第15話 スキルの熟練度


「頼むよ~食器セット……求める者の食器って俺今食器欲しているんだよ~宮廷魔導士のロードスターさん頼むよ~」

 なんて鑑定で見つけたレア度8の食器セットのケースを持って泣き事を言っていたら、食器セットからカチリと音がした。

 ぎょっとしてケースの開け口を見ると、鍵が開いたようだった。

「まさか泣き落としで!?」

「お前さん、早く開けい。わしも見るのは初めてだ」


 よろず屋の老婆は器用に座布団の上からぴょんぴょんと跳ねてこちらに近寄る。

 え、意外と俊敏。

 催促されて、左右の留め金を開けてパカリと開ける。

 すると中には一人用の食器やスープカップ、お茶用のティーカップやスプーンやフォークなどの食器セットが納められていた。

 白い陶器の皿には金縁の綺麗な飾りと春の庭らしい美しい風景が絵付けされていた。

 びっくりするぐらい綺麗。

「やった、ビールグラスも入ってる! もしかして、この区切りがついている小皿はおつまみ受け……?」

 完璧すぎる。

「さすがじゃの……100年経っても付与された魔法が解けてないのう。これが伝説の宮廷魔導士ロードスターの作品……美しいものじゃて。良い物を見せてもらった。約束通り、銀一枚であんたのものだよ」

「いいんですか?」

「良いも何もこの食器セットはあんたをえらんだのさ。他にも欲しいなら選んでおくれ」


 実は店内の物を鑑定しながら候補は選んでいた。

 隠れ家に無い大きさの鍋やフライパンらしいものを選んだ。これも滞在許可証を見せたら値引きして二つで銀貨1枚で良いとの事。

「またおいで。次はうんと珍しい物を店の中に隠しておいてやるからの」

 ニシシシと笑う老婆はちょっとだけ意地が悪い顔をしていた。


 食料も当面の必要な道具も揃った。

 まだ日は明るいが、隠れ家まで戻るのに時間が掛かる。

 最後にこの町を出る前に役場に滞在許可証を返しに行こうと【ギルド兼酒場】に向かった。


 食事時が終わったからなのか、客がいなくなり店内はがらんとしていた。

「あら、タカヒロさん、もう帰ってしまうんですか?」

 シシリーさんに滞在許可証を返却に行けば、とても残念そうに言われた。

「はい、買い物も終わりましたので」

「おや、寂しくなりますね」

 素材棚を整理していたベクターさんも顔を出してくれた。

「また二日後の氷日の日に来ようと思っていますので……あ、そうだベクターさん」

「はい、何でしょう?」

 そうだ、ベクターさんに聞きたい事があったんだ。

 

「ベクターさんって【鑑定】レベル8でしたよね。俺も【鑑定】レベルを上げようと必死に色んなものを鑑定しているんですけど、全然レベルが上がらなくて……もうひとつ持っているスキルは比較的簡単にレベルが上がったんですけど、何か【鑑定】の熟練度を上げるコツとかありますか?」

「そうですね……適正の問題もありますが……」

「適正?」

「例えば、剣士に適正がある冒険者がいくら初級の魔法を覚えたとしても剣術スキルのほうが伸びが良いみたいに、人によって適正があるかないかで熟練度の上がりやすさが変わるのです」

「なるほど……その例えはわかりやすいですね。じゃあ適正が無ければレベルは上げられないとか制限はありますか?」

 例えばどれだけレベルを上げようと思っても途中で止まってしまったら……。

「ほほっ人生全てのものに意味がない事なんてありませんよ。適性があるスキルに比べたら熟練度が上がるのに時間は掛かりますが、訓練を続けることで少しずつ熟練度は上がります。適性がないのに最大ランクのLV10に到達する人だっていますからね」

「そうなんですね、それを聞いて少し安心しました」

 

 そうか、今必死にやっていることは無駄ではないのか……。

 それを聞いてじんわりしてしまった。

「そうですね、うちのギルマス、適性が狂戦士バーサーカーでスキルも戦闘ばっかですけど、今じゃ料理スキルLV10ですものね」

「え!? そうなんです??」

 シシリーさんの言葉に吃驚してしまう。

「この町の料理人も皆いなくなってしまったから、『それじゃお前たちは美味しい料理が食べられないじゃないか。人生の喜びの一つは食の喜び。俺が美味しい物を作る事にしよう』って頑張って練習してくれたみたいです」

「ギルマス、めっちゃいい人ですね……」

「ええ、この終わりを待つのみとなっている町でも最後まで人がいるのは、ギルマスが役人とかに変わって見守ってくれているからなんですよ」

 シシリーさんもベクターさんもなんだか誇らしげだ。

 一番最初に訪れた町は良い人がいっぱいで良かった。


「なんだ、もう行くのか」

 その時奥にいたギルマスもこちらに顔を出し……。

「なんですか、その恰好」

「夜は酒場がメインとなるからな。以前シシリーに変な絡み方をした奴がいたので、夜はこの恰好で給仕をすることにしたのだ」

 溢れんばかりの胸筋をピンクのフリフリからさらけ出した屈強な踊り子姿のマスターがいた。

「もう、マスターったら! ふふ、バニー姿も踊り子姿も今ではこの酒場の名物なんですよ!」

「は、はあ」

「もう少ししたら踊り子最終奥義、武闘演舞烈火炎山を披露するというのに」

「なんて!?」


 俺は半笑いしながらまたの機会に。と全力で断った。

 

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