第8話 近くの町へ


 おお、やっと近くの町に行くことができるのか……!


「え、あの、質問なんだけど、この世界の人ってどんな感じなんだ? 俺が行くと浮いちゃったりしない?」

 そうだ。この世界の人が俺と同じような外見とも限らない。

 言葉が通じるかという問題もあるしな。

 うーん、その場合は文字は読むことができるから、なんとかコミュニケーションは取れる……のかな?


『この世界での標準人族は貴方と似た種族です。また、他にも獣人族、精霊族、妖精族、魔族など多種族が共存していました。言語についてはこの世界に降り立った瞬間に同化済です。初期軍資金については価値の変わりにくい鉱物類を鞄の中に入れてありますのでそれを換金してお使いください』

 獣人! って聞くとものすごく異世界に来たってテンションがあがるけれど、標準人族が俺と近いのはありがたい。

 初期軍資金とかも用意してくれている所をみると、本当に手厚いんだよな。

 マジックバックを探ると小さな革袋が出て来た。

 革紐をほどいて中の石を幾つか取り出すと、小さめながらも綺麗な鉱石や宝石類が何粒も出てきた。

 この世界の相場がわからないけれど、確かにこれなら金品と交換できそうだな。

 軽い朝食……つまみの中に入っていたチーズ類やナッツを食べる事にして、キッチンはつまみを捻ると火が出る仕様だったので備え付けてあった小さな鍋で水を沸かして白湯にして飲んだ。

 味も何もしないただの白湯だけど、温かい飲み物が身に染みわたる。

 昨日からつまみ系しか食べていないからちょっと飽きてきた。

 小腹を満たした程度だけれど、これから町まで歩いていくなら腹の中に何か入れておいた方が良い。


 無限に涌き出てくるビール入りの水筒は便利だけれど、水とかも持ち運べるものがあると良いなぁとマジックバックをごそごそと探すと、革製の水袋みたいなものも出てきた。

 ……まって、このマジックバックなんでも入ってない?

『女神様が、使わなくなったものを全て入れておいたとのことです。貴方にとって必要なものが入っていてよかったです』

 おい女神……チュートリアルの書に書き込まれたテキストについ突っ込んでしまう。

 この場合は滅茶苦茶ありがたいけれど、適当にぽいぽい不要なものを詰め込む女神の姿が容易に想像できる。


 ま、ありがたく使わせてもらおう。


 水袋は中身がからだったので、軽く水洗いをして台所の水を注いでいく。

 ……水袋はぷくりと膨れるけれど、水をどれだけ入れても溢れることはない。

 これもしかして……。

【水袋レア度8:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】

 鑑定が雑魚過ぎてどんな内容なのかがわからない! いちいち食べらられるかどうかのテキストいるかな!?

『【底無しの水袋:レア度8】中にどれだけでも液体を貯めることができる水袋です。適量取り出すこともできます。似た魔道具として【底無しの袋:レア度8】も存在し、マジックバックの中に入っています』

「女神……いいアイテムめっちゃいれてあるじゃん……」

『どうやら女神様が神々の七福神福袋を大人買いしたところ、同じアイテムが被ったようでして……』

「え、なに……神様の福袋とかあるの……なんで女神ちょこっと所帯じみてるの……まぁ、飲み水が確保できたのはありがたい……」

 質量もそんなに重くないが、このぐらいで良いだろうときゅっと水袋の蓋を閉める。

 

 隠れ家は外に出てドアノブを閉めた瞬間に選択肢が表示された。

 開けたままにする事や所有者だけが入ることができる設定、任意の対象だけ中に入ることができる設定などもできるみたいだった。

 とりあえず施錠と隠匿を選んだので、これで俺が帰ってくるまで誰もこの家を見つけることも入ることもできないみたいだ。


 さて、チュートリアルの書が町の方向に印をつけてくれている。そこに向けて俺は再び【鑑定領域】と【鑑定】を続けながら進むことにした。



 町までは歩いて二、三時間ぐらい掛かっただろうか。途中で休憩を挟みながらだから少々わかりづらいけれど、素材採取と休憩なども挟みながらだったので、余計時間がかかった印象だ。

 森は見事に黒く染まり、生命の息吹が感じられない場所のままだった。

 何か動物に襲われたり、変な虫に刺されたりしないかという心配がない代わりに、音も気配も不自然に切り取られたような自然は不気味だということに改めて気づかされた。

 途中古びた道や苔むした看板などがあったが、それに添うように進んでいくと、森から出ることができた。

 鬱蒼とした黒い森から出ると少しだけほっとした。目の前には平原が広がり、その道をずっといくと小さな町がある様子だった。

 平原には【???】がたくさんあって、思わずやったと思ってしまう。

 朝起きたら素材調達用の試験管は20本真新しいものが腰のベルトに装着されていたので、片っ端から鑑定と採取を繰り返した。

 まだ熟練度は上がらない……鑑定の熟練度が上がるのは相当苦労しそうだ。


 チュートリアルの書に『もうそろそろ町に行ってみてはどうでしょうか?』と言われ、はっと我に帰る。

 ゲームでは良くやっちゃうよね。次の町に行く前の寄り道が楽しすぎてシステムメッセージで苦言呈されるの。

 はじめての町ということでドキドキしながら町に向かう。

 というか、もし門番とかに身分証明書の提示を求められたらどうしよう……。

 という心配は、町についてなくなっていた。


「わぁ、寂れた町ですね……」


 町の門は開かれていて、町の中に入っても誰もいない。

 寂れたどころか店まで閉まっている。

 人も動物も気配すらない。


 いやいやいや……第一町人にもお会いできないなんてことは想定していなかったんですけど!?

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