第22話 固有魔法テラリウムの能力
おそらくこの緑生い茂る森が、製作した【森のテラリウム】の中だということはわかった。
だけど、出る方法がわからない。
こんな時にはいつも冒険の書に頼っていたから、一人になるとちょっと心もとない。
とにかく脱出を試みなければ。
「えーと、出口に向かって進めばいいのか?」
出口がどこかは、正直ちょっとわからないけれど。
とりあえず、ここが球体の中だというのなら、そんなに広くないはずだ。
【鑑定領域】を使って鑑定していない素材を探しつつ、先に進む。
出口を探して歩いている中で、少しだけわかってきたのは、思った以上にたくさんの植物や茸が生えていたことだ。
どういう原理だろう。俺がテラリウムに植えたのは鑑定して採取済みの素材ばかり。
けれどもこの森の中には、それ以上に見知らぬ植物が生えている。
それに、結構歩いたけれど森は奥深くまで続いている。
「おかしい。これだけ歩けばもう行き止まりに来ていてもおかしくないはず。なのに無限に続いていくのはどうしてだ?」
似ているような景色の連続だから、元の場所に戻ってきているかと思ったけれど、どうやらそうでもないみたいだ。
え、これ俺出られるよね!?
ちょっと不安になって来た。
ひとまず足を止めて、外に出たいと願う。駄目か。
どうしたらいい。管理者権限ってやつ?
反応なし。
「【固有魔法:テラリウム】発動……?」
ヴンっと目の前に画面が表示された。
良し!!
【森のテラリウム:普通】
成熟度☆
採取できる素材の確認
採取できるレア素材の確認
▶テラリウムから退出
お、あった! 退出するかどうかの確認!
良かったーー。退出を選ぼうとして、ふと止まる。
また入る事が出来るとは思うけれど、赤い果物と白い花を幾つか摘んでいく。
もしかしてだけど、ここの素材、外に持ち出せる??
【テラリウムからの退出】の項目を選んだ瞬間、再び視界が揺れた。
意識がはっきりとした時には、見慣れたカウンターが広がっていた。
「おっとと、出られた!」
片手には森のテラリウム、もう片方には魔力水の噴霧器。
果物と花は……残念持ってない。
テラリウムの中の物は持ち出せない、とか? ぐあ、惜しい。
うーん、とりあえず冒険の書に聞いてみよう。
2階に上がってマジックバックと冒険の書を手に取り、1階のキッチンの壁に吊り下げておいた素材調達用のベルトを手に取る。
ベルトには20本の素材採取用試験管が復活している。
それを腰に装着して、準備は完了。
冒険の書に問いかける。
「さっき作ったテラリウムの中に吸い込まれた様な気がしたんだけど、あれってどういう事?」
『【固有魔法】は、所有者ただ一人にのみ使える魔法です。その魔法を利用した時に考えうる様々な可能性を秘めています。もし特殊な条件が発動したのであれば、その固有魔法の可能性が開花したという事でしょう』
「ええと、つまり、【固有魔法:テラリウム】は作ることだけじゃなくて、中に入る事も可能性として有り得たって事?」
『ご明察通りです』
ひぇ、そんな可能性あるのかよ。
中の素材を採取する事は可能なのか、そもそもテラリウムの中の素材を外に持ち出すことも可能なのかを確認したい。
一度しっかりと冒険の準備をしてから、もう一度テラリウムの中に入れるかを試した方が良いな。
よし、先にちゃちゃっと朝食を食べるか。
小鍋で簡易スープを作り、昨日のパンの残りと、食料キットの中に入っていた乾燥パンも食べてみよう。
さすがギルマスのパン、ちょっと時間がたっても少し固くなっただけで普通に美味しい。
乾燥パンは……。パサパサで、口の中の水分を全部吸い取られる。
簡易スープに浸して食べると柔らかく膨らんで腹持ちが良くなった。
……なるほど、スープに漬して食べるのが前提みたいな携帯食料だな。
よし、腹ごしらえが出来たので、準備は万全。
マジックバックの中に冒険の書を入れて肩に掛ける。
【森のテラリウム】のコルク栓を抜いて、しっかりと覗き込んだ。
再びぐにゃりと意識が歪む。
目を開ければ豊かな森の中に佇んでいた。
「よし、テラリウムに入る方法は蓋を開けて中をしっかりと覗き込む事が発動条件で良さそうだ」
『【固有魔法:テラリウム】及び【森のテラリウム:普通】に情報が加筆されました』
お、冒険の書に加筆情報?
『【固有魔法:テラリウム】の能力に次の項目が加筆されました。製作した箱庭の内部に入る事ができます。また、箱庭内での時間の流れは現実世界では反映されなくなります。箱庭の成長は魔力水による噴霧及び創造主による手入れによって加速させる事が出来ます。なお、箱庭内で生成されたあらゆるものは創造主の管理下に置かれます』
まてまてまて、滅茶苦茶大切な事が加筆されてない!?
箱庭の中にいる時、表の世界では時が止まってるの……?
それに箱庭の創造主って女神じゃなくて、俺って事でいいんだよな……?
『【森のテラリウム:普通】の説明に次の項目が加筆されました。【祈りの森】の下層を模したテラリウム。緑豊かな自然では、様々な回復薬の材料となる薬草を採取することができます。この森特有の種も幾つか存在しており、人の生活には欠かせない場所となっています』
って、やっぱりこの森、祈りの森と似た環境なのか!
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