第42話 納品準備
「し、死んでる!!」
なんてぎょっとしたように倒れている魔物を見て引いた俺は、紫紺の「褒めて~~」な輝かしい顔にしゃがみ込んで紫紺を抱き上げる。
「紫紺さん、あの魔物はこのプリチーな君がやったのかい?」
「わふ!!」
どこにそんなポテンシャルが……ってこの子まおー種だったな。
とその時、頭上に影が横切る。
上を見れば大きな鷲のような魔物が空を飛んでいた。
あ、大きい……なんて思う間もなく紫紺が吠える。
「きゃん!」
地上に落ちた魔物の影から細長い帯のような闇が空に伸びて、その胴体を貫いた。
ドサッと目の前に落ちてくる怪鳥。
「きゃふ!!」
褒めて~って顔。
そういや、闇の魔法が使えるんだっけ??
あああ俺が狩れないから従魔が狩る、でもいいのかな、いいのか! 良しにしておこう!!
「紫紺、やりすぎはいけないけど、ありがとな」
褒めたら紫紺の顔がぱあああっと輝いた。
「きゃん! きゅふきゅふ、くぅん、きゃふ! きゃふきゃふ!!」
困った時の、冒険の書頼り。
『カリ、ホショク、ホンノウ! ダケドカリ、ゴシュジンサマヨロコブ、シアワセ、シアワセ~~!! との事です』
な、なにこの可愛い生き物!!
うわああ、やりすぎはちょっとダメだけど、ほんのちょっとなら……。
「この森も魔物はたくさん増えると思うし……少しなら……」
うん。解体は、ギルドに任せよう。ベクターさんたちに丸投げだ。
紫紺を地に降ろして、大鳥の鑑定を行う。
【イノリノトリ:レア度3:追加情報>祈りの森の中層で見られる魔鳥。心臓部には良質な風の魔石を有す。空高く飛翔するため狩りにくく、その肉は非常に美味】
美味……。焼き鳥……。なんて昼前な為か、じゅるりとしてしまう。
先ほど紫紺が狩った魔物の毛の一部を貰い、試験管の中に採集した。
この魔物たち、マジックバックに入るのか……?
というか、ギルドに納品する時には、納品用のマジックバックに移し替えないといけないんだけど、そもそも入る?
一旦ギルド納品用のマジックバックを取り出す。
大きめの革袋みたいなやつに鳥の頭を少し突っ込む。
するすると袋の中に魔物が吸い込まれていった。
おお……。
【イノリウシ】【イノリシシ】までは入ったけれど、【モリノヒツジ】は容量がいっぱいになったのか入らなかった。
仕方なく、そちらは自分のマジックバックに触れさせると中に入っていった。
「ギルド納品用のマジックバックは入る量が限られているのか……」
納品用には時間停止が付与されていないので、そのマジックバックごと自分の鞄の中に入れる。
女神から初期装備として持たされたマジックバックほどの利便さは無くても良いけど、他にもマジックバック類は欲しいなぁと思ってしまう。
【時間停止】【質量保存】に関する魔法とか魔道具とかあれば作る事ができるのかな??
ひとまず今日ギルドに納品しようと思った品は手に入った。
森のテラリウムの中での採取はこれで十分かな?
「紫紺、森の中楽しかった?」
「きゃふ!!」
とっても! と言っているみたいで良かった。
この森の中なら、少し俺が離れても不安に尻尾をくるんってしないみたいだ。
紫紺にはここが俺の領域だとわかっているみたいだった。
「あとはワールだけど……げっ」
風になりたい鹿は泉の淵で震えて座っていた。
紫紺の方は見ないようにしている。めっちゃ怯えてる。
ああ……魔物を倒すところ見ちゃうとそうなるのも当然かもしれないな……。
紫紺に影に入るように促してピーっと笛を吹くと、ワールはよろよろとこちらを見て、かくかく震える足を立たせて向かってきた。
しゅるんと笛に吸い込まれる。
なんか、ごめんな。
大量の収穫があった俺はテラリウムを出る事にした。
【森のテラリウム:普通】
成熟度☆☆
採取できる素材の確認(22/35)
採取できるレア素材の確認(1/10)
▶テラリウムから退出
ぐにゃりと元の場所に戻ると、丁寧に森のテラリウムにコルク栓をして棚に戻す。
紫紺が影からにゅっと出るとまたぴょこんと俺のまわりをうろうろし始めた。
時間は一切経っていないけれど、ちょっと疲れたな。
お湯を沸かして休憩がてら、納品物の準備を行うことにした。
お茶……珈琲とは贅沢言わない……お茶欲しい……。
白湯をカップに入れて、清水を紫紺用の器に入れる。
ぴちゃぴちゃとすごい勢いで飲み始めたから、紫紺も喉が渇いていたのだろう。
俺は座って鞄の中から薬草類とギルド納品用マジックバックを取り出す。
ボルボルの実×20
止血の薬草×20
消毒の蔦×20
解毒の薬草×20
魔物避けの花×20
魔力草×20
促進の薬草×20
イノリゴケ×1袋
カラクルの木の実×1袋
麻痺草×30
睡眠草×30
神聖結晶×25
黒色結晶×25
紫雲結晶×10
青雲結晶×10
鏡幻石×1
それぞれ種類ごとに細い蔦でくくる。
実はそれぞれ10本ずつくらいストックを作っているので、当面の研究には困らない。
結晶類はまだ俺には使い道が無いので、試験管に採取した物以外は納品することにした。
これらは魔物に比べたら質量は多くない為なのか、納品用のマジックバックに全部入った。
そこまで仕分けが終わるとボルボルパイの残りを紫紺にも渡しながら、一切れずつ食べる。
旨い……。労働の後の甘い物最高。
ふと、ワールの事も気になったが、後で水とかあげたらいいのか。
休憩も終わったので、マジックバックに入れっぱなしだった魚の入った罠袋を取り出す。
これも納品してしまいたいけど……その前に一つにまとめておきたい。
風呂場の桶の中に、水ごと入った魚をひっくり返す。
一緒に付いてきた紫紺も目を輝かせている。
「これは突いちゃだめだからな」
「きゃふん」
うーーーむ。俺のマジックバック、生きたまま魚が入ったぞ。
……深く考えるのはやめておこう。
5袋の罠の中にそれぞれ5,6匹入っていた。
4種類ぐらいの魚の鱗を少し削らせてもらって、試験管に採取する。
残りは大きな袋に水ごと入れて、きゅっと縛ってマジックバックに。このままギルドマスターに渡して捌いてもらおう。
後片付けを終えると出かける支度をし始めた。
マジックバックにはいっぱいの納品物と冒険の書。傍らには従魔の紫紺と騎乗用のワール。
たった一日なのに、旅の道連れがいっぱい増えた。
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