第5話 はじめてのテラリウム


『おめでとうございます! 【固有魔法:テラリウム】がレベル3になりました!』


 丁度5つ目の箱庭の球体を作り終えた時だった。

 え、どれくらい没頭してやっていたのだろう。

 失敗の個数は作る度に減って行って、30個失敗で1個成功という割合が20個、15個と減っていき、最後には10個に一つは成功するようになっていた。

 魔力を込めるという言い方で合っているかわからないけれど、無造作にぎゅっと詰め込むというよりも、ふわっと包み込むような形で力を籠めると成功しやすくなった気がした。


 大量に出た失敗作を小さなケースに詰め込んでいると、お腹がくるるっと鳴いた。

 ちびちびとつまみを食べていたけれど、さすがにお腹が空いたな……。

 ふとある事に気が付いて、ぞわりと鳥肌が立つ。

 黒い森に生物の存在しない川。

 草も木も黒い。果物なども成っている気配はなかった。

 食べられそうなものがないのだけど!

「女神様! 何か食べられるものとかない? あとビール以外の飲み物!」

 パンっと小さな破裂音がして、再びひらひらと紙が落ちてくる。

 

『ごめんね☆ 私の主食がお酒とおつまみだったから、それしか入れてなかったの☆』

「完全に酒狂いじゃないっすか」

 まだチュートリアルの書の方が使い勝手が良い……。

 くるるっと鳴いている腹をつまみでみたす。

「なんか食料の調達方法って書いていないかな……」

 チュートリアルの書が小さく光った。

『この世界での食料品の調達方法は3つあります。一つ目は森で獲れる動植物などを採取する方法:現在この森は黒の呪いにより生物が死滅状態。二つ農村で放逐している家畜を強奪する方法。三つ目は町などで貨幣で交換する方法』

「待って待て待って! 黒の呪いって何! 生物が死滅状態ってどういうこと!」

『三つ目の方法をご提案します。ただし、この森から一番近い町でも少し距離があるので、日が暮れる前の推奨項目としては寝床の確保とテラリウムの作成です』

 う、ううん。答えてくれない。まぁ、また何かの機会で聞いてみるか。

 つまみとビールで多少は腹が膨れたけれど、早く食料品の調達をしないと痛風一直線だ!


 ここはひとまず、推奨って書いてあるし、テラリウムでも作ってみる……か?

 人はそれを現実逃避と言うけれど。

 うん、できるところから始めてみよう。

 

 川から少し離れ、平らな石を見つける。

 そこに試験管を入れた素材鞄とツールセット、そして作ったばかりの箱庭の球体を広げる。

 最初はどんなテラリウムを作ろうかな。

 せっかくなので森の素材を使って森のテラリウムでも作ってみるか。

 球体は丁度手のひらに収まるサイズなので、そこに小さな森をつくっていく。

 まずは素材入れから森で採取した土。これどの種類かわからないけれど、三種類採取できたので、三層構造にしていく。

 試験管を傾けると、採取した土は思ったよりもたくさん入っていた。

 ……もしかして、『一度採取した素材は無限に取り出せる』なーんて仕様あったりする?

『ご明察ですね!』

 うわ、まじかよ。傍らに置いておいたチュートリアルの書が続きのテキストを書き記す。

『採取した素材は貴方の管理下にあります。必要に応じて取り出してください。また、箱庭の球体の大きさに合わせてサイズは適正に調節されます』

 サイズが適正に調節される? の言葉が良く分からなかったけれど、土を試験管からトントンと叩きながら量を調節してガラスの球体の下を土の層を作っていく。

 ツールセットはどうやら俺が生前使っていた物と似ている道具が入っていて、ちょっとここが使づらいんだよなって道具は使いやすいような調整がしてあった。


 球体のテラリウムは重心がしっかりとしていないと転がってしまう危険性がある。

 土の層を潰さないように道具を使って慣らしていく。

 採取した時には黒い土も、試験管の中では黒土、赤土、粘土、の三種の様だ。

 これにピンセットでラベルに木と書いてある試験管から木片を取り出そうとして……ふとその腕が止まる。

「サイズが適正に調節されるって、こういう事か」

 採取した時には木の皮をこそぎ取ったぐらいだったが、試験管から摘まみだす時にはテラリウムで使える様な小さな木になっていた。青々と生い茂るミニマムサイズの木。これはテンションがあがる!

 3、4本の木を植えていく。

 ついでに2種類の草を試験管から取り出して、丁寧に植えて行けば、森をぎゅっと濃縮したようなテラリウムが完成した。

 コルク栓を締める前に、草や木にちょっと霧吹きしておきたいなと思って何か使えるものが無いかをマジックバックを漁ると、見た事も無いようなボトルの霧吹きが出て来た。

 ラベルにはこちらの言葉で『魔力水』と書いてある。うーん、これをシュッシュとすればいいのかな。

 軽くテラリウムの中に霧吹きを吹きかけてコルクを締める。

 するとラベルが小さく浮かび上がってきた。【森のテラリウム:普通】

 普通か。うんうん最初は普通で良いんだよ。

「ははっやっぱり楽しいなぁ。こういうちまちまとした作業が向いているな」

 生前は仕事の合間に素材とか買い揃えて作っていたなぁ。

 

 テラリウム作りはやっぱり楽しい。

 

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