第4話 寒村上がりの口減らし系転生者。
大体の説明は受け付け嬢から受けた。何か聞く度に親切に教えてくれることはありがたかったけど、途中から制服のボタンを外し始めたり、色目を使い始めたのには少し困ったな。かぁ、いやしか女ばい!
もちろんガン見しましたけどね。ええ。やはり異世界でもイケメンの特権は存在しているようだ。
とりあえずわかったことをまとめると
・この世界には塔レクサスに限らず多くの迷宮が存在していること。
・迷宮内ではギフトとは異なる特殊な異能やスキルに目覚めることや、身体能力の向上が見受けられること。
・迷宮内にはモンスターも生息しており、強力なモンスターを打ち倒すと発掘品と呼ばれるアイテムが手に入ること。倒さなくても運命に導かれたように手に入ることはあるらしい。宝箱からも出るとか。
・レクサスは塔型の迷宮であり、この迷宮都市エレアができて600年、未だに攻略されておらず、9つの入口がありそれぞれ繋がる先が異なること。
・4番レクサス第1階層では危険なモンスターは少なく、冒険者なりたてほやほやの人でも採取依頼ならお金を稼ぐこともできること。
大体このくらいだ。特に最後が重要だな。
依頼が貼られている掲示板から採取依頼を探す。常時依頼と呼ばれるものは特に受注する必要もないらしい。採ったら採った分だけ売れるのは嬉しいことだな。
というわけで麻の服&武器もなしの状態で早速レクサスとやらに入ってみようと思う。
何となく大丈夫な気がするこの感覚を、直感のギフトを信じよう。失敗してももう1回死ぬだけだ。
あんまり死ぬのは痛くないし、怖くないことがわかった俺は最強無敵の鉄砲玉よ。ふはは。
冒険者ギルドは塔の入口の真横に位置している。故にすぐ出入りすることが可能なのだ。
「ちょ、ちょっと……そこのアンタ! 丸腰で普段着とか、うそでしょ?」
「はい?」
おや、呼び止められた。やはり無手のままレクサスに入っちゃダメなのか? その場合だと俺は詰むんだが……。
あの受け付け嬢なら助けてくれるかな。
後ろから掛けられた声に振り返る。
「なっ、いや……えと、その……あぁ! もう! アンタ! まさか素手でレクサスに入る気!?」
「あー、まぁ、そうだけど」
真紅の髪に宝石のような蒼い瞳。勝ち気そうな美貌は俺の顔を見た瞬間に気まずそうに一瞬変化する。
「おい、見ろよあれ。また世話焼きのイーラが出たぜ」
「あーあ、あの新人も可哀想に……釣るだけ釣って餌をやらねぇからなイーラは」
周りからヒソヒソ……とはしてない声でわざとらしい会話が聞こえてくる。いや、聞かせてくれてるのかなこれは。
なるほど、理解したぜ。つまりこのイーラとかいう美少女は……異世界版美人局ってことだな?
「そこ! うるさいわよ! 変なこと言ってるとナナロクのミルちゃんにあたしにデレデレしてたって言いつけるからね!」
「げっ! そりゃ禁じ手だろうが! ばか! 大体なぁ、お前のせいでイチハチの酒場でルーキー共が暗いんだわ! 墓地みてぇな雰囲気してんだぜ酒場がよぉ!」
「おいおいやめとけって、口じゃ絶対勝てねぇよお前じゃ。そんじゃあなイーラ! 世話焼きもほどほどにしとけよ!」
ベテランっぽい2人組の冒険者が塔の反対に歩いていく。なんかこういうやり取りを聞くの良いなぁ!
何やら息を切らしている赤髪蒼目の美少女がこちらを睨んでいる。
俺関係ないだろぉ! なぁ!
