第47話 成果と報酬
シシリーさんが注文を取りに来たので、今日は肉メインのAランチを注文する事にした。
ボルボルランチのシチュー御代わり自由に心動かされていたけれど、実は他の人が頼んでいるのを見て気になっていたんだよね。
ランチを待っていると、他のテーブルで待っている人にじっとこちらを見られた。
え、なんだろう。ものすごく見られている。
きゅっと膝に抱いている紫紺を抱き締めれば、きゅふ? とくりくりな目でこちらを見上げて来た。
「にいちゃん、その犬……」
大柄で強面な男性から話しかけられる。
「え、すみません、ここ犬連れてきちゃ駄目でしたっけ!?」
そうだよな、犬は外とか、衛生面で連れてきちゃいけないとかあるよな……。
「いや、冒険者がわんさかいた時代には従魔を連れてきている奴らもいたからな。それは問題じゃねぇ。その犬……」
がたりと席を立つと屈強な筋肉が映えた。
うっ力仕事に従事しているからか目の前に立たれると壁みたいだ。
「食べる時にこんな固い木床の上だと可哀想だろう。これ手ぬぐいだが使ってくれ」
ふぁさっと紳士的に床に手ぬぐいを敷く強面な男性。
他にもそわそわと水を飲むならこのコップ使ってくれ。とか、おやつに干し肉持ってきてるんだ。食べるかな? とか、わりとみんな紫紺にメロメロになっている。
「きゅふ?」
可愛いは正義!!!!
「あっずるいですよ皆さん抜け駆けして!! 紫紺ちゃん用のクッション、こちらで用意しますからね!」
とシシリーさんは私物と思われる花柄のクッションをおじさんの手ぬぐいの上に置いてぽんぽんと叩いた。
紫紺はまだ俺以外の人を警戒しているのか尻尾をくるんとしていたが、膝から抱き上げて座布団の上に降ろすと、ふみふみと何度か踏み心地を確かめてしゅるんと座った。
「あのなぁ。お前らいくら見た目が弱そうだっていっても魔獣の一種だからな? 油断するんじゃねーぞ。それに、俺の酒場じゃ従魔は差別しないにしろ公平に扱うからな。過度なサービスは期待するんじゃねーぞ」
食事をサーブしに来たギルマスは今日もバニーの恰好に着替えてきたのか。絵柄がえぐい。紫紺が警戒した様に耳をぺたりとさせて尻尾をぶわりと膨らませている。
だが、俺用の昼食の他になにやら小さな皿と水皿が運ばれてきた。
「あん? こりゃ店の余り物だ。魔獣なんざ余りもので十分だろ。サービスしてやる」
なんてこんもり肉が盛られた皿を紫紺の前に置く。
……いや、余りものって感じがしないんだけど!?
「ギルマス、可愛いものに目が無いですよね?」
「うるっせぇ、んなことねーよ」
シシリーさんの言葉にギルマスが照れたように吠えた。
きゅ? と紫紺が俺の方を見る。食べていいの? みたいな。
「食べていいぞ。ギルマスからの肉だからな。お礼にいっぱい納品しような」
「きゃふきゃふ、きゃきゃふ!」
威勢の良い声がでたから、きっと次の探索でも頑張ってくれるだろう。
恐る恐る少量食べて、目を輝かせてから口いっぱいに頬張る姿が可愛い。
その姿を見て俺も料理勉強頑張ろっかなぁ、なんて気になる。
俺は紫紺の食べる姿にメロメロだ。
もちろん、周りの大人たちもメロメロだ。
でへでへってみんなで食べる姿を見守っている。
「あっいかんいかん。まだ注文品の提供途中だわ。ゆっくり食べていけ」
はっとしたようにギルマスがでれでれとした顔を締める。周りの人も名残惜しそうにテーブルに戻っていく。
なんだかんだいって、この町の人たちっていい人多いよなぁ。
Aランチは少々お手頃な値段とはいえ侮るなかれ。
新鮮なサラダ山盛りと厚めのステーキが何枚も乗っていて、おまけにパンは食べ放題。
……旨すぎる。こちらのランチも完璧だ……。
