第46話 従魔登録

 

 ワールの鞍を入手する算段が付いた俺は、いったん酒場兼ギルドに戻る事にした。

 

 丁度昼頃だし今行けばランチを食べる事が出来る。

 マズリーさんはもう少し工房を片付けてから酒場に向かうという事で、ワールを笛にしまって俺は先に向かう事にした。


 名物料理のボルボルも美味しいが、せっかくなのでAランチにしよう。

 なんて期待して酒場に行けば、俺に気づいたギルドマスターがすごい形相をしていた。

 なんだろう。なんか怒られる感じではないのだけれど、とても複雑な表情。

 

「タカヒロ、ちょっとこい」

「あ、あの食事って」

「んなもん後だあと」

「ベクターさんの査定は……」

「今後ろで休んでる」

 シシリーさんがカウンター側にいたのでちらりと目線をやれば、グッドラックみたいな表情で見送ってくれた。

 え、どんな顔??


 そのまま俺はどこに連れて行かれるのかと思いきや、ギルドの裏手にある解体工房に連行された。

 中に入れば長椅子に、燃え尽きた様な形で座り込むベクターさんの姿。

 え、大丈夫かな?


「さて、お前さんに言いたい事が100程あるが、まずは一つ目」

 滅茶苦茶言いたい事あるじゃないっすか。


「納品物は何かな、どの薬草かなって思って掴んだ物が【イノリウシ】の顔だったとか、どんなドッキリだよ。いいか、せめて最初に魔物も入ってますとか言ってくれ。いきなりウシの顔面引き当てたベクターが泡を吹いて後ろに倒れたぞ」

「んああ!! すみません!!」

 た、確かに……昨日『魔獣はちょっとないっすね』って言ったばかりだ……それは、ビビる。

「で? 【イノリノトリ】【イノリシシ】だって? 普通の冒険者だって何人かで狩るような魔物が、ぺろっと納品袋に入っているのはどーいう事なんだ!?」

 俺は言葉に詰まり、そっとマジックバックからギルドの納品用のマジックバックには入りきらなかった【モリノヒツジ】を取り出した。

「おま、増やすな。何故そうなる! というかその魔物たちどこで……あーーくそ、何で俺はそれを聞けねえんだよ。昨日の今日で納品物が多すぎるんだよ!!」

 ギルマスが頭を掻きむしって呻り始めた。ひええ、すみません。


「タカヒロ、あんた素材採取系プロキュアメントのはずだろ!? 戦闘もいけたのか?」

「いや、ギルマス、俺を見てください。俺がこの魔獣たちに勝てるとでも!?」

「全然見えねーな。むしろ速攻倒されそうだな」

 腕を組んでジト目で見てくるギルマスの判断は正しい……。

 

「あの、従魔というか……その、狩ってきてくれたのは俺じゃなくて……」

「ここに来て従魔。……いや、俺はなーんも驚かねぇ。良い取引の代わりに詳細を聞かないと決めたのは俺だ。よし、いいぞ。出せよ。従魔登録、してないだろ。とりあえず何の魔獣か確認してギルドカードに登録しておくから。よし、こい。もう俺は驚かねぇ」

 滅茶苦茶気合入れてる……。

 ギルマス、本当に約束守ってくれていい人だ……。きっと彼なら安心して紫紺も見せる事が出来る。

「おいで紫紺」

「きゃふん!」

 呼びかけると影から飛び出て来た紫紺を抱き上げる。

 やっと呼んでくれた! って尻尾を滅茶苦茶フリフリして、俺の腕に嬉しそうに頭突きしている。

 

「おど……ろかねぇが、それ、犬か? ナイトドッグの類か?」

 ギルマスは紫紺の姿に「え、こいつがあの魔獣を?」みたいな顔をしている。

 そうだよな。こんな愛くるしいわんちゃんが魔獣を倒せるとは思えないよな。わかるわかる。


「小さいですが、魔法を使う事が出来て、あともう一頭はカゼノシカです」

「カゼノシカって祈りの森の固有種の……走る専門で戦闘に向かねぇけど、まぁいい。その二匹がお前の従魔って事で良いか」

「あの……従魔登録ってすると何か変わるんですか?」

「騎乗用の従魔を持ってる奴らにも登録してもらってるんだが、主がいる魔獣という事で討伐対象から外れるな。町で連れ歩いても保証できる。……まぁ、今の世じゃ呪いの風の影響で従魔なんてそうは居ないが……」

