第30話 強奪、部分成功。
舞い落ちる砂埃。
それは俺の身体から溢れ出る冷気によって弾かれている。
打ち合いの衝撃で舞った砂埃で、いい感じに不意打ちできないかと考えたがそれも無理そうだ。
ドゥーグの身体からは常に薄く蒸気が吹き出し、俺と同じように砂埃を弾いていた。……いや、魔力視で見れば極わずか、髪の毛一本ほどの緋色の魔力が混じっているのがわかる。
さては不死鳥ってギフトから生み出される魔力か何かだな?
さぁーて、どうするか。
弾かれた剣をだらっと持ちながら、俺はドゥーグを眺める。あちらは全く戦意が萎えている様子はない。
瀕死か、もしくは本当に死んでから蘇っているとして、ビビって嫌になるだろ普通。メンタルお化けめ。
おそらく奴のあの強化状態もそう長くは続かないはず。瀕死から蘇る度に永続的戦闘力の向上とか本当にサ○ヤ人になっちまうしな。
「ははッ! 良いぞ、良い戦いができそうだ! ふんッ! 戦技、"巨衝斬"ッ!」
地面が深く沈むほどの踏み込み。やつは何やら技名を叫びながら剣を振りかぶり__
ファンタジーなら飛ぶ斬撃とかか? だがそんなもの俺に当たるわけがねぇ。
気配が増大する。またスキルでも使いやがったのかこいつ。俺は身を少し屈め、予測される斬撃のルートから外れ、
「避けていいのか? 白銀頭よ」
__あ、そういうことね。存外いやらしいやつだな。
そのまま腰を落とし、斬撃を打ち落とす姿勢を取った。
鎧の奥で、にやりと笑った気がする。
「……ッは! てめぇまじでだるすぎだろ!」
「精々受け止めて見せろッ! 白銀よッ!」
ボォォォンッ!!
激しい音を立てて、ドゥーグから飛ぶ斬撃が放たれた。空気を裂き、迫るそれを俺は避けることはできない。
後方のアルヴェルの立ち位置に上手く被るように振りやがって。
飛翔する無色の斬撃を、真っ向からどうにかする手段を考える。
空抜きなら何とかできるか? いや、斬撃の横幅的に空抜きの規模では飲み込みきれない。形状の変化とか練習しとくんだった。
イメージしろ。今の俺にはチート才能と、前世の雑学やアニメ知識が詰まってんだ。
飛ぶ斬撃程度、余裕で打ち落としてやる。
身体のあらゆる関節を意識する。頭の先から足の爪先まで、全てを操れ。
呼吸に集中し……身体の重心、肩、肘、手首、第一関節から第二関節の動きを全て繋げる。
___。
俺の振るった剣は、もはや音すらなく、見事に飛ぶ斬撃を斬り崩した。
「……ははははは! よもや見えぬ斬撃を切り破るとはッ! 戦剣流でも嗜んでおるのか? 気持ち悪いッ! くはは!」
「気持ち悪いのはあなたですっ! "紙片"、開帳。実行、5ページ2行目__"ルクスの視線"!」
俺の後ろから、薄く碧色に輝く光の束が飛んでいく。くねるその軌道はかなりのスピードだ。ホーミング性能があるらしい。
「ふんッ! 恐ろしい魔法使いだが……あいにくその手の奇跡とは戦い慣れていてなァ!」
ドゥーグは飛んでくる光の奔流に敢えて接近し、当たる寸前で身をかがめ、俺のところまで接近してきた。
再びの剣戟。先程と同じように剣での戦闘が始まる。打ち合い、弾き、斬り込むも鎧部分で上手く弾かれる。剣の術理関係なく、才能の赴くままに剣を振るう今の俺では殺しきれないらしい。
剣での戦闘なんざあんましたことないんだよねぇぇぇえ! というか何か攻撃また重くなってね?
混じり始めた緋色の魔力のせいか。やつのバフが切れるまで耐久するのも考えていたが……どうやら悪手か?
打ち合いの最中。背後からのビームが迫り、ドゥーグは一気に右に転がり込む。そして迫るビームは慣性に従い、俺の方に直進し__
「ばーかッ!!! てめぇのやりてぇことなんざお見通しなんだよハゲェ!」
小学生レベルの悪口と共に、展開された銀色の渦に飲み込まれた。
"月潜り"、展開。
転がり、体勢を僅かに崩したドゥーグの真上から銀色の渦が生まれ、
「ぬッ……!? 俺はハゲてなどッ__!?」
そのまま降り注ぐ碧の光の奔流に、ドゥーグの姿が呑み込まれる。
数秒ほど経つと、光の奔流の流れが止まり、中から赤鎧がドロドロに溶け、爛れた様子の男が現れた。
ようやくご対面だな、赤鎧。
「……は、はは! この俺ですら勝てぬ相手が、そこらへんを歩いているとはな……」
何やら語り出している。死にかけだな。圧力も随分と衰えた。とどめと行こう。
少しだけ考える。俺は今から人を殺さないといけないのか。
……まぁ、いいか。
「最期に言い残すことはあるか?」
それでも人情だ。最期の言葉くらいは聞いてやろう。後ろのアルヴェルも真面目な雰囲気をしているのがわかる。
「……俺は孤児でなぁ。スラム街じゃ喧嘩すれば負けなし、走れば最速、スリも一等上手かった……。だが、いくら強くても限界はある。帝国のクズ共が俺の仲間を駆除だと、皆殺しにしていくのを俺は止めることができなかった」
話すのも辛そうに、膝を付きそうになっている。お涙頂戴エピソードってか?