「えっと……もう行っていい? 今日の宿代と食事代を稼がなきゃいけないんだ。ごめん」
「……ふぅ……はぁ、あんの馬鹿共……いい!? 見たところルーキーも良いところだから言ってあげるけど! レクサスで武器もなしで服も麻とか舐めすぎよ! 安全に近い第1階層の森でも10日に1回くらいはゴブリンとかミークスとかセルルが出るのよ!? 運が悪ければあんた死ぬから! 即!」
一息で言い切られた。すごい肺活量だな。
えぇと、なに?
ゴブリンはわかる。
ミークス? セルル? 知らない子ですね……。
うぅん、やっぱり無手だと死ぬのかなぁ。……人間の死に方で2番目くらいに餓死が辛かったはずだし、どうせ死ぬなら苦しみたくないよな。
まあ何とかなる! 多分! にしても思ったより良い奴か? 異世界美人局と俺は読んだが……いや、あのベテラン2人組も親しそうにしてたしな。高嶺の花的なアレだろう。
困ったように微笑む。
「……忠告ありがとう。あんたの気分は悪いかもしれないが、失敗しても夢見がちなバカが1人消えるだけだし、あんま気にしないで貰えると助かる」
「……はぁ、たまに居るのよね。こういうやつ。死ぬか生きるか、それしかない寒村上がりの口減らしでしょアンタ」
か、寒村? 口減らし? 全然違いますけど……。
自嘲的な雰囲気を醸し出すイーラ。
割とすぐ諦めてくれたな。こんな美少女に気にかけてくれて俺は正直狂喜乱舞と言ったところだが、金がなければ遅かれ早かれ死ぬ。それに興味もあるし行くしかあるまいて。
思ったけど今の俺死生観バグってるな……まぁ、1回死んだしな。そんなもんだろ。てか1度死んでバグった死生観と寒村の口減らしとやらは同じなのかよ。異世界こわ。
寒村の口減らしってことにしとくか。
「よくわかったな。まぁ、そういうことだ。呼び止めてくれてありがとう」
「待ちなさい。ほら」
再び塔へと向かおうとすると、イーラから何かを投げ渡された。
これは……ダガー? いや投げナイフというやつか。こんなもん投げ渡すんじゃないわよぉ! 危ないんだから!
思わずイーラを見る。無表情に近いな。こわい。
「数打ちの投げナイフよ。サブウェポンにも満たないものだけど、ないよりはマシでしょ。何本もあるから気にしなくていいわ」
「……イーラって言ったっけ。マジでありがとう! これで生きられるわ!」
「ふんっ、さっさと行きなさいよ! それと死ぬんじゃないわよ! あたしの気分が悪くなるから!」
「うっす!」
笑顔でお礼を言ってから、右手に投げナイフを持って俺は塔の縦にも横にも大きすぎる広さの入口に入った。暗闇が続いている。
いやぁ、異世界にも良い人は居るもんだなぁ。まぁわかるぜその気持ち。死ぬとわかってるやつを見殺しにするのはムズムズするよな。
待てよ、そう考えると俺がイーラにそう考えさせたと言っても過言じゃないな……悪いことをしてしまった。
つらつらと考え事をしながら歩みを進める。
すると暗闇の先に光が見え始めた。俺は走って光の元へ向かうと、完全に暗闇を抜ける。
暗闇から抜け出して、最初に見えた景色は草原だった。遠くの方には森も見える。風が吹き付け、僅かに土と草の香りがする。踏みしめた地面は確かに草と土の質感だ。
マジかよ。塔の中だろ、ここ。
上を見上げる。見渡す限り青空だ。空を飛ぶ鳥や日光が俺の視界を遮る。
すげぇ……! すげぇ!!
「は、はは、はははは! 凄いな! やっべぇ! マジすげぇ! 塔の中に世界が入ってんじゃねぇか!」
後ろを振り返る。黒い穴が空間に滲み込むようにその縁をぼやかしている。まるで黒い穴という現象そのものが独立して存在しているようだ。
面白すぎるだろ! さすが異世界!
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