朝から夕方まで働く人が多いので、温かいご飯が腹いっぱい食べられるこの酒場は町の人からも重宝されているのがよくわかる。
食べ終わってゆっくりとしていたらシシリーさんに呼ばれた。
どうやら査定が終わったみたいだ。
受け渡し場所は解体工房で、一度解体した素材を見ながらの受け渡しになるそうだ。
「一応盗聴・透視防止の魔道具は念のために掛けておくか」
ギルマスが魔道具を作動させた。
少し休んだからか、ベクターさんは顔色が良くなっていた。
「まずは薬草類についてですが……」
結構細かい説明が長くなったので少し省略。次の様に売れた。
ボルボルの実×20 5個銅貨4枚 4回達成で銀貨2枚
止血の薬草 ×20 5本銅貨7枚 4回達成で銀貨2枚銅貨8枚
消毒の蔦 ×20 5本銅貨7枚 4回達成で銀貨2枚銅貨8枚
解毒の薬草 ×20 5本銅貨8枚 4回達成で銀貨3枚銅貨2枚
魔物避けの花×20 2本銅貨5枚 10回達成で銀貨5枚
魔力草 ×20 2本銅貨5枚 10回達成で銀貨5枚
促進の薬草 ×20 5本銅貨8枚 4回達成で銀貨3枚銅貨2枚
イノリゴケ ×1袋 1袋銀貨5枚 1回達成で銀貨5枚
カラクルの木の実×1袋 1袋小金貨1枚 1回達成で小金貨1枚
麻痺草 ×30 1本銅貨3枚 30回達成で銀貨9枚
睡眠草 ×30 1本銅貨3枚 30回達成で銀貨9枚
「あの、滅茶苦茶いっぱい売れますね……?」
羅列されるとちょっと引くぐらいだった。
いや、最初に納品物確認したベクターさんたちもこんなに入ってたら驚くだろうけど……。
「タカヒロさん、これで当時の原価です。そもそも薬草類は群生しておらず、見つけるのもコツがいります。また、根から丁寧に採取されるのは
あ、ああ……鑑定使えばすぐに薬草の種類が分かるし、周りもそんなに警戒してないもんな……俺……。
そもそもテラリウムの中でどれだけ過ごしてもあまり影響がないからな……時間忘れて採取しちゃうよな……。
「これからまだ結晶類がありますよ」
神聖結晶 ×25 依頼書に記載なし。
調査用に買い取り希望1個銅貨5枚 小金貨1枚銀貨2枚銅貨5枚
黒色結晶 ×25 5個銀貨1枚 5回達成で銀貨5枚
紫雲結晶 ×10 2個銀貨1枚 5回達成で銀貨5枚
青雲結晶 ×10 2個銀貨1枚 5回達成で銀貨5枚
鏡幻石 ×1 1個金貨1枚 個別相談
結晶類は薬草よりも単価が高い! なんて思ったけれど、ちょっと確認しないといけないものがあるみたいだ。
「神聖結晶……こちら実は私も聞いたことがない結晶でして……。祈りの森の小川から取れるケーシャ石に似た性質がありますが、価格を決めるにも今は暫定の値段で付けております。私の調査研究用にこちら買い取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
あ、神聖結晶は箱庭の歪な球体(失敗作)を小川のテラリウムに撒いたものだから、この世界に存在しない結晶なのか。
他にも使い道があるなら知りたいので、ベクターさんの提案に頷いた。
「また、まさか昨日お話した鏡幻石をもう取って来られるとは思いませんでした。こちら依頼難易度星4、買取価格金貨1枚の品ですが、ここはギルドで引き取らず、魔道具にした方が良さそうです。
「お願いします!!」
鑑定を補助してくれる魔道具! 製作できる人にも心当たりがあるのは正直助かる。
「もしかしたら追加でどの素材が必要かも聞いて参りますので、製作に半月ほど掛かると思っていてください」
「はい、よろしくお願いします」
もう終わりかな? と思ったら、ギルマスにドンっと肉の塊を机の上に置かれる。
