第16話 祈りの森と呼ばれた場所で
太陽の位置から推測すると、今何時ぐらい……なんて言えたらよかったんだろうけど、そんな知識はないのでなんとなく午後3時ぐらいなのかな、なんて思っておく。
日はまだ落ちていない時刻、黒い森の中に作った隠れ家に向かって歩いていく。
行きは鑑定しながらゆっくりと歩いていったけれど、残念ながらもう腰のベルトに付けた試験管20本は素材で一杯になっている。
帰りもついつい【鑑定領域】を唱えてしまって、【???】の文字を見るたびにぐぬぬぬと回収できない素材に歯噛みする。
まぁ、鑑定だけし終わっても採取できていないものは文字の色が変わるから後日取りに行けばいいんだけどさ。
森から町までの広い草原はまだ岩場や木々など探索が終わっていない場所もあるから今後の楽しみとしておくとしよう。
思わず素材を採取しそうになるのを我慢して、森の中は地図を片手に【箱庭の球体】を作る素材の【ケーシャ石】が堆積している川や隠れ家がどこにあるのかを
『警告! 私という物がありながら! そんな薄っぺらい地図を片手にだなんて!』
なんて文字が虹色に光り出したチュートリアルの書をマジックバックの中に捩じ込みながら、俺は黒い森を歩いていく。
地表は黒い草に覆われ、木々も黒い木が森を覆っている。
昔この森は『祈りの森』と呼ばれていて、動物や薬草だけでなく魔物や毒草、ダンジョンなんかもあったというのだが、想像が出来ない。
ただこの音の無い生命の死んだ森には、昔たくさんの生き物たちがいたという事がなんだかとても寂しく感じる。
「呪いの風って本当に何だろうな」
ギルドマスターの
割と重要な案件だと思う。
途中喉の渇きを覚えた時には、岩に座って朝水袋に汲んだ清水で喉を潤す。
そうして少し休憩しながら地図で町から来たルートを確認し、森の奥へと進んでいく。
休憩の時にベクターさんから貰ったこの森の詳細情報を読んだが、この森は初心者から中級者の冒険者向け探索地だったみたいだ。
町から入ってすぐの森の浅層では
寒冷草やイノリシシなどは森の中層に生息しているので、ギルドレベル2に上がる為の試験は、その辺りの討伐や採取を課せられるらしい。
森の深層には祈りの森のダンジョンや結界で守られた禁域があるそうだ。
禁域は森の精霊から派生した祈りの森の民がひっそりと生息している為、祈りの森の町リンドウの冒険者ギルドで上級者として認められた者しか足を踏み入れる事が出来ない。
その為に禁域にしかない貴重な素材などは、祈りの森の民との交渉で得る事が出来る。なんて事が書かれていた。
けれども、この様子だと森の中層から深層にかけて……下手したら禁域と呼ばれる場所でさえ黒い森が広がっているのかもしれない。
そこに確かにあったこの世界の冒険は、すでに事切れている。
「俺がこの場所に降り立ったのは何か意味があるのかな」
女神は使命は何もないと言っていた。
だけど、本当に俺に出来る事は何もないのだろうか?
「なんて言ってみても、ただテラリウムを作成するだけの能力しかない男に何ができるんだろうなぁ」
戦闘力は一切ない、鑑定スキルも上がりにくい。
今こうして森の中を進む事が出来るのは、生命がいない森……外敵がいない場所だからこそ。
チュートリアルの書やマジックバックに頼らないと生活すらままならない。
――けれども。
「第二の人生をこの場所で生きるのなら、自分ができる事を見つけてコツコツやっていきたいよな」
だから俺は、そのひとつとして、地図を見ながらこの森がどんな森だったのかに想いを巡らせながら散策していったのだった。
しばらく歩いていると辺りが少しだけ暗くなってきた。
日の入りも近いだろう。
「やっと昨日見つけた小川に出た! ケーシャ石を採取した場所だ」
地図で確認すると、『祈りの森の小川』と書かれていた。この場所から先が丁度森の中層に至る様子だった。
ということは、昨日隠れ家を設置した場所も、森の中層という事になる。
あと少しで隠れ家に行けると思うと、なんだかそれだけでほっとし始めてしまった。
思った以上にあの家を気に入っていたのかもしれない。自分で組み立てた家だしな。……ミニチュアドールのハウスの時だけど。
そう思えばあと少しだからと気持ちに余裕が生まれる。
鑑定スキルを上げるのはこれからの目標だとは言え、適性があればレベルが上がりやすいのなら、【固有魔法:テラリウム】を極めていくのもありなんじゃないかなって。夜寝る前に時間があったら箱庭の球体とテラリウムの作成を頑張ってみよう。
その為にもあれが必要だよなと、マジックバックをごそごそと探って【底無しの袋:レア度8】を取り出す。
確か朝に底無しの水袋と同じようなアイテムがあるって言ってたんだよな。
そこにざくざくとケーシャ石を詰め込んでいく。きらきらとしたこの石があれば【テラリウムの球体】がいくらでも作れるから素材が単一なのは本当にありがたい。
ま、失敗もいっぱいするんだけどね。
けれども昨日最後の方に掴んだコツを定着したい。
その為には練習あるのみ!
「いや、球体作るのだけだと厭きるから、やっぱり一つぐらいテラリウム作りたいな」
なんだかんだといって、こういったコツコツとした工作が好きなんだよな、俺。
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