第6話 寝床の確保


 完成したテラリウムは何かに包まないと鞄の中で引っくり返らないかなと心配になったが、さすがマジックバック。入れた形のまま保管されるらしい。便利過ぎやしないだろうか。

 

 ひとまず寝床の確保……だけど、サバイバル経験が皆無なために、どうやって良さそうな場所を探せばよいのだろうか。

 うーん、こういう場合……この世界の存在が手助けしてくれたりしないだろうか。

 可愛い女の子、とか……しゃべる魔獣とか……。いや、せめてマスコット的な可愛い動物とか、なんかそんなのでもさぁ、いたりするだろ?

 手に持っていたチュートリアルの書が開く。

『私がいますよ!』

 でしたね! 女神様よりも心強い助っ人が!! お願い、ついでに何処に行けばいいのかも教えてくれないかな……。


 ピコンっと矢印が表示される。

『小川の近くで、平たんな場所があります。そこでならテラリウムの素材も調達しやすく、寝床としても適正でしょう』

 チュートリアルの書……なんていい奴なんだ……。

 矢印が表示された方向に向かうために、俺はゆっくりと歩きだしたのだった。


『おめでとうございます! 【鑑定】がレベル2になりました!』

 歩きながら鑑定をしていくと、丁度鑑定の熟練度が上がった様子だった。

 結構鑑定してやっとレベルが上がるのか。

 どれどれと石に鑑定を掛ける。

【石:レア度1:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】

 って待てーい!

 追加情報は食べられるかどうかの判断という大変サバイバルには有効な情報なはずなのに、神秘の胃袋ならどれでも食えるだろって雑い感じの情報しか書かれていない。

 草も土もどれも鑑定しても追加情報は【スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】しかなかった。

 鑑定した物の名前も雑な感じだし……レベル3になればもう少し使える事を期待しよう。


 矢印の場所にたどり着くと、そこは思った以上に何もない場所だった。

「わりと広い場所だな……丁度家が一軒分ぐらいのスペースがあるのかな」

 ここで野営しろという事だろうか。

「えーと、野宿する時には、薪に火を付けて暖を取って、食料……はまだつまみとビールで良いか。うー、手を洗ったりするためにも水は汲んできた方が良いのかな……」


『この世界に降り立って、一日目が過ぎようとしています。お疲れさまでした! 今日一日を生き抜いた貴方に女神様から特別なプレゼントがあります。どうぞ受け取ってください』


 おお、なんか、アプリゲームのログインボーナスみたいになっているけど、プレゼントは正直有難い。

 寝袋かな、それこそ今度は野営セットかな。


 ポフンっと現れた箱を慌てて受け止める。

 目の前のこれは……。


【森の隠れ家的魔女の薬屋さんキット】


 ミニチュアドールのハウスキットだった。

 いや、俺もこういうの組み立てるの好きだけど、このタイミングじゃねーだろ!!

 はっしかもこれ、木を板から外して塗料もしないといけない奴なんじゃ……。


 目の前でパンっと小さな破裂音がすると、ひらひらと紙が降ってくる。

『神通販で衝動的に買ってみたものの組み立てることなく押入れにあったから……きっと役立ててくれるんじゃないかと思って☆』


 女神ーー!! 扱いが雑過ぎるぞ!! 女神!!


 はぁ、っと溜息をつくと、マジックバックの中に入っていたカンテラにあかりを灯した。

 自分の隣にはおつまみセットとビールの入った水筒。

 味が濃いのと痛風さえ気にしなければ最強のタッグである。

 いやまぁ、やる事ないから組み立てるけどさぁ。


 女神の寄越したドールハウスキットは結構しっかりとしたものだった。

 完成したら隠れ家と森の魔女の店みたいなのが混在したようなドールハウスになるみたいだ。珍しい形で、最後は屋根まできちんと組み立てる仕様なのか。

 マジックバックの中を漁っていると、下に敷けるような布地があった。

 ふと夜になったら魔物とか盗賊とか襲って来ないかなってちょっとドキドキしたけれど、生命が死に絶えた森ならば、よほどの事が無ければここまで来る奴もいないだろうな、と真新しいキットを布の上に広げる。

 女神本当に買って満足しただけなんだな。封さえ開けてないのか。

 キットの中に入っていた木の板を取り出せば、うっすらと部品を取り外すための切れ目の入っていて、丁寧に切り離す。


 ふと、このキットの素材は何だろうと気になったので鑑定してみた。

【木:レア度8:追加情報>スキル:神秘の胃袋の所有者なら食べられる】

 滅茶苦茶入手が難しい木なんじゃ……?

 ぺきぺきっと素材を取り出して残った木枠を試験管に入れて素材として抽出することにした。

 

 素材の抽出は本当に欠片でも問題ないみたいなので、セットの中に入っていた端切れや接着剤なども素材として試験管に入れておいた。

「え、棚とかも全部作るのか。でもって、ソファーやベッドも布地を縫ったり接着剤でくっつけたり。割と本格的だなぁ」

 ドールハウスの箱には作り方の説明書も付属されていたので、それに従って作っていく。

 今日は色々とあったなぁ、とビールを飲みながら木の素材をやすりて丁寧に削っていく。

 素材を集めたり、ガラス球を延々と作ったり……。

 その後のテラリウムも楽しかったけれど……。


「俺……本当に死んじまったんだなぁ……」

 こうやって新しい世界で地に足を付けて生きているから正直あんまり信じられないけれど。

 元居た世界の記憶はぼんやりとしている。

 悲しみは波のように押し寄せてくるけれど、それもまたビールと共に胃の奥へと流し込んだ。


「はは、今日はこの一階部分の店のカウンターだけ作って眠ろう」

 眠れない夜には、満天の星空と孤独と趣味が心を癒してくれた。



 

 翌日。

 森に射し込んだ朝日が眩しい。

 完徹してドールハウス完成。


「あと少し、あと一部位って作っていたら、気が付いたら朝になっていた、なんてそんな……!!」

 

 

 

 

 

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