「よし次は俺の方からだな。解体が終わっている魔物の肉についてだが、【イノリシシ】と【イノリノトリ】だけだが、それぞれ肉は半分の量だ」
テーブルに積み重ねられた肉の山……。油紙みたいなものに包んで大量にある。あ、丁寧に【シシ(腹肉)】とか書いてくれている。それをマジックバックにしまい込んでいく。
「【イノリシシ】は血と臓物は錬金術の素材、肉は食用、骨と牙は武器素材になる。捨てる部位が少ない魔物だ。ついでにこの心臓部にある魔石は大ぶりで価値は高い。錬金素材にも魔法にも使えるが、もし金に困っていないなら最初は従魔に食わせてやれ。相性の良い魔石なら従魔の力を高めてくれるからな」
ふむふむ、魔石ってそんな事もできるのか。
「【イノリノトリ】は高い空を飛ぶから狩るのに苦労する魔鳥なんだが……こいつは羽も胸羽、尾も含めて風の属性が付与されているからな。魔法付与の抽出素材になる。あれだ、黒色結晶を使って風属性を付与できる。肉は正直イノリシシより旨い。高級品だぞ。心臓と鶏冠は錬金素材、嘴と足は防具素材になるな。こいつも魔石があったんだが、これこそカゼノシカに与えてやれば効果が高いぞ」
魔物は思った以上に利用できる部位が多いみたいで、正直驚いている。
「で、【イノリシシ】の討伐報酬は星1。全身納品じゃなくて今回はもも肉の納品ってことで、他の部位は追加買取ってことにさせてもらうな。イノリシシの討伐報酬は小金貨1枚、他の部位は全部で小金貨2枚。全身納品だと金貨1枚ってところだからまた取ってきてくれや。【イノリノトリ】の討伐報酬は星3。今回は胸肉の納品ってことで、他の部位は追加買取。討伐報酬は金貨1枚、他の部位は全部で金貨1枚。魔石と鶏冠と尾羽がないから査定がちょっと安くなっているがこれで勘弁してくれ」
「イノリノトリ全身納品だと幾らになるんですか?」
ギルマスはニッと笑う。
「金貨5枚」
小金貨5枚で金貨1枚、つまり金貨5枚の鳥は1羽で50万円……。夢がいっぱいだ。
「ま、その分素材として色々と使えるからな。てことで、えーと、ベクター合算金額よろしく」
「薬草が金貨1枚と銀貨4枚、結晶が小金貨1枚と銀貨2枚と銅貨5枚、魔物2体で金貨2枚と小金貨3枚。合わせて金貨3枚、小金貨4枚、銀貨6枚、銅貨5枚ですね」
「残りの魔物素材はまた後日で良いか? 明日には……ベクター、解体できそうか」
「難しいですね。首都に行くついでに、弟子を呼び戻しますよ。この事情を説明すれば、彼なら喜んで町に来てくれるでしょう」
「あぁ、あいつか。あいつがいれば時間的に十分か。タカヒロ、明日には素材と査定も終わらせておく予定だ。ついでに腹もすかせておけ、とっておきの魔物肉を振る舞ってやる」
どちゃりとトレイに詰まれた金貨の山を見てびびってしまう。
もしかして……冒険者って儲かるのか?
俺の感想を察したギルマスが半目で俺を見る。
「おまえ、普通の冒険者がパーティーで行動している事忘れているな? 普通はな、野営したり武器道具に色々と雑費が掛かるのと、4,5人で山分けするから一人頭の報酬は少なくなるんだよ」
「あ、はい……」
「はーやれやれ。薬草類はギルドポイント102点、結晶類は2ポイントだから30ポイント、討伐はイノリシシが20ポイント、イノリノトリが50ポイントで合計202ポイント。おめでとう。2日目にしてギルドランクが2に上がったぞ。最速か? 自重は覚えなくていいが、ベクターの為に事前告知を頼む」
「は、はは……ありがとうございます……」
いや、俺もそんな爆速で上げる予定はなかったんですって……。
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