第2話 異世界に降り立ってみたけれど
目を開くとそこは見渡す限りの黒い森の中だった。
「ちょっ女神!! サバイバル能力皆無な俺がこんな森の中で生きていけるはずがないだろ!! せめて町の近くにしてくれ!!」
なんて叫んでも、森はしんと静まり返ったままだった。
目の前でパンっと小さな破裂音がすると、ひらひらと紙が降ってくる。
『ファイト☆』
えええーー。
とりあえず持っていた鞄をぎゅっと抱き締めて、周りを見渡す。
黒い森との印象通りに木々はどす黒く染まっていた。
地面には草が生えているけれど、何か違和感を感じる。
「音がしない?」
これだけの森の奥深くだ。虫の音や風に葉が揺れる音なんてのも聞こえてくるはずなのに……。
まぁ、何かの番組で虫の
いやいや、普通に何の音もしない。
自分の恰好を見ても、こう当たり障りのない恰好と言うか、丁度西洋風ゲームの旅人のような恰好をしている。
ただ、腰には試験管が幾つも連なった革のベルトが付いていた。
背の高さも中肉中背の生前のまま……。二十代後半ってところだろうか。
うわ、せっかく女神にオプション付けてもらえるならもう少し格好良くとかお願いするんだった。
鞄の中をみると、チュートリアル用の大型の本が一冊。それと革製のぐるぐると巻かれた布地を開くとツールセットが納められていた。
あとカンテラと小鍋や小型ナイフなど旅に使えそうなお役立ち道具が一式。
あれ、とりあえず調べてみたけれど、鞄の大きさよりも入っている道具の方が容量多いんじゃないか?
もしかしたら容量がいっぱい入るマジックバックみたいなものかもしれない。
森の真ん中で立ち止まっていてもなんだか怖いし、少しだけ辺りを散策して休める場所を探す事にした。
見渡す限りの木々の群れ。
けれどようやく道みたいな場所に出ると、古ぼけた看板があった。字は掠れて読めない。
どうやら近くには人の住む場所もあるのかもしれない。
そういえばこの世界の文字や言葉は通じるのかな? これも後々調べる必要があるな。
しばらく道なりに進んでいると、大きな平らな岩が見つかった。ここでちょっと休憩することにした。
バッグの中身から水筒を取り出すと、中身は液体が入っていた。
腹を壊さないってスキルもあるし、一口恐る恐るちびりと飲んでみると、中にはビールが入っていた。
ビール!? え、うそ。最高じゃないか!?
ぐびっと飲み込むと、まさしく俺の好きな銘柄のビール。いつもは第三の安いビールしか飲んでいないけれど、中に入っていたのはたまに自分へのご褒美に飲むちょっとお高めの奴だ。
「嬉しいけど、普通は水じゃない!?」
女神、できる奴なのか何も考えていないのかわからないな……。
チュートリアルの書を開くと、この世界の文字なのか、よくわからない楔形文字が書かれていた。その文字の上に俺のわかる翻訳が浮かび上がる。
『ようこそ! フォーセイクンへ! この世界は勇者が魔王を滅ぼした世界です。自由に散策してあなただけの冒険をしてみてね。まずは周りのものを【鑑定】してみましょう』
鑑定! 鑑定ってあのなんだかんだ一番役に立つスキルじゃないかな!?
ナイス女神!
俺はそっと自分が座っている岩に鑑定を掛けた。
【鑑定LV1:大きな石】
鑑定内容が、雑い!!
し、仕方がない。こういうものだよ。いきなり草の名前がわかったりするわけじゃないって。ぐうう。
『【鑑定】は使えば使う程熟練度が上がります。熟練度が上がれば、鑑定で得られる情報が増えていきます。たくさん使って練度を上げてください。今は使う事が出来ないスキルでも、使っていくうちに熟練度があがることがありますので、挑戦してみてくださいね!』
レベルって表現がなんとなく元居た世界のRPGゲームみたいだなと思ってしまった。
『【鑑定】は【鑑定領域】も熟練度を上げておくと良いでしょう。【鑑定領域】と心で唱えてみてください』
鑑定領域? 俺は心の中で唱えると、ふっと身の回りの半径1メートルぐらいの間にピコンっと【???】という表示がいくつか出た。
『精神力を使って貴方を中心とした領域の中で鑑定できるものを表示しています。【???】は未鑑定のものですので、積極的に鑑定してくださいね』
なるほど、こうやって鑑定していくと得られる情報が増えて行くのか……。
そういえば精神力ってなんだろう?
チュートリアルの書の精神力と浮かび上がった部分に手を触れると、新しいテキストが書き込まれる。
『精神力とは頭を使った時や、集中した時に使う力の事です。この世界ではその力をマナという魔力に変えて魔法に使う者もいます』
魔法がある世界……ちょっとだけトキメキを感じてしまった。
とりあえず今この半径1メートルの間にある【???】を鑑定していく。
【草】【草】【岩】【石】【木】……すごい、ざっくりとしている。
レベルが上がればもう少し詳細がわかるようになるのか……。
鑑定自体は精神力はあまり使わないのか、今のところ【鑑定】【鑑定範囲】を使っても疲れは感じなかった。
試しに、さっき飲んでいたビール入りの水筒を鑑定する。
【鑑定LV1:筒>液体入り】
雑い!
『では、次にあなたの【固有魔法:テラリウム】のチュートリアルに入ります』
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