第41話 卵が先か鶏が先か


 森のテラリウムの中でギルドに納品するための素材を調達する。


 ボルボルの実も薬草類も昨日見た時よりも増えていて、【鑑定領域】を使って、素材になりそうなものを集めていく。

 昨日は20本ずつ納品したけれど、もう少し余分に取って、自分の研究用に使いたい。

 

「癒しの薬草、回復の薬草……わ、新しい薬草生えてる」


【止血の薬草:レア度1:追加情報>すり潰して傷口に付けると止血作用のある薬草。加工した方がより効果が高い】

【消毒の蔦:レア度1:追加情報>茎を切って染み出た汁が消毒作用を持つ薬草。蔦をロープ状に採集することができる】

【解毒の薬草:レア度1:追加情報>解毒作用のある薬草。根の部分により効果がある。毒草と見分けがつきにくい】

【魔物避けの花:レア度2:追加情報>魔物が忌避する匂いを放つ花。ただし下位の魔物にしか効果は無い】

【魔力草:レア度2:追加情報>魔力を含む草。魔力回復薬マジックポーションの原料となる】

 

【鑑定領域】の中にある【???】が次々と鑑定されていくのが嬉しい。

 薬草だけでも色々と種類があるんだなと丁寧にスコップで掘り薬草類を採集する。


 影から出た紫紺は、はち切れんばかりの喜びを身体全体で表している。

「きゃふきゃふ!!」

 俺が採集をしていると、俺のまわりを走ったり、魔力草の葉を齧ったりしてなんだか楽しそうだ。

 構って欲しそうだけど、俺が採集しているのを邪魔しないでくれているのが健気だ。

 何か遊び道具でも……木の枝を投げるとか……ってそれらしい枝をぽいっと投げると、紫紺は遊んでもらえると思ったのか、目を輝かせながらきゃふきゃふ鳴いて枝を咥えて帰って来た。


 ぐ、可愛すぎる。

 何度か投げてやると、俺のコントロールが下手過ぎるのか、茂みの中に枝が入っていった。

「悪い悪い」

 茂みを漁ると蜘蛛の糸、その先にはこの前は発見できなかった蜘蛛がいた。

【シルキースパイダー:レア度2:追加情報>シルクのような光沢のある糸を紡ぐ魔物。小型で見つけにくい】

 目が合ったけど、これ、どうすれば……。

 なんて俺も相手も固まっていると、シルキースパイダーはそっと悟ったかのように腹を向けて引っくり返った。

 いやいやいや、好きにして!! みたいな感じだけど、どれだけテラリウムの中の生き物は創造主おれに甘いんだよ。


 そっと近くの葉に乗っていた【シルキースパイダーの脱皮殻】を採取して試験管にしまった。

 森のテラリウムにも植物だけじゃなく生き物が戻ってきているのが嬉しい。


 枝を回収してそっと茂みから顔を上げると、紫紺がまた投げて投げてって顔をしていたので放り投げる。

 紫紺は俺に構ってもらって満足したのか、尻尾をふりふりしながら草の間で休憩していた。

 俺は採集に戻り、素材を集めていく。

 ボルボルの実や薬草類をしっかりと採集できたけれど、もう少し他も探したい。

 紫紺を影にしまうと首にぶら下げたホイッスルを吹いてワールを呼び出す。

 さすが風になりたい鹿。すぐに走って来た。

 まだ風になる覚悟がない俺はビビりながらワールの背にしがみ付くと、タッタッタッとほどよく配慮して走ってくれた。


 少し奥に行けば小さな泉が湧き出ている場所に到着した。

 テラリウムの中、俺が箱庭の球体の中に作った世界よりも広くない? なんて事を思いながら、その周辺で素材を探す。

 影から飛び出た紫紺はふんふんと匂いを嗅いでとてとてと走っていった。

 まぁ、そんなに遠くはいかないだろう。

 ワールは泉の水を飲んで薬草類を食べている。

 

 【麻痺草】に【促進の薬草】なんて素材も見つける事が出来た。

 これがあれば麻痺系の状態異常薬なんてのも作れることができるかな。

 にこにこと採集していると、指先に何かが触れた。

 コロンっとした丸みのある球体。

 【鳥魔の卵:レア度2:追加情報>鳥魔の卵、濃厚で美味】

 

 卵来たーー! しかも美味! 食のレパートリーが増えるぞ!!

 でも親鳥がいるんじゃ……ってきょろきょろとしていると一抱えできそうなでっぷりとした鳥が近くにとまっている。

 目が合った。

 お、俺には倒せない……。

 なんて思っていると、ついて来い、なんて言っているようにゆっくりと歩き出す。

 

 鳥について行くと鳥魔や見かけない美しい鳥の巣に到着した。

 複数の鳥が集まっているようだ。

 それぞれ小さな巣がいくつもあり、その中には卵が何個も生まれていた。

 俺はその中から取りすぎないようにと卵を幾つか頂き、試験管に巣に落ちていた羽毛を採集していった。


 様子を伺っていた鳥たちはそれだけでいいの? なんて顔で見てくる。

「ありがたく分けてもらうな。この素材で別のテラリウムでお前たちの巣を作らせてもらうからな」


 このテラリウムの中、卵が先か鶏が先かわからないけれど、命が芽吹き生物が生まれている。

 ありがたく分けてもらおう。その代わりに俺に出来る事は何があるかを模索していこう。


「魔力水の噴霧、あれだけは必ず続けて行こう。きっとそれだけでも違うと思うから」

 ほくほくと卵を撫でて水辺に戻ると、きゃふきゃふって可愛い声がした。


「お待たせ紫紺、また遊んで欲しいのか」

 な、なんて声を掛けようとしてぎょっとする。


 その小さな身体の隣には、ワールほどの大きさの牛や羊、イノシシに似た生き物が倒れていた。

「きゃふきゃふ!!」

 元気いっぱいしっぽを振っている紫紺は「褒めて褒めて!!」って言っているみたいだ。


【イノリウシ】【モリノヒツジ】【イノリシシ】と鑑定で出て来た魔物は、祈りの森の浅層でみられる魔物だ。


 紫紺、思った以上に狩りが出来るのな。



 

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