 なるほど、従魔を連れていて何か止められてもギルドカードを見せれば俺の従魔ですって証明になるのか。

「ま、従魔が狩ってこようが納品した主の報酬になる。それで、冒険者タカヒロ。昨日と同じ質問するぞ。……お前さんの秘密の採取場所では魔物はいるのか?」

「おそらく、います」

「それで……そいつも頼めば納品してくれるのか?」

 ギルマスがじっとこちらを値踏みするように見てくる。

「うちの紫紺が頑張ってくれたら……」

「きゃふきゃふ!!」

 紫紺は尻尾をぶんぶん振っている。任せてくれと言わんばかりだ。


「はー、大したお得意様だよ、まったく。おい、ベクター。大丈夫か?」

 ギルマスは燃え尽きているベクターさんに声を掛ける。


「…………さすがに、あの大きさの魔獣を解体するのは久々で、疲れましたね。まだ【イノリシシ】しか解体できていませんが……」

「【モリノヒツジ】追加だ。こいつは見たところ毛並みも良い。良質な魔毛が取れるだろ」

「【モリノヒツジ】もですか……? やれやれ、今日は驚きすぎてもう何が来ても驚きませんよ……」

「喜べ、ベクター。これからは忙しくなるぞ」

「貴方も解体手伝ってくださいよ」

「ああ、お前ほどじゃないが俺も一応解体できるからな。タカヒロ、今回はちょっと種類も多いから査定は後でまとめてでいいか? 魔物に関しては討伐依頼の方で処理されるが、素材をギルドでも買い取りたい。どの部分なら買い取らせてもらえる」

「ええと、カゼノシカの鞍を作っていただく関係で、イノリウシの皮とモリノヒツジの羊毛、イノリノトリの鶏冠と尾羽を鞍職人のマズリーさんに渡したいんですけど……」

「ああ、傷が少なく上物だ。きっとマズリーも良い仕事をしてくれるだろう。あと肉も半分は残しておくから食べてくれ。昨日食べさせた肉よりも上物だぞ」

「ありがとうございます」

「残りは全部ギルドで買い取りで良いか?」

 どんな素材があるかもわからないのでとりあえず頷く。

 必要な素材があれば、また紫紺に頼んで狩ってもらおう。

 

 魔物は状態よく解体するなら血抜きとかもしなければならないそうだけれど、俺の時間停止が掛かっているマジックバックにすぐに入れたために鮮度が良くギルドで解体作業を行っても十分だそうだ。


 ベクターさんを酷使してしまっている気がするのだけど、彼はアルカイックスマイルでお任せください。と解体作業に戻っていった。

「ちょいとベクターと相談してから戻るから先に従魔登録だけ済ませておけ」



 解体工房から出て酒場に戻るとまだ昼前だけど少しずつ人が集まって来ていた。

 ギルマスがまだ解体工房にいるから皆テーブルに座っているだけだけど。

 先にテーブルを回って注文だけ取っているシシリーさんを呼び止める。

 

「シシリーさん、あの、お手すきの時に従魔登録お願いしても良いですか?」

「誰のですか?」

 メモを持ったままシシリーさんはきょとんとしている。

「えーと、俺の従魔です。紫紺、返事してあげて」

 俺に抱かれて安心したのか、黒い塊と化していた紫紺がぴょこりと起き上がり「きゃふ!」と鳴く。

「ひゃっ可愛いーー! え、何どこかで拾ったんですか? やーん撫でても良いですか?? え、この子が従魔? やーん可愛い!!」

 高い声になったシシリーさんの声に驚いたのか、紫紺が耳をぺたりとさせてちょっと怯えている。

「あの、もう少し慣れたらで……ギルドカードに従魔登録しておけってギルマスが……」

「あら。触れないのは残念ですが、わかりました。種類はナイトドックですか? それともブラックウルフの仔でしょうか。お名前は紫紺(魔犬種)で登録しておくのでギルドカードお預かりしますね。登録料銅貨5枚です」

 あ、お金取るのね。

「あとカゼノシカのワールという騎乗用の従魔もいます」

「…………二匹も。昨日いらしてからまだ一日しかたってませんよね? まぁ、先ほどベクターさんが泡吹いて倒れちゃっていますけど、詳しくは怖いので聞かないでおきますね。ワール(魔鹿種)も登録しますので、銀貨1枚お願いしますね」

「お願いします」

 なんて登録をしていたら、やっとギルマスが戻ってきてランチの提供の時間になった。


 査定がどうなるかはわからないけれど、後からが楽しみだ。

 鞍の代金も稼がないといけないしな。

 

 

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