブリンはここで草むしりに勤しんでいたわけだ。何か少し申し訳ない気分になってくるが、襲ってきたなら仕方がない。
俺一人じゃ採り切れないほどあるな……持ち帰れる量だけ採って、後は次の日にでも来よう。
邪魔な投げナイフを近くに置いておき、いそいそと草むしりを続けていると俺の後ろから嫌な気配がした。
数十秒後、そこからゴブリンたちが顔を出す。数は6体。
なんか……君たち、多くないですか? レクサス第1階層はほぼ安全なんじゃないんですかぁぁ!? 恨むぞ受け付け嬢ぉ!
目と目が合った瞬間理性を無くし、襲いかかってくる6体。
足の速い個体、遅い個体、同じくらいの個体。見るだけで解る。不思議だ。彼らの動きの流れがまるで未来予知でもしているかのように見えてしまう。
遊びすぎて敵の動きのパターンがわかってしまったゲームみてぇだな。
先行してきた2体のうち片方を蹴り飛ばし、もう片方が掴みかかってくるのに合わせて身体を引き、転んで突き出た頭を踏み潰す。
残りの3体も何も考えず横並び突っ込んでくるので、やつらの動きに合わせて俺も跳躍して突っ込む。
2体の顔に勢いよく着地し、そのまま宙返りからのサマーソルトで真ん中のゴブリンの頭を蹴り砕く。
着地。
残りの足が遅い1体はビビったのか一目散に逃げ出してしまった。
……バケモンでは? 俺。
できる気がしたからやった。できた。感覚はただそれだけだと言っている。しかし凡人の精神が才能のギャップに付いて行けてないのだ。
これが今の俺か。とりあえず……投げナイフ別に要らんかったかも。イーラさん見つけたら返してあげよっと。
ヌカ草を採るために地面に置いておいたら見失った投げナイフを探す。
お、あったあった。投げナイフもヌカ草も採ったし……うん! 帰ろう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます