第7話 新しい家
さすがに完全徹夜での制作作業はヘロヘロになってしまったが、一度やり始めると止まらないもので……。
少しやったら寝るはずが、内装の一階部分、二階部分、挙句に屋根裏部屋まで制作しておまけに屋根まで付けて完成させてしまった。
ドールハウスとはいえお風呂やトイレ、寝室にキッチンまで小さな仕掛けがいっぱい詰まった本格的なキットだったので、カンテラで手元を照らしながらついつい頑張ってしまった。
あぁ、朝日が眩しい。
もう仕事に行くこともない、なんて思えばこうして趣味に没頭することもまた第二の人生としていんんじゃないかなって気がしてくる。
完徹ハイのせいとかじゃない。妙にハイテンションになったりしてない。
「さすがに……もう眠るか……今なら明るくても眠れそう……」
ふらふらとしながら水筒とおつまみセットと灯を消したカンテラをマジックバックに仕舞うとドールハウスを……寝ぼけて壊さないようにと布を引いて少し離れたところに置いておく。
マジックバックの中に戻してもいいけれど、一度ちゃんと接着剤を乾かしておきたいんだよな。
そうして俺はマジックバックを枕代わりにすぐに眠りの世界に落ちていった。
太陽が真上になれば日差しが眩しくて目が覚めるかと思った。
けれども直射日光は顔に掛からない。
ん……寝ぼけてマジックバックから頭を上げると、目の前にはコテージのような隠れ家が建っていた。
「え、いつの間に……。俺、人の家の前で寝ぼけて……」
いや、ぐるりと見渡せば昨日眠った場所で間違いない。この周辺だけ木がないのも確認したばかりだ。
ぴらりと落ちていた布は、昨日作ったドールハウスを乗せていた布に違いない。
「うそ、昨日俺が作った隠れ家的なドールハウス?」
その時チュートリアルの書が光った。
『おはようございます。良い朝ですね! 昨夜頂いた女神様からのプレゼントは気に入りましたか?』
「やっぱりこのドールハウスは昨日女神が押し付け……いや、くれたものなのか」
『【神秘の隠れ家:魔女の薬屋風ドールハウスキット】製作者を主と認識する魔道具の一つです。室内の質量を損なうことなく圧縮して持ち運ぶことができる隠れ家です。現在隠匿の魔法は掛けられていませんが、人や魔物から認識されないように設定することも可能です』
「め、女神……あんた……」
昨日は買ったはいいけど作らなかったキットを寄越しやがって……なんて思ってごめん。きちんと使える物だった……。
荷物を持って隠れ家に入る。
不思議な事に外装に比べて中の方が広く感じられた。
一階には魔女の薬屋がコンセプトのように、木製のカウンターがあり、後ろには薬棚があった。
まぁ、俺が昨日ちまちまと製作したものだけど。
1階には店となっている部分と奥にはトイレとお風呂、客間、キッチンと小さなダイニング。
2階に向かう木をくり抜いて作った階段があり、そこを登れば寝室と書斎がある。
書斎には本棚と小さな机があり、そこで色々と制作ができそうだ。
大きめのベットがある寝室には隠し階段があり、それを使えば屋根裏部屋に登れるようになっている。そこでは満天の星空を見ながら眠る事もできるようだ。
そして何よりも感動したのは……。
「嘘だろ!? 無尽蔵に飲み水が出る!」
キッチンの蛇口をひねれば水が出たという事だった。
【清水:レア度3:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者でなくても飲める】
しかもキッチンだけではない。
トイレもどういう魔法を使っているのかわからないが、水洗トイレだった。
もうそれだけで神に、いや女神に感謝した。
「俺、この家と結婚する……」
人にも魔物にも見つからないならここで生きていけるじゃないか……。
『ちょっと私という物がありながら!』
チュートリアルの書が微妙にメンヘラったので、マホガニーのようなつやつやなカウンターにぺたりと頬をくっつけていたのを慌てて離す。
「なるほどなぁ。店仕様なのはちょっと使い勝手の判断がわからないが、この後ろの薬品棚は役立ちそうだな」
扉を入ってすぐのカウンターの後ろは薬品棚になっていて、一つ一つの薬品がおちないように木枠で囲われていた。
どうやらこの大きさ。昨日作っていたテラリウムが並べられそうなんだよな。
試しにマジックバックの中から昨日作ったテラリウムを取り出す。
テラリウムの中を覗くと昨日の魔力水の噴霧が効果的だったのか、木々がつやつやとしていた。
それをカウンターの後ろの薬品棚にコトリと収めた。
「すごい、テラリウムがぴったりはまる。ここに並べていくのも壮観だな……」
薬品棚は縦五段、横十段が収まるよう作った。
そこに作ったテラリウムが一つ一つ並んでいくのはなんだか浪漫がある。
オプション機能なのかわからないけれど、薬品棚にはテラリウムを置いた場所に【森のテラリウム】と文字が浮かび上がってきた。良い感じだ。
「ひとまずこの場所で良いのかという問題はあるけれど、生物が存在できない土地なら、少なくともこの森の奥まで侵入してくる敵はいないって事かな……」
それに魔物もこの家を認識することができないそうだ。
とりあえずここを拠点に色んな素材の調達とテラリウムの作成を当面の目標にしてみるか。
それにしても……。
くるるるっと腹の虫が鳴き始めた。
やっぱり腹はすくよなぁ。
『さあ、この世界の二日目が始まります。次は町に向かってみましょう』
チュートリアルの書の文字が踊るように、次の道筋を指し示してくれた。
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