第25話 実験と修行


 さて、今俺の目の前には【森のテラリウム】で採取してきた素材がある。

 

 ボルボルの実×12

 癒しの薬草×12

 回復の薬草×12

 寒冷草×12


 午前中は薬草類を外に植える事が出来るかの実験に当てよう。

 三種の薬草はこの森の浅い層から良く取れる薬草との事なので比較的調査しやすい。


 隠れ家を出て家の左手側に少し空き地があった。

 ここに二つの条件で植えていくことにする。

 

 片方はここの土を使って植える事。

 もう片方には素材用の試験管から取り出した土を使う事。


 前者で根付くのならこの場所以外の土でも植え付けしていけば増える可能性がある。

 後者でしか根付かないのなら土とセットで植え付けしていく必要がある。

 

 この森の土がそのまま使えるかどうかによって、植え付けの難易度が変わるな……。

 そのどちらも枯れてしまったり、黒く染まってしまったら……その時はまた考えよう。

 ま、地道な作業を続ける他ないな。


 スコップなんて土をほじくり返す道具があればな……なんてマジックバックを漁る。

 ……手には何も掠らない。

 あれば掴める仕様だから、さすがに女神もマジックバックに入れてはいないか。

 ……まてよ。革製のツールセットを取り出して、スコップはツールの一つだな~なんて思いながら目を瞑り道具を掴むと、きちんとスコップを握っていた。


 さすが女神が残した魔法の道具。最初にツールもこんな道具があれば便利だなって思い描いた物が出てきていたし、同じようにイメージすれば良いかもって安直に思っていたが、正解だ。

 道具に関しては俺は相当甘やかされている。

 

 抵抗なくスコップが入る土を掘り起こして小さな園芸場所を作る。

 畝は三本、土を盛り上げて形作る。

 その畝に併設するように三本、今度は持ち出していた素材【祈りの森の土:レア度1】の試験管を取り出す。

 素材用試験管の中身はテラリウムを作成するために無限に出てくる……とは説明にあったけれど、本当に畝三本分の土が小さな試験管から出てきて、ちょっと信じられない気持ちでいた。


「やっぱり、少しだけ土の色が違うな……」

 ここの土を掘りだしたのと、素材用試験管から取り出した土は色からして違っていた。

 そこに三種類の薬草をそれぞれの畝に6本ずつ植えていく。

 ちょっと多めに植えたのは、1本や2本だと個体差の影響が出やすいかなと考えてだ。

 

「そうだ、水の影響とかも出てくる可能性あるかもしれないな」

 ここの土をA群、素材用土をB群として、それぞれ薬草3本ずつ水を変えてみた。

 家で汲むことができる清水と魔力水の霧吹きの二種類で試してみるか。


 癒しの薬草 A群清水3本、魔力水3本とB群清水3本、魔力水3本

 回復の薬草 A群清水3本、魔力水3本とB群清水3本、魔力水3本

 寒冷草 A群清水3本、魔力水3本とB群清水3本、魔力水3本


 これで一応は土と魔力の有無で調べる事が出来る、のかな。

 

 午前中は土いじりをしていたから、さすがにお腹が減って来た。

 軽く清水で手を洗った後、昼食にすることにした。


「困った……」

 美味しかった徳用パンは消え、残っているのは冒険者用食事セットの余り。

 乾燥パンと干し肉、甘味菓子1つ。

 1日分でスープは2食分しかついておらず、すでに昨日と朝で食べきっている。

 

 乾燥パンに齧りつく。

 口の中の水分が全て奪われる……。

 干し肉、噛めない。ずっと咥えている。


「簡易スープの偉大さよ……」

 塩とか胡椒とか……何か味付ける香辛料があれば湯は沸かせるのだし……スープぐらいは作れるかも。

 でも香辛料って嗜好品なんだっけ?

 明日商人から仕入れできるか聞いてみよう。


 スープって大事。

 食後のデザートとして甘味菓子はほのかに甘い乾燥スティックみたいな感じだった。

 食べれるだけでありがたいと思うしかない。

 冒険者用食事キット、あと4食分あるしな……。

 

 うん、明日の昼は絶対に酒場で食べよう。


 そしてふと良いことを思い付く。

「俺には、テラリウムからの恩恵、ボルボルの実があった!」

 そわそわと1個取り出す。

 せっかくなので軽く洗ってナイフで切っていく。

 食べやすい大きさに切ってシャクシャクと食べていく。

 酸っぱくて美味しい……!


「これ、もしかしたら野菜とか、木の実とか、テラリウムで食べられる素材を探すってのは一番現実的かもしれない……!」

 ちょっと元気が出て来たぞ。


 午後は【森のテラリウム】に再び入り、ギルドに卸す用の薬草を調達することにした。


 ボルボルの実×20

 癒しの薬草×20

 回復の薬草×20

 寒冷草×20

 

 取りすぎてもいけないのでこのぐらい。他にも採取してみたい素材はあったけれど、障りがあるといけないしな。


 テラリウムの中は時間が経過していないけれど、少々疲れる感じだ。

 

 その後は夕方まで【固有魔法:テラリウム】の熟練度を上げるために2階の作業場で、ひたすら箱庭の球体を作った。

 ケーシャ石を山ほど採取してきたのは大きかった。いくらでも作れるし、いくらでも失敗できる。

 ぎゅぽん、ぎゅぽんと失敗作はまだまだ多かったけれど、最初に比べれば上達もしている。

 体力精神力継続回復のおつまみを食べながら、延々と作っていく。とうとう5個に1個の成功率まで上がって来た。

 気が付けば辺りは暗くなっている。午後ずっと集中して作っていた為か、目がシパシパしてきた。

 気が付けば【箱庭の球体】を30個ほど作っていた。

 ひぇ、俺どれだけ無心でやっていたんだ。

 【底無しの袋:レア度8】の中にあれだけ詰め込んだケーシャ石を全部使って、残すところあと一回分。

 きゅぽん! 【箱庭の球体LV2:良いの箱庭】なんてちょっと良い球体が完成した!

 

『おめでとうございます! 【固有魔法:テラリウム】がレベル4になりました!』

 

 よし! テラリウムの魔法も熟練度が上がった!

 思わず拳を握ってしまう。


 だがふらっと身体が傾ぐ。

 もしかして、思った以上に身体は疲れているのかもしれない。


 明日は町まで出かけるし、無理はしないでおくことにした。

 少し休憩してから固形パンだけ水で胃に流して、寝酒にビールを一杯。


 今日も濃い一日だった気がする。

 おやすみなさい。良い夢を。

 

 

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