第24話 テラリウムからの贈り物


 テラリウムから脱出すると、俺は小さな球体を片手に覗き込んでいる姿のままだった。

 ……結構時間かけて探索してきた様子だったのに、本当に外では時間が経っていない。

 キュポンと【森のテラリウム】にコルク栓をしめて、棚に戻す。

 そうして、ドキドキしながらマジックバックを漁った。


 コトリ。

 最初にボルボルの実を取り出した。次は癒しの薬草、回復の薬草、寒冷草……テラリウムで採取したものは全部採取した数量分入っていた。


「まじかよ……このテラリウム、凄すぎるんじゃないか……?」

 しかも成長に必要なのは魔力水を吹きかけるだけって凄すぎないか?

 どれだけ有効なんだ??


「これをギルドに納品すれば、依頼達成って事で生活資金を稼げるんじゃないだろうか……?」

 やったー! 初期軍資金にずっと頼る訳にもいかないし、これで生活していけるぞ!


 ……て喜んだけれど。

「いや、この呪いの風の影響で黒く染まった森でどうやって採取したんだ、って突っ込まれるよな……」

 この前の石はもともとどこかで採掘しただろうって誤魔化せたけど、さすがにボルボルの実とか祈りの森の固有種だから怪訝に思われるよな……。うーん。

 俺が腕を組んで唸っていると、冒険の書が光った。

『祈りの森のギルドに確認することを推奨します。冒険者は独自の採取場所を秘匿する権利を得ています。交渉次第では引き取ってくれるのではないでしょうか』

「え、そんなに上手くいくかな」

『貴方様の目的は継続して・・・・素材を納品する事、ギルドは長期的に・・・素材を調達する事。利害は一致していますので、この部分で上手く交渉する事が出来れば可能だと思います』

「……素材を独り占めしてって言われない?」

 人と競争したり独占を疑われるのはちょっとしんどいな。

 じっと根から採取した薬草を見る。

 

「まてよ、このテラリウムで採取した素材って、森に植えたら生えるかな……もし植樹に成功したら、少しだけでも薬草が森に増えないかな……?」

 試してみる価値はあるかもしれない。

 他の冒険者が薬草を採取できるようになれば、独占を疑われないだろうし。


『……質問があります』

 冒険の書が戸惑いがちに光った。

「え、珍しい。俺が聞くばかりだったのに」

『テラリウムで採取された素材はテラリウムの創造主たる貴方のものです。失われた素材も貴方だから採取できます。貴重だからこそ独占権を行使して多くの財産を築くこともできます。なぜ他者にも分け与えるのですか?』

 心底不思議と言った感じで冒険の書に問われた。

 

「ええと、そうだな。確かに冒険の目的が財産を稼ぐって人はいるかもしれない。けれども、うーんとなんと言ったらいいのかな。俺は一人で稼ぐよりも、周りも少しでも楽になったらいいかなって。だから『俺に出来る事はなんだろう』ってつい考えちゃうんだけどさ。確かに、俺しか薬草を採取できないから値を上げることは可能だと思う。だけど、そうするとどうしても薬草を使った商品とかの価格も上がっちゃうからさ。金を持つ人しか入手ができないのは、ちょっと嫌なんだよね。それよりも、素材とかは手ごろな値段にして、そこからいろんな薬品や商品が生まれて、それで市場に出回って皆が潤って、いろんな人に、それこそ必要な人に薬や品物が取引され続けるほうがいいっていうか……なんというか……」

『貴方はお人よしと言われませんか?』

「うっ」

『しかもそれで損をしたりしていませんか?』

「見て来たように……うん、まぁ、そうだね。損はするかもしれないね。裏切られる事も。でも、裏切るよりはましかなって」

『……肯定します。貴方の冒険です。貴方の生き方を私は尊重します。【固有魔法:テラリウム】は非常に地味な魔法です。女神様も適当に要素を混ぜ入れて製作しただけで、ここまでの能力があるとは考えておられませんでした。……貴方だけの固有魔法です。唯一無二のもの。劇的に世界を救う魔法ではありませんが、その効果はこの滅びゆく世界で一つの救いの芽吹きになるかもしれません。テラリウムの能力を存分にお使いください。私の知識も存分にご活用ください。それが、貴方の未来の繋がるのでしたら、幸いです。私は貴方の冒険を見続けていきたいです』

 

 なんか、冒険の書、ちょっと字がぼやけてない? 潤んでるの??

 そして女神、適当にこの固有魔法作ったのか、想像していた通りだけど。

 仕事が雑過ぎる!!

 

 まーでも、ちょっと夢があるじゃないか。

 地道な作業のその先に、祈りの森に昔みたいに薬草が生えて、名物料理ボルボルがまた再び食べられる日が来る、なんて夢がさ。

 

「よし、今日は明日町に行ったときに売る素材の調達と、採取した薬草が外で育つかの実験と、せっかくだからこの固有魔法のテラリウムの熟練度を上げる事を目標にしようかな」

 

 あと、明日は町に週に一度の商人ギルドから仕入れがある日だから、ついでに色々と見てこよう。

 珍しい魔道具なんかも手に入るかもしれないしな。

 

 何をすればいいかが分かれば、わくわくしてきた。

 昨日は終わりゆく世界ってしんみりしていたのに、人は単純だ。


 やりたい事が見えてきたら少しだけでも希望が見えてくる。

 

 テーブルに並べた素材の中からボルボルの実を手に取った。

 テラリウムからの贈り物。

 たくさん活用しないとな。

 


 

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