「そのときだ。偉大なりし"光"の信徒が、卑劣な帝国の尖兵どもを殺してくれたのよ」
死にかけの身体に力が宿り始める。身体中激痛だろうに、徐々に顔が笑顔に変わっていく。
「痛快だった。この世にこんな爽快さがあるなんて知りもしなかった。だから、俺は恩を返すため、顕光教団に入信した」
狂気だ。
戦場こそ我が命の居場所とか言いそうなくらい戦闘狂なのに、普通に宗教キメてるやつの顔付きになっている。
「___
「死ね」
言葉の途中で首を切り落とす。
「ちょっ!? ウェイズさん!? 辞世の句をそんな無下に__!?」
間に合ったか? シャイニング男と同じ気配がした。あそこまで高い身体能力が、"光"とやらに強化されてしまえば流石に勝てなくなる。勝てば官軍負ければ賊軍、
ここで死ね。
ごろん、と地面に転がった顔がこちらを見詰める。口元が歪み、
「__
最後まで言い切った。
すると薄く、身体が発光し始め____
・[グロー■■ス・ヴィア]を発■しま■■
・■者の成長率を勝者へ加■します。
・敗■の■■ト[■死鳥]、スキル[七■び八起き][逆■補正][死中■■あり][火■■馬鹿力][■■][臨■■■][■意■■][限■■■■■■■■■■を■得し■まま■まままままままま__
・エラー。敗者のスキルの獲得に失敗。
・スキルが存在していません。
・[グローリアス・ヴィア]を終了します。
宿った力、宿らなかった力。身体の中にどこか熱っぽい力が宿ったことをハッキリと自覚できた。
どちゃりと倒れ込んだ首なし死体が動き出す。死体が輝き、どろどろの身体のまま立ち上がった。
以前、シャイニング男を倒した時に考えたことがあった。何故か倒してもスキルやギフトを奪えなかったあの現象。
もしかして"光"とやらにピンハネされてんじゃね? と薄く考えていたが、どうやら当たりっぽいな。"光"は神々の恩恵ですら喰い漁るようだ。
「ヒッ……う、うそぉ……私ほらー苦手なんですよ……!?」
直感。
攻撃される気がする。不味い、これは流石に勝てないぞ。
輝く首なし死体は、ゆっくりと身体を沈め__その姿が掻き消える。
響く轟音。
俺と、アルヴェルの真後ろの建物に3mほど大穴が空いた。その奥の家にも穴は続いている。
300mはぶち抜いてるぞ、あいつ。でも狙いはそこまで良くないようだ。頭を失っているからか?
流石に時間も経てばやつは光に変わるはず。今のうちに逃げよう。アルヴェルの腰に手を回し、持ち上げる。
「……うそー……あれって音速越えてるんじゃ……えっ、ちょちょ! どうしたんですか!? というか冷たい!?」
「この空間から逃げる。しっかり捕まってて」
「ここは位相の違う空間ですよ!? 逃げるにしたって対応した術式を組まなきゃ__」
「"月潜り"__はダメか。"月潜り"で穴をぶち開け、そこに"空抜き"。よし、成功」
へ? とアルヴェルの口から間抜けな声が漏れ出る。
"月潜り"なら一発で出られるが、あれは入った者を凍結させる効果があるからな。俺はともなくアルヴェルが氷漬けになってしまう。
黒い渦に飛び込み、全身が沈み込む寸前。
とんでもなく嫌な予感が背筋を迸り、空気が裂けるような音と共に首なしが突っ込んで来て__そのまま銀色の渦に呑み込まれたようだ。
早すぎて俺ですら見切れないが、そこは推測。
射出先は上向きに空の旅にしてある。いくらあいつに馬鹿げた身体能力があろうと、自由落下の速度までは変えられまい。
静止した時間の中でほっとする。
準備しててまじで良かった"月潜り"。脳を失ったあいつは直線的に突っ込んでくると予想してたのが功を成したな。
完全に黒い渦に入り込み、ようやく俺たちは元の世界に戻ってきた。
ふぅぅぅう……生き残ったァ! しゃあ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます