第3話 固有魔法テラリウム:素材調達編


 そもそも俺のやっていたテラリウムというのは、休日に苔とか小石とかを小さなガラス製の器に入れて、小さな箱庭を作っていく……女神に地味と呼ばれた趣味だ。

 

 それが固有魔法ってどういうことだろう?


『貴方にしか使えない【固有魔法:テラリウム】は様々な性質を持つ箱庭を作る事が出来ます。素材と箱庭の球体を組み合わせる事でテラリウムを作る事が出来ます。素材はこの世界にある様々な物質が資源となります。色んな素材を集めて多彩な世界を形作ってください』

 素材調達……ひとつひとつ性質の違うテラリウム……。

 実はモンスターを討伐するゲームでも、戦闘よりも農場を開発したり、モンスターそっちのけで素材を調達するのが好きだったんだよな。

 この世界にいきなり放り込まれたけれども、なんだかワクワクしてきた。

『まずはテラリウムの素材を採取しましょう。貴方の腰に装着しているベルトの試験管に素材を採取すると、チュートリアルの書の素材一覧が埋まっていきます。素材の入った試験管はマジックバックの中に入っている素材入れに溜めていきましょう。ベルトに装着してある試験管は使い切っても大丈夫です。翌日にはまた初期セットの空の20本が補充されます』

 素材調達用のベルト便利!!

 へぇ、つまりどれだけ新しい素材を調達しても別の素材を入手するために開けないといけないって仕様ではないのか。

 うんうん、結構クラフト系のゲームとかだとすぐに容量がいっぱいになって、新しい素材どうしようって悩むものな。

 

「でも、このコルクの蓋の付いた試験管……どう考えても細いよな……。小石や砂とかは入れられるけれど、大きな素材はどうするんだ?」

 またチュートリアルの書に言葉が浮かび上がる。

『マジックバック内の革製のツールセットの中に素材調達の為の道具が入っています。一度このミノを使って岩を削り取ってみましょう』

 マジックバックを探すと革製のツールセットが出て来た。それを開くとピンセットや小さなハサミなどの道具が揃っている。ミノ……あった、これだな。

 良く見るのはミノを削りたい部分に当てて、上からトンカチみたいなので叩いて削るって方法だけど……。

 ひとまずこれで今座っていた大きな岩を削る事にした。


 ……俺、わりと力もないんだけど、大丈夫かな……。

 腰に差していた試験管を一本取り出し、コルクの蓋を取る。

 そうしてミノを軽く当てると……。

 凍ったアイスクリームを削るぐらいの柔らかさで岩が削れる。

 はっ!? 滅茶苦茶柔らかい……!!


 小さめに削ったものを試験管に入れてコルクの蓋を締めると、きゅぽんっと音がした。

 そうして試験管にラベルが浮き上がる。

【岩盤:レア度1】

 どんなものを採取したのかもわかるようになるのか。便利~!


 俺は楽しくなって、次から次へと周りに合った素材を調達していった。

【草:レア度1】

【黒草:レア度2】

【小石:レア度1】

【砂利:レア度1】

【木:レア度1】

【黒木:レア度2】


 結構集まったな。

 ん、草や木々は全て黒ずんでいたはずなのに、試験管の中に入れるとほんのり色が変わったりしている。

 もしかして、こちらの色が元々の色だったのかな。

 そうして、もしかして液体とかも素材になるのかと思い、試しに魔法の水筒の中に入っていたビールを試験管の中に入れてみる。

【ビール:レア度∞】

 おお、レア度が滅茶苦茶高いみたいだ。

 そうか、当然だな。ぐびびっ。この世界からすると異世界の飲み物だものな。ぐびっ。

 やっぱりこの水筒カラにならない。飲んでも自動でビールが補充されてる。最高か?

 ラベルをなぞると【質量固定保存:抗菌】と書いてあった。女神、ほんとこれはいい仕事した。

 

 素材が入った試験管が何本もできたので、さきほどチュートリアルに書いてあった素材入れの中にしまってみる事にした。

 ごそごそとマジックバックの中を探ると、試験管を何本も仕舞える専用の鞄があった。

「お、すごい。素材ごとに置き場所を変えれるのか」

 素材入れの鞄は岩や鉱石、液体、生物などの区分に別れていて、一目で見やすくなっていた。

 試験管をそれぞれの区分に仕舞うと、きゅぽんと再び音がして、今度は鞄の方にラベルが浮き上がる。

 これ、どこに何を仕舞えばいいかわかりやすくて便利だな……。

 こうして仕舞ってみると、空いた場所に再び何かを納めたくなる。

 ツールセットの中からミノなどの素材調達に適した物だけを取り出して、残りはマジックバックに仕舞う。

 俺はまた素材を探しに行くことにした。

 

 【鑑定】を近くにあったものに使ってみると、先ほど鑑定した時と色が変わっていた。

 なんだか灰色になってる。

 もしかしてと、少し歩いてから【鑑定領域】を使ってみると、【???】の色は黒字だ。

 【鑑定】を使うと【木:レア度1】と黒字になっている。

 木の幹を少し削って試験管に採取する。

 【木:レア度1】と今度は灰色の字になった。

 もしかして素材採取すると色が変わる仕様!? 便利!

 既存のものをもう一度採取することがなくなるし、本当に至れり尽くせりだな……。


 俺がわくわくとしていると、チュートリアルの書がぼんやりと光る。


『素材が調達出来たら、次はテラリウムの器となる【箱庭の球体】を作成しましょう』

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